開戦
ローゼン王国の中央に位置する王都を境にして大公率いる西軍と王家率いる東軍に分かれ、大公軍が王都へ向けて進軍したことにより内戦の火蓋が切って落とされた。
王城の一室では王国軍上層部や各諸侯が集められ軍議が行われているが王都から離れた土地の領主たちはまだ到着しておらず空席が目立っている。
軍議といっても発言しているのはヴォルフガング・ヴェルナー元帥をはじめとする王国軍幹部の他は宰相でもあるクロウリー伯爵くらいだ。国王は黙って事の成り行きを見守っているだけである。
「宰相殿、相手との戦力差はどれくらいですかな?」
宰相のクロウリー伯はアレスの父親である。
「大公軍は我々と遠方の諸侯が合流するまで待ってはくれないでしょう。なので現状では大公軍のおよそ半数かと」
「倍の戦力差か……、ここにいない東部の領主たちの中に裏切り者がいればその差はさらに広がるな。しかも挟み撃ちされる恐れもある」
絶望的な状況でもヴォルフガング・ヴェルナーの表情は平静そのものだ。
「東軍の中に造反した領主はおりません」
静まり返った室内に突如現れたヘルマンが口を開いた。
「ヘルマン!貴様よくこの場に顔を出せたな!」
軍議に参加している者たちが次々とヘルマンへ罵声を浴びせかける。
「静まれ!」
ヴォルフガングが一喝しその場を治めヘルマンに問いかけた。
「盗賊ギルドは大公についたのではないのか?」
「ギルド内でも意見が別れておりましたが先ほど決着がつきました。多くの者が命を落としましたが新しいギルドマスターの意向により大公家から離反いたしました」
「閣下、ヘルマンの言に嘘偽りはありません」
嘘を見抜くスキルをもったヴォルフガングの部下が断言する。
「ヘルマン、王国が現在置かれている状況を説明せよ」
「王国西部の領主たちはヘルムート、リーデルを除き大公に与しています。その数およそ5万」
「ヘルムート、リーデルがこちらについたのは意外だったが好都合だな。大公軍を挟撃できる」
「それには少々時間がかかるかもしれません。ヘルムート、リーデル両軍はすでに大公軍と交戦中です。さらにシュミット商業連合国軍一万を相手にしなければなりません」
ヘルマンからもたらされた連合国参戦の報にだれもが絶望する中それでもヴォルフガングは顔色ひとつ変えずに疑問を口にした。
「お前はヘルムート、リーデルが負けるとは微塵も思っていないようだがその根拠は何だ?」
「両軍の総大将がマルボロ・モーリス=ヘルムートだからですよ」




