表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鍵士無双  作者: キャットフード安倍
第一部・ローゼン王国編
34/85

ヘルマンの苦悩

 盗賊ギルドはローゼン王国の諜報機関であるため当然のことながら王国側である。


 しかし、盗賊ギルドのギルドマスターはシュバルツハルト大公であり代々公爵家の当主がその座に就く。実質上ヘルマンが盗賊ギルドの長であるが大貴族である公爵家の後ろ盾あってこその組織だ。


 およそ四百年前、ローゼン王家が近隣の豪族を平定し建国したのがローゼン王国である。そのときもっとも貢献した当時の盗賊ギルドの頭領が現公爵家の開祖である。





 ヘルマンにもローゼン王国への愛国心はあるが大公を裏切るなどという選択肢など初めからなかった。なぜなら盗賊ギルドの構成員の大半が公爵家によって育てられたのだから。


 王国全土から孤児などを集めた公爵家は彼らに住む場所を提供し食事を与え教育を受けさせる。たとえ何の才能のない者でも仕事を与え決して見捨てることはない。いわば彼らは家族であった。


 その中にヘルマン自らの手でマルボロという異分子を招き入れてしまったのだ。


 鍵士などという職業を与えられて冒険者をしていたマルボロは弱く貧しかった。


 彼に見合った仕事を斡旋し高い報酬を支払う。そしてわざと難しい依頼を受けさせて失敗させたところで何があっても見限ることはないという姿勢を見せつける。これでマルボロは名実ともに盗賊ギルドの一員になるはずであった。


 ところが彼はその難しい依頼を死者の蘇生という信じ難い方法で成し遂げてしまったのである。


 そしてまずいことにゴブリンクイーン騒動の首謀者が大公であると露見してしまったのだ。きっと盗賊ギルドに対して疑いの目をもつだろう。


 ヘルマンはマルボロを処分することにした。





 辺境では情報を意図的に制限し失敗するように仕向けたが辺境担当のグレッグに事前に話しを通していなかったため上手くいかなかった。


 ならばと直接暗殺を試みるが彼はいつでも仲間たちに囲まれていてなかなか手が出せなかった。なかには盗賊ギルドの猛者と比べても遜色のない者も交じっていたのである。


 厄介なのは最近盗賊ギルド内でも話題になっている謎の諜報機関の存在である。彼らの痕跡は王国内に留まらず大陸全土にまで及んでいた。マルボロはその者たちに護衛されていたのである。


 ヘルマンはマルボロの暗殺を諦めざるをえなかった。





 謀反決行の日が近づくにつれヘルマンのもとへは不穏な情報が数多くもたらされていった。そのほとんどがマルボロに関するものである。


 マルボロ率いるアンロッカーズはいまではローゼン王国の冒険者ギルドのPTのなかでも最大勢力になっている。なんでも冒険者登録していないメンバーも多数所属しているという話しだ。


 そんな彼がもともと造反に乗り気でなく立地上しかたなく大公に与していたヘルムート伯爵家に婿入りした。


 そして最後まで謀反に反対していた為暗殺したリーデル伯爵の生存が確認された。おそらくはマルボロが蘇生させたのだろう。


 ヘルムート、リーデル両家はマルボロの傘下に入ったとみて間違いないだろう。





 ヘルマンのマルボロに対する憂慮は日増しに膨らんでいった。


 マルボロの死者を蘇生させる能力が唯々恐ろしかった。敵を殺せば蘇生され、味方が殺されれば自分の手駒として再利用される。これでは増殖する不死身の軍団ではないか。


 もっとも危惧すべきはマルボロが支配下に置いている諜報機関の存在である。疑いなく最近連絡の取れなくなった盗賊ギルドの構成員は彼らの手にかかっていることだろう。





 月明かりに照らされたヘルマンの形相は苦悶に歪んでいる。


 つっと自らの執務室の窓辺に人影が差した。


 「ヘルマンさんお久しぶり」


 「そろそろ来る頃合いだと思っていましたよマルボロくん」


 マルボロの表情は逆光に遮られている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ