アレン・スミシー
昨日と同様に冒険者ギルド内の酒場でアレン・スミシーを待っている。
モエにお婆を通じてヘルマンに連絡をとってもらったところ、どうやらとんでもない失態を演じてしまったようである。俺が殺めてしまったグレッグは盗賊ギルドの一員であった。
アレン・スミシーは盗賊ギルドの諜報員がもちいる偽名であるため、そもそもそんな名前の人物など存在しなかったのだ。
ヘルマンからは別のアレン・スミシーに書状を渡すように言われ、処分は追って知らせるとのことだった。
なぜ俺が処分を受けなければならないのか。先に手を出してきたのはグレッグなのだから俺に過失はない。
念のためシンを呼び戻し護衛してもらっている。
『マルボロ様、どうやらターゲットが来たようです』
『他に仲間は?』
『ここにはおりませんな』
シンが言うのだから間違いないだろう。
アレンがグレッグと同じように隣りへ腰かける。
「マルボロだな?場所を変えようか」
細い路地裏を進む。十字路に差し掛かったが直進するようだ。
『ここは左へ曲がった方が彼らのアジトに近いですな。真っ直ぐ行った先の広場に仲間を潜ませていたようですがすでに眠らせました』
シンが有能すぎて怖い。敵じゃなくて良かったね。
『ちなみにここの顔役であるグレモリー・ルーベンはグレッグの実兄ですな』
「おい、ここは左へ行った方が近いんじゃないのか、グレモリーが待ってるんだろ?」
地下にある酒場まできた。どうやらこの奥にグレモリーがいるようだ。
ここにいる客も盗賊ギルドの構成員だろう。とても堅気には見えない。
一番奥の部屋に案内されアレンのあとにつづき室内へと入った。手前のソファーで男が煙草を燻らせている。奥のデスクでなにやら書き物をしているグレッグとよく似た人物がグレモリーだろう。
アレンはグレモリーと話し込んでいる。ソファーに座ると目の前の男から煙草を勧められたので遠慮なく頂く。この国では十五歳で成人なので酒も煙草も違法ではないし娼館も問題ない。
二人で煙の輪っかを作って遊んでいるとアレンに呼ばれたのでデスク前の椅子に腰かけた。
「ではことの経緯を話してもらおうか」
「んー、アレン・スミシーが偽名だと聞かされていなかったから書状は渡さなかった。俺には相手の名前がわかりますからね。だから俺に切りかかってきたグレッグを書状を奪おうとした賊と判断して殺した。それだけです」
「しかしそれを証明はできないだろう?」
「では本人から直接聞いてみましょう」
グレッグを始末したあと尋問するために魂も一緒に回収していたのだ。
魂をアンロックするといきなり現われたグレッグにグレモリーが驚いている。
「兄貴すまねえ。先に手を出したのは俺だ。アレンが偽名だと知らなかったからどこぞの間者だと早とちりしちまった」
どうやら誤解がとけたようでなによりだが、男同士のあつい抱擁を見せつけられるのはきついものがあるな。ポーカーフェイスだったソファーの男も顔を歪めている。
「そ、それではこのあたりで失礼しようかな」
「マルボロ。ヘルマンには俺の方から話しを通しておくから安心しろ」
部屋を後にしようとしたところグレッグがついて来た。
「え?グレッグはここに残るんじゃないの?」
「いや、また眠らせてもらおうかと思って」
「せっかく生き返ったのに何言ってるんだグレッグ」
グレモリーの言うとおりせっかく再会できたのだから俺についてくる必要は無い。それに後で幻覚でも見せられたのかと難癖をつけられかねないのでグレッグにはここに残ってもらわねばならない。
「封印したら死んでるのと変わらないのになぜ?」
「目覚めるまでずっと夢を見ていたんだよ。死んだはずの父ちゃんと母ちゃんが生きていて、俺と兄貴はまだ子供でさ、とにかく毎日楽しいんだ。きっと俺の人生のなかであのときが一番幸せな時間だったんだと思う。そんな時を永遠に過ごせるなんて素敵じゃないか」
結局、俺とグレモリーの説得に折れたグレッグは、いつかまた眠りにつかせることを条件にここに留まることになった。
人生で最高の時か。
十六年しか生きていない俺は、グレッグのように子供のころ母と過ごした日々だろうか。冒険者となって仲間たちに囲まれている今だろうか。
それとも今後もっと幸福な時間が訪れるとしてその時だろうか。
またわからないことが増えてしまった。
俺のスキルは何なのだろう。




