冬が訪れる前に
お婆たちがダンジョンボスを倒して戻ってくるまでに、魔力のコントロールを身につけることはついぞできなかった。
結局は魔石から覚醒させた百人ほどの新しい仲間をシンに預けネイサンへの帰路についた。
数日経ったが魔力制御の向上はまったくみられない。
現在冒険者ギルドの訓練場でアレス、レイフの魔術師二人とギュンターに付き合ってもらい魔力制御の特訓中である。
「ロック」でレイフと地面を固定する。
「今のは結構よかったんじゃないか!ギュンターどうだった?」
ギュンターに「占い」を使って判定してもらっている。このスキル、「占い」となっているが実際にわかるのは白か黒の二択である。
魔力制御ができていれば一瞬だが俺の姿が白く写り出来ていなければ黒く写るらしい。
「黒です!」
「そうか……、そもそも魔力を制御するって感覚がわからないんだよなー」
俺にとって魔力は感じるものであり制御するものではない。
「普通魔法スキルをもっている者は魔法を使っていれば自然と上達するのですが……、もしかするとマルボロ様は自分の魔力を認識できていないのでは?」
「それはあるかもしれない。以前たしか言っていたよね、「魔力鑑定」で鑑定しているのは魔力ではなく魂だと」
それはつまりどういうことだってばよ!
「マルボロ、「魔力鑑定」を「ロック」することは可能かい?」
昔お婆に教わったステータス隠蔽と同じ要領でやってみるとあっさりと成功した。
「おお!何も感じなくなったぞ!」
そのかわりに周りの者たちから別の何かを感知した。これが本当の魔力というやつだろう。
これまで感じていた魔力と比べるとアレスはそれほど変わらないが、レイフは大きくギュンターは小さくなった。魔法を使える者とそうでない者の差だろうか。
自分からも魔力を感じ取ることができるがこれをどうすればよいのだろうか。
「魔力制御の訓練方法は魔力を体内で一箇所に集めてそれを循環させるのが一般的でしょうか」
お、これはなかなか難しいな。しばらく「魔力鑑定」は封印して過ごすことにしよう。
数日経過したが魔力制御の訓練は継続中でありすでに次のステップへと進んでいる。
いまはアレス考案の空中歩行で魔力制御を鍛えているところだ。足の裏と中空を固定しそれを交互に繰り返すというものである。寝る時意外は基本宙に浮いている。
意識しないでもできるようにはなったのだが、それも「魔力鑑定」をオフにしている間だけである。オンにした途端にバランスを崩してしまう。まだ空中歩行を続け身体に馴染ませる必要がありそうだ。
そして今日はお婆の家に集まりみなで卓を囲んでいる。もちろん俺は椅子には座らずに空気椅子だ。
机の上には地図が広げられておりこれから緊急会議を行なう予定である。
『みな揃ったのでそろそろ始めようか。シン、詳細を頼む』
念話で話しているのは盗賊ギルドに聞かれたくないからである。
『ローゼン王国の西側に領地をもつ貴族たちが戦支度をしている形跡があります。鉄や塩、小麦などを買い漁っているようです。それから隣国のシュミット商業連合国から援助も受けています』
確かに地図につけられた印を見るとローゼン王国の西側に集中しているようである。
『とりあえずみなの故郷が王国側で一安心だな。もし内戦が起こったとしても敵対せずにすむ』
『何を言っているんだいマルボロ。例え親兄弟と対立することになったとしても僕らは君と共にいるよ』
アレスが口を開くと他のみなからも賛同の声が相次いだ。ただリーナは居眠りをしている。
『シン。他にわかったことは?』
『例の魔物使いへ依頼をだした人物を特定しました。その者は公爵家に仕える魔術師です』
『その魔術師は今どこに?』
『盗賊ギルド自治区です』
『はい?』
『なので拘束するのは現状難しいでしょう。それから盗賊ギルドの頭領は公爵家の当主シュヴァルツハルト大公その人です』
『なんだと!』
それが本当だとしたらなぜヘルマンは俺に魔物使いの生け捕りを依頼してきたのか。
ここの顔役であるヘルマンが知らないなどということはないだろう。
なにか別の目的でもあったのだろうか……。
シンによると戦争が起こるとすれば春になってからとのことだった。
あとひと月もすれば本格的な冬がやってくる。
春が来る前に戦の準備をしなければならない。
もっと多くの仲間が必要だ。




