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鍵士無双  作者: キャットフード安倍
第一部・ローゼン王国編
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慢心

 「な、なんだ貴様!誰かおらんか!」


 やっと起きたか。おっさん眠り深すぎだろ。


 「それにしても酷いイビキだったな」


 「伯爵夫人と寝室が別なのも納得ですね」


 獣人・・のおっさんはベッドから降り壁にかけてあった剣を片手に喚き散らしている。


 「いくら騒ごうと誰も来ないよ。しかしヘルムート伯爵が獣人だったとはね。それが大公についた理由ってことでいいのかな?」


 「貴様どこまで知っておる?」


 そのとき獣人伯爵の背後の壁に亀裂がはいった。


 「あ!」


 「あ?」


 大音声と共に飛び出してきた何かが壁もろとも伯爵の上半身を粉砕した。


 辺り一面壁の残骸と伯爵の肉片が散乱し酷い有様だ。空間を固定してあった俺の周囲以外真っ赤に染まっている。


 「賊め!ヘルムート伯爵をどこへやった!」


 答えずに伯爵の下半身を指差す。


 「伯爵様あああ!貴様よくも伯爵様をおおお!」


 「いやいや!殺したのお前だし!」


 こっそりと獣人伯爵の魂を回収する。


 「あんたよく気付いたな?音は完璧に遮断していたはずだが?」


 「馬鹿かテメーは。今までしていた音が消えたらおかしいだろーが」


 ですよねー。ハコがこの場にいたら罵られているに違いない。


 Sランク冒険者はこの国に多い茶色の髪を逆立て同色の瞳に殺意を滾らせている。


 ガントレットで覆った拳を構えることもなくおもむろに近づいてきた。俺のことをそこいらの有象無象と一緒くたにしているのだろう。


 だがサクラを手にした俺は剣豪だ。Sランク冒険者相手にどこまでやれるか試してやろう。やばそうなら逃げればいいだけだ。


 『スキルは「格闘術」「金剛」「タフネス」です』


 『効果は?』


 『硬質化とスタミナ増強です』


 『了解、そのまま隠れてて』


 相手が油断しているうちにどれぐらい固いのか確かめてやろう。


 「斬鉄剣!」


 斬りつけた対象が硬いほど威力が上がるという武技である。相手は直立不動のまま躱すこともなく受けてくれるようだ。


 肩部から刀を振り下ろす。


 ガギンッ!


 鈍い音と共に斬りつけた衝撃がそのまま跳ね返ってきて刀を手放しそうになった。


 『逃げましょう!顔は見られてしまいましたが殺されるよりましです!』


 『もう一度だ!次でだめならそのときは撤退する!』


 距離をとり右手と刀を「ロック」して再び構えた。


 『桜花一閃!』


 眼球目掛け突きを放つ。


 先程とは対照的な乾いた音が身中にこだまし、気づけば腕の中程からへし折れていた。


 「くっ!」


 まさか目ん玉まで硬化できるとは。こりゃ無理だ。


 『撤収っ!』


 「桜花一閃」でバルコニーに飛び込む。


 「お前、俺をただの硬い奴とでも思ってんのか?Sランク冒険者を舐めすぎだ」


 簡単に回り込まれると出口を塞がれてしまい、近くにいた諜報員が一撃で球体に戻される。


 なんとか衝突を避けたが無防備な態勢になったところへ拳が飛んできた。なんとか左腕でガードしたがそのままバルコニーの反対側の壁まで吹き飛ばされた。


 両腕の骨を「ロック」で繋ぎはしたが痛みはそのままだ。


 「ほう、回復魔法ではなさそうだがそんなこともできるか」


 相手は考える暇も与えてはくれず追い打ちをかけてきた。


 「百裂拳!」


 瞬時に空間を固定するがあっさりと破られ重い打撃の弾幕が身体中を打ちつける。


 死んでいないということは手加減されたのだろう。それでも全身の骨がバラバラだ。繋ぎはしたがもはや動くこともままならない。


 「で、ヘルムート伯爵を狙った理由は?お前の雇い主は?」


 壁にもたれ掛かり腫れあがった顔で答える。


 「お前と違って俺の主は俺自身だよ」


 「伯爵殺しの犯人としてお前には死んでもらう。さっさと吐けば楽に殺してやるぞ?」


 俺に雇い主などいないしただ話しにきただけでそもそも伯爵を殺したのはこいつだし答えようがない。


 「……、百裂剣!」


 空間固定を使うまもなく集中砲火を浴びてたまらず腰を落とす。


 意識が朦朧とするなか目にしたのは俺の腕を手にしたSランク冒険者の姿だった。、左腕に目をやると肘から先がまるで鋭利な刃物で切り落としたかなようになくなっており全身血だらけだ。


 「……手刀?……なるほど百裂(けん)かー」


 俺の腕を踏み潰したSランク冒険者を見上げる。無表情だ。次は右腕だろうか。


 だがサクラを手にした右腕をもっていかれるわけにはいかない。


 『サクラ……、俺に力を貸してくれ!』


 右腕を突き出しサクラに魔力を込める。


 「アンロック!」


 刀はまばゆく蛍光し明滅を繰り返す。


 煌々とした輝きが最高潮に達すると切っ先から桃色の粒子となって舞い散ってゆく。


 俺の手から放たれた桃色の光はしだいに一か所に集まり人の形をとっていった。


 「マスター、あとは任せてください」


 目の前の少女の後ろ姿を一瞥し俺は意識を手放した。


 


 


 


 


 

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