後悔
前方にグレイウルフに跨った魔物使いを捉えたが大公軍も先程から視界に入っている。
『サラ!魔物使いの真横につけてくれ!』
馬上から飛びかかりグレイウルフ諸共魔物使いの右手右脚を切り落とす。
「ぐあああ!お、俺の手ぐあ!あ、脚ぃいいいい!」
魔物使いはグレイウルフから転げ落ちると動かなくなった。膝上から切断した脚からの出血が激しい。
「リーナ!回復魔法を!」
「ヒール!」
リーナの回復魔法で骨折していたと思われる俺の両足首がつながって痛みが引いていく。
「ありがとうリーナ、じゃねええ!魔物使いを回復しろおお!」
「ふぁ!?ヒール!」
なんとか手脚の出血は止まったようだ。意識が戻らないうちに荷台へ放り込む。
「サラ出してくれ!」
急いで来た方へ引き返す。大公軍の追手はもう目と鼻の先まで迫っている。
「親方様!弓兵が矢を放ってきました!」
「ロック!」
飛んできた矢を一瞬だけ空間に固定すると、そのまま重力にしたがって地面へと落ちてゆく。一瞬止めるだけで十分だ。それだけで矢の推進力はゼロになる。
次々と矢を落としていくと、諦めたのか弓兵のかわりに騎馬兵が猛追してきた。
「ロック!」
先頭を走る二人の騎馬兵の馬の蹄と地面を固定し転倒させる。後続する騎馬兵たちは前で倒れている馬に足をとられ落馬し、馬の下敷きになり命を落としていった。
「今のうちにずらかるぞ!」
農村へ戻って仲間たちの擬人化を解かせ回収し、ネイサンに向けてサラを駆けさせる。
宿場街を小休止しただけで出発しネイサンまでの道程を駆ける。手脚を切り落としたのは失敗だったかもしれない。魔物使いの意識が戻らないのだ。
それに追手が放たれている可能性もある。とにもかくにも急がねばならない。
盗賊ギルド自治区まで辿りつくとそのまま魔物使いの治療にはいることができた。モエを通じてお婆に連絡をとり事前に準備を整えてもらっていたのだ。
ヘルマンの執務室で待機していた俺はいつの間にか眠りに落ちていった。
ドアの開閉音で目を覚ますとヘルマンが向かいのソファーに腰を下ろした。
「魔物使いの死亡が確認されました。ですが大公が首謀者とわかっただけでも成果としては上々です」
「ヘルマンさん魔物使いのところへ案内してもらえませんか?」
「別にかまいませんが理由を聞いても?」
「もちろん尋問するためですよ」
ギルド地下の一室に遺体が安置されていた。
ヘルマンは黙って事の成り行きを見守っている。
両手にサクラとリーナをもち「ロック」「アンロック」を使い魔物使いの魂を擬人化させた。
「貴様あああ!俺を殺しやがって!ぶっ殺してやる!」
魔物使いの右手を斬り飛ばす。
「ぎゃああ!手があ!手がああ!」
「死体とお揃いにしてやったぞ。ヒール!」
出血を止め尋問を開始する。
「お前の名前は?」
「殺してやる!」
右上腿を斬り飛ばす。
「ぐああああああ!」
「ほら、脚もお揃いだ。ヒール!」
魔物使いは苦痛に顔を歪め睨みつけてきた。
「雇い主は大公だな?」
「くたばれ!」
首を切り飛ばすとダメージが致死量を越え球体に戻った。
ヘルマンには球体が見えないため魔物使いが消えたように写っているだろうが口は閉ざしたままだ。
「アンロック!」
強制的に擬人化させると魔物使いは五体満足な自分の身体を見て呆然としている。
「何が起こっている……、死んだはずじゃ……」
「お前はもう死んでいるのだから死ねるはずがないだろ?」
「……」
「俺が生きているあいだはお前に死が訪れることはない。この意味がわかるな?」
「……は?」
「ものわかりの悪い奴だな。お前が口を割るまで拷問し続けるって言っているんだよ」
「待ってくれ……、その……」
「もしすべてを話すというのなら、お前の魂を封印して永遠の眠りにつかせてやることもできるがどうする?」
「わかった。すべて話す。どうせもう死んでるしな……」
「ヘルマンさん。尋問が済んだら呼んでください」
地下室をあとにして家路につく。
「盗賊ギルドなんかに入るんじゃなかったな……」
マルボロの呟きはため息と共に闇夜に溶けていった。




