ゴブリンクイーン③
「ロック」
球体たちは自分のまわりに集まってきてぷかぷか浮かんでいる。おそらくこれが魂というやつだろう。
兵士の骸から魂が離れたとき今にも消え去ってしまいそうな感覚を覚えた。だから「ロック」を使って魂をこの世界に繋ぎとめたのだ。
この球体もとい魂こそ俺が鑑定していたものの正体だろう。
俺に寄ってこなかった球体は自身の骸にとどまり徐々に薄れ霧散していった。どうやら俺と相性の良い者だけこの世に留まれるようだ。
さて、すぐにでも球体を覚醒させたいところだがここでは目立ちすぎる。かといってここを離れるわけにもいかない。いっそのことゴブリンを追撃して森にはいってアンロックするか。
ゴブリンの大群は二手に別れた。ネイサンを襲撃しているのは全体の一割ほどらしいがそれでも一万ものゴブリンの群れである。それを統率している上位個体がいるはずだ。
『ハコ、上空から偵察を頼む。カイトとリーナは擬人化して一緒に突っ込むぞ!』
『わかったわ!』
『ついに僕の出番ですね親方様!』
『え、わたしも行くんですか?』
やっと起きたかこのポンコツめ。
「それじゃ行ってくる!」
ハコは上空高く飛びあがると森の奥へ消えていった。それを追うように愚図るリーナのけつを叩いて三人で森の中へと突っ込んだ。
まわりに誰もいないことを確認し球体たちを「アンロック」する。眩い光がおさまるとそこには三人の兵士と二人の冒険者が立っていた。
「みんな事情はどれくらい把握してる?」
魂から覚醒させたのは初めてだ。カイトたちは記憶があいまいなようだが何か違いはあるだろうか。
「だいたい把握してるぜマルボロ」
「こちらも同様です主よ」
驚いたことに五名のうち二人は見知った顔だった。
「あれ!?昇級試験のときの試験官とお坊ちゃんの護衛をしていた騎士じゃないか!」
この二人がゴブリンなどに後れをとるとは思えない。
「情けないことにちとしくじってしまってなー」
「ゼルマンさんはわたしをかばって死にました……」
話しを聞いたところ、同じPTのメンバーだったCランク冒険者のテレサを助けるためにゼーマンが助けに入ったが結局二人とも死んでしまったとのことだった。
「われわれも似たようなものです。主を、いや、元主を助けて身代わりに……」
「主っていうのはもしかしてあの貴族の坊ちゃん?」
「あのガキのためになぜわれわれが死なねばならんのだ!Eランク冒険者は城門の内側で待機の指示が出ていただろがあ!」
「クリスティーナさん落ち着いてください!」
「はっ!お、お見苦しいところをお見せして申し訳ございません!」
いろいろ溜まってたのだろう。見なかったことにしよう。
クリスティーナの部下であるルートとアドミンはまだ騎士見習いらしい。
「みんなにとって俺はどういった位置付けになってるの?」
カイトたちが俺を主人扱いするのは理解できる。だがこの五人は記憶が残っているにもかかわらずクリスティーナは俺を主と呼んだ。
「んー、俺は歳も上だし冒険者としても先輩だがやっぱりマルボロは俺たちの主人だな。何を悩んでるのかは知らんが俺たちがそれで納得しているのだから問題ないんじゃないか?」
釈然としないが今はそれでよしとしよう。ハコが戻ってきた。
「見つけたわよマルボロ!ゴブリンたちを扇動しているのは人間よ!」




