婿入り
ネイサンからヘルムートに拠点を移し年を越した。
ローゼン王国は北部を除いてあまり雪が降る地域ではないが、この年は王国全域で積雪が多く王国の西の端っこにあるヘルムート伯爵領もご多分に漏れずあたり一面銀世界である。
ヘルムート伯爵領は地方都市ではあるが決して田舎というわけではない。というのも魔導工学先進国であるシュミット商業連合国と国ざかいを接しているからだ。
魔導列車の停車場があるのはローゼン王国ではヘルムート伯爵領だけである。まだ物流目的での運用しかしていないが十年以内には人を乗せての運行ができるのではといわれている。
なのでここには大商人が多くシュミットから仕入れた物品はこの地を経由して王国各地へと運ばれてゆく。とうぜん税収も多くなりヘルムート伯爵領の国庫は至って潤っている。
領地が豊かなので領民に課せられる税も安くこの街で暮らす人々はいつも笑顔だ。俺はそんな土地を手に入れたのである。
ヘルムート伯ことサイモン・ヘルムートには男子がおらず一人娘がいるのみである。俺はヘルムート家に婿入りしたのだ。
サイモンは獣人である。狼人族の獣人である。もちろん娘のエマも狼人族である。そう!俺はついに狼っ娘の嫁さんを手に入れたのだ!
のだがエマとはまだモフモフしていない。どうやら他に嫁さんがいるのが気に食わないらしい。
エマはサイモンの反対を押し切り冒険者をしているじゃじゃ馬である。自分よりも強い相手以外とは結婚しないとサクラみたいなことを言ってきたので模擬戦を行い俺が勝ったのだがそれでもモフモフさせてくれないのだ。理不尽である。
その件については時間が解決してくれるだろう。問題はヘルムート伯の爵位を俺が継ぐことに王国が難色を示していることである。
貴族が平民を婿に迎えて爵位を継がせるという前例がないとかなんとか文句をいってきたのだ。
「どうするつもりだマルボロ?」
「どうもしませんよお義父さん。マルボロ・モーリス=ヘルムートと勝手に名のります」
モーリスというのは俺の姓である。今ではもうわからないが元貴族だったのかもしれない。
「今回の内乱で功績をあげて無理やり認めさせます」
俺たちが味方した陣営が勝つのだから爵位どころか領地のいくらかはぶんどってやるつもりだ。
「まったく恐ろしい婿殿だ。ところでエマとはどうなっているのだ?早く孫の顔が見たいのだが」
「そっちは……難航してます。ですが今度ダンジョンデートする予定なのでその時落とします!」
戦支度はすでに終わっている。あとはその時がくるのを待つだけである。
俺にとっては爵位などよりエマとモフモフするほうがよほど重要なことだ。
エマとモフモフできたらあの魔物使いを叩き起こして自慢でもしてやろう。
ヘルムートでの穏やかな生活とは裏腹に内戦のときは刻々と迫っていた。




