PTアンロッカーズ
ネイサン駐屯兵団に席を置く球体組み十四名のうち半数の七名が正式に退団し冒険者へと転身した。
退団した者たちは一人の例外を除きみな平民出身の準騎士であること、そして剣術もしくは盾術のスキルをもっていない者たちである。
準男爵以下の者は官給品の片手剣と盾を装備しなければならないらしく、自分の得意武器を使えないため手柄をたてて出世することが難しいとのことだ。
ではなぜ騎士になったのか問うたところ安定という答えが返ってきた。騎士になればよほどの規律違反を犯さないかぎり首になることはないらしい。
そして問題の人物の名はアレス・クロウリー。この男は伯爵家の五男坊で駐屯兵団の副団長でもある。アレス本人も子爵の爵位もちだ。このような者が勝手に辞めてしまってもよいものだろうか。
本人いわく自分はテレーマ正教会から駐屯兵団へ出向しているだけだから差し支えないとのことだ。そっちのほうがよほど問題があると思うのだが、アレスがそれでいいというのなら俺が口を挟むことでもないだろう。
転身組はみな武器を所持していなかったので「盗賊の隠れ処」で蒐集した装備品を配る。
テオドール「大剣術」「水属性魔法」「頑健」・【盗賊の大剣EX】【剛腕】
ゲルハルト「大剣術」「土属性魔法」「頑健」・【盗賊の大剣EX】【剛腕】
この二人は双子でスキル構成も似ていたので同じ性能の武器を与えた。
カール「槍術」「身体強化」「敏捷強化」・【盗賊の槍EX】【身体制御】
理想的なスキル構成だな!
ベア「剛腕」「剛脚」「身体強化」・【盗賊の篭手EX】【格闘術】
武器スキルをもたないお前の気持ち俺はよくわかるぜ。
レイフ「風属性魔法」「音響探査」「直感」・【アサシンスタッフEX】【魔力強化】【魔力制御】
きみはよく騎士団への入団試験に合格できたね。
マシュー「弓術」「生活魔法」「鑑定」・【盗賊の弓EX】【具現矢】
この弓は魔力を込めるとかってに矢が番われるという魔剣ならぬ魔弓である。
アレス・クロウリー「光属性魔法」「闇属性魔法」「銀の書」
彼の固有スキル「銀の書」は魔法の効果を高める触媒にもなるらしく武器は必要ないとのことだ。
所持スキルと本人の希望を聞いて決めさせてもらったがみな大喜びだ。なかでも武器スキルを持っていなかったベアは拳を振り抜きながら一撃ごとに感動している。
みなに武器を配り終わった頃、冒険者ギルドにPTの申請に行っていたゼルマンとテレサが帰ってきた。ちなみに彼らのスキルは、ゼルマン「槍術」「雷属性魔法」「天翔」、テレサ「格闘術」「身体強化」「料理」だそうだ。
PTを結成したのは受けられる依頼の幅を拡げるためである。例えば護衛任務などはPT単位でしか受けることができない。
というわけで、辺境伯領まで商人を護衛する依頼を受けてネイサンを出発した。
辺境伯領はネイサンから片道一週間ほどの距離にある。ネイサンから北東へ続く街道を進みいくつかの都市を経由してゆく。
馬車姿のサラのあとに商人の馬車が続き、前方の監視を俺が「魔力鑑定」でおこない、後方をレイフが「音響探査」を使い警戒する。もちろん上空からハコも見張っているので磐石の態勢だ。
「音響探査」はレイフが発した音波が何かにぶつかったときの反響音からその対象を探るというものである。レイフは杖の先をコン……、コン……、と一定の間隔で鳴らし音波を発生させているようだ。
ゼルマンとテレサには商人の警護をしてもらっている。本当は必要ないのだが、魔物と接敵すると真っ先にゼルマンが倒してしまうので、みなのために遠慮してもらっている。
ゼルマンは先のゴブリンジェネラル討伐の功績でAランクに昇格している。雑魚ゴブリンが現われたぐらいで飛び出されては困るのだ。
俺は御者席に座り前方をぼんやりと眺めているだけだ。サラが勝手に進んでくれるので何もしなくてもよいのだ。隣ではアレスがさきほどから寝ていたがどうやら起きたようだ。
「マルボロくん、PT名は何にしたんだい?」
「アンロッカーズ」
「アンロッカーズ?それでは僕たちにしか意味がわからなくないかい?だって鍵開け軍団だよ?」
「こういうのはシンプルなのがいいんだって」
「そんなものかねー」
「そんなものだよー」
こうして後に大陸全土にその名を轟かせることになるPT「アンロッカーズ」は始動したのであった。
一部設定の変更をします。
農村で仲間になった駐屯兵団の人数を10名に減らしました。




