飛び級
「それじゃ行ってくるよ、モエ」
モエはメイドである。元はお婆の家の包丁だったからだろうか、ごく自然にお婆の身の回りの世話をするようになった。
「いってらっしゃいませ旦那様」
お婆の助言通り冒険者活動に精を出している。主に討伐依頼を中心に受け最近ではワイルドボアやオークまで狩れるようになった。
それに対して仲間集めは難航している。今のところモエ以外の仲間は増えていない。
いつか相性の低い短剣を「アンロック」してみたところ、ガラの悪そうな盗賊風の男になり襲いかかってきたので、「ロック」し直してハコに預け封印した。
なぜ封印したのかというと殺せなかったからである。お婆によるとスキル「アンロック」によって擬人化した者は俺が死なない限り何度でも蘇るらしいのだ。
それ以来相性の高い物だけ「アンロック」を使うようにしている。
仲間集めが捗らない原因はまだある。今は美少女ゴブリンの捜索を優先しているのだ。なんといってもリーナは回復魔法持ちである。ぜひとも仲間にしたい。なので他の冒険者に見つかる前に保護しなければならない。
リーナに逃げられた辺りから探し始め、今では森のだいぶ奥まで来ている。ぶっちゃけるとリーナ探しのついでに魔物討伐をしているといったほうが正しいかもしれない。
今日もリーナを見つけることができなかったが、ワイルドボアとオークは大量に狩ることができた。ボアは解体せずそのまま収納しオークは討伐部位である鼻だけ回収した。
一度、オークの睾丸をお婆のお土産に持って帰ったところ酷く怒られたのでいまでは放置している。店にあんなに陳列してあったからお持ち帰りしたというのに理不尽である。
冒険者ギルドに併設してある解体所に寄ってワイルドボアを買い取ってもらう。特に肉は需要がありいい金策になる。
ギルドの受付でオーク討伐の精算をしていると、めずらしくギルドマスターのボルツさんが話しかけてきた。
「マルボロ、これからCランクの昇級試験するから訓練場まで来い」
「はい?俺Eランクなのですが?」
「んなことはわかってるが、オークをこれだけ狩れるならCランクでも問題ない」
訓練場に移動して対戦相手を待つ。
Dランクの昇級試験はEランク同士が模擬戦をして勝った方がランクアップするというものだ。Cランクも同様に模擬戦をするのだが対戦相手はBランク以上の冒険者が務め、勝敗は関係なく技量が認められればCランクに上がることができる。
『せめてサクラを使えればなー』
模擬戦では安全のため刃を潰した武器で行なわれるので合格するのは難しいかもしれない。
『親方様がんばってください!』
『マルボロ負けたら晩御飯抜きよ!』
うるさい黙れ。お前の飯を抜くぞ?
「待たせたなマルボロ」
現われたのは自分の背丈ほどもある大剣を手にしたギルマスだった。ギルマスは初老にさしかかろうかという歳だが身体はまだまだ現役のようだ。
隆起した体中の筋肉を使って軽々と大剣を振り回している。
「お前も自分の得物を使っていいぞ」
ギルマスは元Aランク冒険者だ。サクラを使ったとしてもどこまで戦えるだろうか。
「それでは始め!」
自分で開始の合図をだしてそのまま距離を詰めるとかきたないぞギルマス!
すんでのところで転がるようにして躱すと元いた場所の地面が抉られていた。
「ちょっと!殺す気ですか!」
「寸止めするから安心しろ!」
「寸止めしきれてないからそれ!」
会話している間もギルマスの大剣は襲いかかってくる。躱すだけで精一杯だ。
「ほらほらどうしたー!攻めなきゃ勝てんぞ!」
挑発には乗らずに機会を窺う。
「せいっ!」
ギルマスの振り下ろした大剣が地面に突き刺さった。
『ここだ!ロック!』
地面と大剣を一瞬だが固定する。
「!?」
その一瞬で僅かだが距離をとることができた。
「桜花一閃!」
ギルマスの脇をすり抜ける。
「速いな。だが俺の相棒は頑丈でな」
ああそうですか。
「桜花一閃!」
「何!?」
うちのサクラも頑丈ですよ。
「桜花一閃!」
その大剣叩き斬る!
「桜花いっ……」
「そこまで!合格だ!」
終わりの合図とともにその場に崩れ落ち大の字に寝転んだ。
武技の使い過ぎで体中が悲鳴を上げている。
今日はカイトに背負ってもらって帰るしかなさそうだ。




