ネイサンの戦い
「申し上げます!およそ一万の連合国軍が大公軍と交戦状態にはいりました!」
ヴォルフガングの元へ伝令部隊がひっきりなしに戦況報告をもたらしてゆく。
「味方かどうかもわからないラミアの群れ、たった十数人で大公軍と相対している冒険者たち、そして連合国からの援軍か……」
「閣下、連合国軍は我々ではなく大公の援軍です。大公はローゼン王国の領土の一部の割譲を条件に連合国と取引しました」
ヴォルフガングの実弟ユリウス・ヴェルナーに監視されながらヘルマンが答えた。ヘルマンはまだ完全に信用されておらずおかしな動きを僅かでもみせればユリウスに処分される手筈になっている。
「その連合国軍が何故大公軍と交戦しているのだ?」
「今ではマルボロの配下だからですよ。ラミア部隊も冒険者たちもみなマルボロ麾下の者たちです」
「マルボロか……」
ヴォルフガングはその鋭い眼を鈍色に光らせている。
「伝令!この時を以って全軍で打って出る!大公軍を殲滅せよ!」
ヴォルフガングの大音声が戦場に響き渡った。
主?であるマルボロ様から総攻撃の指示があったため大公軍と戦っているが自分は大公の援軍としてここまで来たのではなかっただろうか。
私はシュミット商業連合の一国であるマリウス王国の兵士だったはずだがいつからマルボロ様の部下になったのだろう。
どこかの馬鹿が暴発させた光属性魔法のライトに目が眩み、気付いたときにはマルボロ様が自分の主君になっていた。自分でも何をいっているのかわからないが事実なのだから仕方がない。
「おい!王国軍が全軍で打って出たぞ!大公の首を獲るのは俺たちだ!突撃しろー!」
そうだ!マルボロ様の前で手柄を立てなくては!大公の首は私が獲る!
「うぉらああ!」
私は頭に靄がかかったまま目の前の敵兵を斬り伏せた。
連合国軍の参戦により勝敗は決した。戦場はすでに大公の首獲り争いと化している。
ある者は軍のメンツをかけて、ある者は自分の力を誇示するため、ある者は愛する人に捧げるためにと理由はそれぞれだ。
『マルボロB、元帥の弟だけには勝たせるなよ』
『人数が少ないから仕方ないがゼルマンが出遅れたな』
『何気にミアが大公に一番近い件について』
「くっ!「桜花一閃」さえ使えれば勝てるのに!」
「桜花一閃」はサクラを手にした状態でなければ使えない。サクラはすでに後方に下がっていた。
出し抜けにゼルマンが「天翔」と「立体機動」を使って大公軍の頭上に飛び出る。
「雷纏!」
一瞬で距離を詰めたゼルマンの突きが大公の首を刺し貫くとその反動で千切れた頭部が空中に投げ出された。
大公の頭部を高々と掲げたゼルマンが叫ぶ。
「大公の首!アンロッカーズのこのゼルマンが討ち取った!」
終戦を告げるゼルマンの勝ち鬨に辺り一帯大歓声に包まれる。
こうしてのちに「ネイサンの戦い」とよばれることになる内乱は幕を閉じたのであった。




