追跡②
「申し上げます!ネイサン駐屯兵団の生還者からの情報によりゴブリンキングの存在が確認されました!」
ローゼン王国軍元帥ヴォルフガング・ヴェルナーは伝令の報告を聞いても顔色一つ変えることなく、隣りで佇む実弟でもあるSランク冒険者に問いかける。
「ユリウス、ゴブリンキングの強さは?」
「Aランク以上の冒険者であれば一騎打ちなら余裕ですね」
王都の冒険者ギルドを活動拠点とするユリウス・ヴェルナーは退屈そうに答える。Sランク冒険者の彼にとってはキングといえどもただのゴブリンだ。
「……ふむ。しかしゴブリン風情が陣を敷いているから何事かと思えばゴブリンキングが湧いているとはな」
「私がキングの首を捕ってきましょうか?」
「いや、それでは軍の対面に差し障る。部下たちに手柄をとらせてやらねばならない」
ユリウスは肩を竦め口を閉ざす。なら呼ばなければいいのにと思うだけだ。
「伝令!両翼の将軍に伝えよ!ゴブリンが動くまでは待機!大公軍が合流した後総攻撃を仕掛ける!」
マルボロたちは王都近くの農村で斥候役のハコの知らせを待っていた。
「まさかゴブリンキングがいるだけであんなに規律正しくなるとはねー」
「背後から奇襲しかければなんとかなるんじゃね?こっちの人数も増えたしな」
ネイサン駐屯兵団の殿を務めた部隊はこの農村でゴブリンの群れとぶつかり全滅したようだ。ここで命を落とした兵士はおよそ五百。その内十名ほどが新たに仲間に加わった。
「今回はやけに多く仲間になりましたね親方様」
「ここで殿を務めた兵たちは爵位の低い家の者や準騎士が多かったようですから、捨て駒にされたことへの無念の思いが強かったせいかもしれませんね」
「クリスティーナも貴族でしょ?」
「貴族といっても当家は準男爵ですから領地もないので平民とあまりかわりません」
「へえ、貴族にもいろいろあるんだね」
すでに作戦は決まっているのでまったりと過ごす。
作戦内容はハコが魔物使いの居場所を見つけだし両軍が開戦するのを待つ。そして戦が始まったらそのどさくさに紛れて魔物使いを攫い馬車に乗せて逃げる。これだけだ。ゴブリンキングを討伐する必要はないので成功の確率は高いと読んでいる。
『見つけたわよ!ゴブリンキングの近くにいなかったから手間取っちゃった!』
『近くにいない?』
『ええ。両軍と離れたところで陣を敷いている謎の騎士団のいる方へ単身向かっているわ』
『ハコ殿、その騎士団の旗印の特徴を教えてください』
『盾形のエンブレムの真ん中に剣でバッテンを描いたような紋章だったよ』
『それは大公軍の軍旗で間違いないと思います』
『魔物使いが大公軍と合流する前に拘束するぞ!カイト、リーナ、サラ以外はここで待機!』
サラに跨り草原を駆け抜ける。
『ハコ案内を頼むぞ!』
『まかせて!』
『魔物使いに追いついたらサラは馬車の姿に!カイトとリーナは荷台で待機!魔物使いの相手は俺がする!手足を切り落とすからリーナは回復を!カイトは自害させないように気をつけろ!』
魔物使いが公爵と繋がっているとしたら公爵が黒幕ということだろうか。
まあいい。
俺には関係の無いことだ。




