暗殺者
アンロッカーズの面々はユリウスからの襲撃に備え勢揃いしている。
ギュンターの「占い」により貧民街の盗賊ギルドへの入り口からユリウスの訪れることが判明していたため門前の広場にかがり火を焚き待ち構えていた。
『マルボロ様、ユリウスが現れたよ。スキルは「剣聖」「幻影の盾」「聖属性魔法」』
貧民街で待機していたマシューからユリウスの来訪と鑑定結果が届けられた。
「やっと来たか、もう夜中だぞ」
『シン!ユリウスを確認した。ヴォルフガングは任せる』
ユリウスはまるで友人にでも会いに来たかのように姿を現しおもむろに近づいてきた。
「へえ、君たちがアンロッカーズか。僕はユリウス・ヴェルナー冒険者さ」
「俺がマルボロだ。一応聞くがここへ来た目的は?」
みなは分別らしく二人を見守っている。
「兄の命令で君を殺しにね」
「なるほど、ヴォルフガングの命令なら仕方ないな」
ユリウスは嘆息とともに気落ちした様子で言葉を絞り出した。
「はあ、まさか君がここにいるとは……、今頃兄を始末してくれていると思っていたのに……」
「俺たちの中で最強の男を向かわせたから心配するな」
シンとまともに剣を合わせることが出来るのはサクラだけである。彼に任せておけば問題ないだろう。
「そうは言ってもそろそろ兄の命令に抗えなくなってきてるのだけど」
額に脂汗を滲ませながらユリウスが剣を抜いた。
「ヴォルフガングを殺るまで俺が相手をしてやる。みな手を出すなよ!」
俺はサクラを正眼に構えた。
辺りに剣戟の音が響き渡る。
「やはり君が行くべきだった!奴の根城の中では「大権強奪」の影響からは何人たりとも逃れることはできない!ただ強いだけでは勝てないぞ!」
『シン!殺れそうか?』
『ええ。少々時間がかかりますが問題ありません』
「問題ない!」
どれぐらい刀を打ち合っているのかわからないが徐々に押されはじめているようだ。やはり借り物のスキルでは本物には敵わないのだろう。
「まだか!このままでは君を殺してしまう!」
「それはどうかな?」
「アクセス」と「ロック」でサクラと接続し身体の主導権を渡す。
『サクラ!あとは任せた!』
『稽古をサボってばかりいるからこういうことになるのですよマスター』
『忙しかったんだよ!』
その効果はすぐに表れた。刀の振りが速いというより動きに無駄がない分手数が増えているといったところだろうか。同じ身体を操っているとはとても思えない。
先程とはうってかわってユリウスは防戦一方だ。サクラの一振りごとに追い詰められてゆく。
「くっ!」
片膝を着いたユリウスの首筋に刀を寸止めした直後、シンからヴォルフガング討伐の報がもたらされた。
「一騎打ちで負けたのは初めてだ」
「ヴォルフガングは死んだよ」
これまで心身ともに抑圧された生活を送ってきたのだろう。兄の死の知らせを聞いたユリウスは出し抜けに叫び声をあげた。
「僕は自由だあああ!!!」
俺の中のSランク冒険者のユリウス像が崩れ去っていった。
「ところでどうやって殺したんだい?」
『シン、ヴォルフガングの「大権強奪」の影響は受けたか?』
『はい。自分に手を出すなと命じられたので、家人を避難させた後で屋敷ごと燃やしました』
「屋敷ごと燃やしたそうだよ」
「……、そ、そうか……、そんな手があったか……」
ユリウスの顔は引きつっていたが、屋敷一つ灰になっただけでローゼン王国に安寧が訪れることを考えれば安いものである。
これからは王家が国の舵取りをしていくことになるが今より悪くなることはないだろう。
ヴォルフガングという紛い物の愚王がいないのだから。




