ゴブリンクイーン②
ドワーフ鍛冶屋からリーナを回収して事情聴取を行なう。腹を空かしていたのでモエに軽食を作ってもらった。
「ほれれれすね、ほうえんしゃに」
「口にものを入れて喋るなー!」
「それでですね、冒険者に見つかって杖になってやり過ごそうとしたんですけど、その姿のままお持ち帰りされてしまって今に至ります」
「冒険者に姿を見られたのは間違いないんだな?」
「ふぁい。んぐんぐ、このサンドウィッチ美味しいです!」
ということは、ゴブリンからあまりにもかけ離れたリーナの姿を見てゴブリンクイーンと勘違いしたわけか。
「問題は万事解決ですね親方様!」
「そうだな明日は後方でのんびりしていよう。どうせゴブリンこないし」
「それよりリーナっちはどうするの?見つかったらまた騒動になるわよ」
「壁に飾ってある仮面でも被っとけばいいんじゃないか」
どこかの土産だろうか。顔全体を覆える真っ白い仮面が掛けられている。
「ならこのローブをやるよ。私のおさがりだけどね」
白い生地に金糸で刺繍がいれてある高価そうなローブを着たリーナはどこぞの貴族のお嬢様のようだ。肌は緑色だけど。
こうしてリーナが戻り、明日が終わればいつもの日常が返ってくるだろう。
「クソ!こいつらいくら倒しても数が減らねー。まさか討伐班が襲撃する前に襲って来るとはな!」
『ですがそのおかげでなんとか防衛できているとも言えますよ親方様』
『というか本当にゴブリンクイーンがいるなんてびっくりよね!』
『zzz』
ゴブリンクイーン討伐班が出陣する直前になって、斥候役の冒険者からゴブリン進軍の報がもたらされた。その数およそ十万。
それにしてもおかしい。王国軍の姿が見当たらない。ゴブリン来襲時には冒険者と一緒にこの城門を守っていたはずだが。
交易都市ネイサンは王国の直轄地である天領であるため領主はおらず、王都から代官が派遣されてこの街を治めている。なのでネイサンにいる駐屯兵はローゼン王国軍である。それがいつのまにかどこかへ消え去ってしまった。
『旦那様。お婆様からの伝言です。盗賊ギルドの精鋭が先程ゴブリンクイーンを討伐しました』
『とはいってもまだ十万のゴブリンが残ってるしなー』
『逃げるしかなくない?』
『敵前逃亡は騎士の恥じですが僕も賛成です』
『zzz』
『追加情報です。ゴブリンの多くは王都へ向かったようです。ここネイサンを襲っているゴブリンは全体の一割程度だそうです』
それで王国軍の兵士がネイサンから消えたのか。だがゴブリン共はなぜ王都へ向かったのか。目の前の餌に喰らいつかずわざわざ遠くの餌場を目指すのは不可解だ。もしかするとゴブリンクイーンとは別にゴブリンの上位個体がいるのではないだろうか。
襲ってくるゴブリンを斬り飛ばしながら考えをめぐらせる。
思えば自分も成長したものだ。もちろんサクラの剣技があってこそだがそれも俺の力にかわりない。ゴブリン相手なら何匹こようが負けないだろう。それは周りにいる高ランク冒険者も同様である。
斃れているのは開戦直後の混乱に対応できなかった低ランク冒険者や駐屯兵である。なかには十代の若い者もいる。
丁度ゴブリンの攻勢が途切れ一息いれる。若い亡骸を眺めていたところ、薄ぼんやりとした球体がその骸の中から現われた。
一瞥しただけでは見のがしてしまうほどの儚げな球体が辺りにいくつも浮遊している。どうやら見えているのは自分だけのようだ。
気付けばいつものようにスキルを発動していた。ただし別のスキルだ。
「ロック」




