底辺冒険者
駆け出し冒険者の少年マルボロが薬草採集の依頼達成のために森へ入っていく。
彼にとっては薬草を探すことなど造作もないことだ。スキル「魔力鑑定」を発動して魔力を辿ってゆけば簡単に見つけ出すことができる。
この世に存在する物にはすべて魔力が宿っている。薬草のもつ魔力は雑草のそれよりも大きいので見つけるのは容易いのだ。
「魔力感知」というスキルでも同じことができるだろうが、薬草と雑草の発する魔力は微々たる差でしかない。「魔力感知」を使ってそれらを区別するのは面倒なのだ。
その点でいえば「魔力鑑定」は劣化「鑑定」スキルといっても一応は鑑定できる。薬草採集に限っていえば「魔力鑑定」>「魔力感知」となる。
薬草を「魔力鑑定」すると、
【雑草EX】【性別・女】【相性・50%】【生命力回復効果】
と鑑定される。いろいろ疑問はあるがこういうものなのだから仕方がない。ちなみに魔力を数値化はしてくれない。相性は人に使えばそのままの意味で、魔物に使えば勝率を表している。
とにもかくにも依頼達成に必要な薬草を一時間もかからずに集め終わった少年は次の行動に移った。
「よし、薬草採集終わりっと。ウサギちゃんはどこかなー」
修行もとい食料調達のためにワイルドラビットの魔力を探る。
「お、いたいた。魔力もさほど高くないしあれにしよう」
相性は65%。50%で自分と同じくらいの強さだからなんとかなるだろう。
ウサギはまだこちらに気付いていない。魔法の詠唱が届くところまでそっと近づく。
「ロック!」
後ろ足に向けて無属性魔法を放つ。
魔法の効果は名前のとおり鍵を掛けるものだ。この場合、足と地面を固定することができる。ただし自分以外の生き物に使うと制限がかかり、相手の強さによってその間隔は増減し、さらにリキャストタイムまで発生してしまい連続で使用することはできない。
ウサギに接近して短剣を振り下ろすがすんでのところで効果時間が切れて躱されてしまった。
短剣を構え距離をとったウサギの突進に備える。
こうなるとあとはもう泥仕合が展開されるだけだ。致命傷を与えることができない最弱魔物のウサギと攻撃を当てることのできない自分との長い戦いが始まる。
結局ワイルドラビットを倒すのに薬草採集を終えるよりも長い時間がかかってしまった。
ウサギを解体し切り分けた兎肉を串もとい木の枝に刺し火の準備をする。火属性魔法は使えないので魔道具で火を熾す。
魔道具といっても天然物である。たまたま拾ったやたら魔力の高いただの石ころだ。何の気まぐれかわからないが、もう一つだけ覚えている無属性魔法「アンロック」を使ったところ、魔力をとおすと発火するようになった。これに火石と名付けた。ちなみに同様の方法で手に入れた水石も持っている。
兎肉を焼くこと数分、まだ中まで完全に火はとおっていないが我慢できずにかぶりついた。
太陽は中天に差し掛かっている。遅めの朝食兼昼食だ。
味付けをしていないので美味くはないが、貧民街の長屋暮らしの自分に塩は高級品である。肉を食べられるだけでも贅沢というものだ。
肉を平らげ水石で行水をして帰り支度を済ませると森を出た。
街道を歩きながらこれからのことに考えをめぐらす。
ワイルドラビットを倒せるようになってから毎日狩っているが、ゴブリンを狩れるようにならなければEランクへ上がるための試験を受けることはできない。どうにかゴブリンを倒せないものか。
だが武器スキルをもたない自分にとってゴブリンは強敵だ。スキルは後天的に身に付けることはできないため、「鍵士」の俺がもともと所持している三つのスキル「魔力鑑定」「ロック」「アンロック」でやり繰りする他ない。
「やっぱり強い武器がないと無理だよなー。はぁ……」
冒険者ギルドで薬草採集の報酬を受け取り市場へとやってきた。
武器屋で売っているものは高額すぎて手が出ない。そこで考えたのが「魔力鑑定」を使っての掘り出し物探しである。
安物のなかから他より魔力の高いものを探すのだ。そしてそれを「アンロック」する。
まっすぐにお目当ての店の前まできた。実は市場へ入る前からこれまで感じたことのないような高魔力反応を感知していたのだ。
その魔力は一振りの剣から発せられていた。