大権強奪
ネイサンの盗賊ギルド自治区へ戻り今後についての話し合いもとい雑談を行う。
「シュヴァルツハルト大公はわたしが育てた!」
言うと思ったよハコ。
「実際に育てたのは私だけどね」
あってるけどハコに対抗するなよお婆。
「これでわたしも大公夫人!ふふふ」
もう突っ込まんぞ!
「で、実際のところどうするんだマルボロ」
「僕は御屋形様が建国するのに賛成です!あと妻が妊娠しました!」
ん?お前いつ結婚したんだカイト。
「お、おめでとう、ところで妻って誰だ?」
「トーカです!」
まじかよ……、お前もう一人の自分とあんなことやこんなことしたのか……。
「大公が治める国だからシュヴァルツハルト公国になるのかな。それともモーリス公国にするかい?」
アレスが話しを戻した。
「勢いであんなことを言ってしまったけど大公になんてなりたくないんだよなー」
「リーデル殿が機転を利かせて明日もう一度協議の席を設けてもらえたからよかったものの、あれでは宣戦布告したのと一緒だぞ」
「アレスの親父さんを味方につけることはできないのか?」
「ゼルマン、それは無理だよ」
俺は断言した。もちろん根拠はある。
「なぜそう言い切れる?」
「ヴォルフガングのスキル「大権強奪」の効果で国王の持つ権限の全てを奴が行使している」
鑑定したところ「大権強奪」とは、自身の所属する国家、組織、団体において最高意思決定の権能を得ることができ誰も逆らうことができない、というものである。
憶測にすぎないがヴォルフガングが王の座を簒奪しないのは自分で国王になってしまっては「大権」を「強奪」する相手がいなくなりスキルの影響を及ぼすことができなくなるからではないだろうか。その場合自身の才覚のみで国家を運営しなければならなくなるのだから。
「どこまで「大権強奪」の影響が及ぶのか判然としない以上ローゼン王国から独立しなければ危なくないかい?今回僕らは王国側として戦ったからね」
アレスの言う通りであるが選択肢はもう一つある。
「いっそのことあの野郎を暗殺しちまったらどうだ。独立するにしても奴の存在は危険だろう」
「俺もそれしかないと思う。それにヴォルフガングも同じことを考えているはずだ」
一方ヴェルナー邸ではヴォルフガングにユリウスが呼び出されていた。
ヴォルフガングの執務室は王国の権力のすべてを手中に収めている男のものとは思えないほど簡素なものだ。ひとつひとつの調度品は確かに上質なものであるが侯爵という身分からすれば応分のものといえるだろう。
彼は贅沢な暮らしを欲して大権を簒奪したわけではなく権勢をふるって悦に入るためだけにその力を手に入れたのだ。
ユリウスは彼が一国を切盛りできるほど有能な人物でないと思っているし、ヴォルフガング自身にその自覚があることも知っている。
ユリウスは「大権強奪」という下劣なスキルを毛嫌いしているがそれを行使する実の兄はそれ以上に忌み嫌っていた。
それも当然である。幼い頃からいいように使われてきたのだから。今では憎悪に近い感情にまで膨れ上がっている。
「ユリウス。マルボロの首を獲ってこい」
ヴォルフガングが弟に尻拭いをさせるのはいつものことだ。
「そんな簡単にはいかないと思いますが?」
「失敗したら戻ってくればいい。別の手を考える」
「そうですか。ならばやるだけやってみましょう」
暗殺者ユリウスはヴェルナー邸を後にした。




