盗賊ギルド
昨日の魔道具店へ行ったところ別の人物の紹介をされた。その者を介して盗賊ギルドと連絡をとるようにとのことだ。
その人物は貧民街で素材屋を営んでいる自称錬金術師の婆さんで、よく見知った相手だ。俺の住んでいる長屋の所有者でもある。
おそらくヘルマンに俺を推薦したのはお婆だろう。母が亡くなってから貧民街で行き倒れていた俺を介抱し長屋に住まわせてくれた恩人でもある。冒険者になる前はお婆のお使いをして糊口を凌いでいた。
「お婆いるー?お婆ー」
店内は何に使うのかよく分からないもので埋め尽くされている。蛇の抜け殻やオークの睾丸なんてのもある。
『ご主人様、このお店気持ち悪いです』
どうやら今は女カイトのようだ。ハコは店内を散策している。
「お婆ー」
「やかましい!聞こえてるよ!」
店の奥から現われたのは、長い白髪を腰までたらした若いころはさぞかし美人であったと思われるお婆だ。
「ヘルマンさんに俺を推薦したのはお婆だよね?」
「ああ、その話しを始める前にまずはそいつらを紹介しな」
「ワタシはハコ。マルボロの保護者よ!」
俺がお前の保護者だよ。それからそのドヤ顔はやめろ。
『親方様、僕はどうしますか?』
『もうばれてるから出てきていいよ』
っていうか女カイト逃げやがったな。
「僕は親方様の護衛役のカイトです」
「それからこいつはサクラ!俺の第一夫人となる女だ!」
「刀に欲情するような変態になってしまったか……育て方をどこで間違ったのか」
いつか人の姿をしたサクラを紹介するから待っててくれお婆。
「これで全員かい?」
「……、実はゴブリンの巨乳美少女が逃亡中」
「そうか……、ゴブリンにまで……」
お婆はリーナを見ていないから仕方ない。でも本当に可愛いんだよお婆。
「ふむ。ようやくアンロックを使いこなせるようになったようだね」
お婆は何でも知っている。スキルの使い方はお婆に教わった。ステータスの隠蔽の方法もそうだ。
「この調子でどんどん仲間を増やすんだよマルボロ」
なぜとは訊かない。どうせ教えてくれないだろう。
【クレア・ノルドシュトルム】【性別・女】【相性・100%】【預言者】【魔女】
お婆の言うことに間違いはない。
「それじゃ場所を変えようか」
ここは盗賊ギルド自治区内にあるお婆の自宅らしい。一人で住むには広すぎる程だ。部屋もいくつもある。
「今日からここに住むといい」
「でもお高いんでしょう?」
「家賃なんか取らないよあほたれ!」
店と違って綺麗に片付いている。心なしか上品にさえ感じるのも気のせいではないかもしれない。
テーブルにお婆と向かい合って座るとカイト(男)がお茶を運んできた。カイトもお婆には逆らえないらしい。
「やっぱりさ、ギルドの一員になると貴族の馬車を襲ったりしなくてはいけないの?」
「はあ?いつの時代の話しをしているんだ?私たちはそういった手合いを狩る側だよ」
「そうなの?じゃあ暗殺とか……」
「しない!盗賊ギルドの主な仕事は他国での諜報活動や要人の警護、所在不明者の捜索などだ。盗賊ギルドはローゼン王国の国家機関だけど、対外的には公にしていないから誰にも喋るんじゃないよ」
「もし秘密を漏らしたら?」
「暗殺者が差し向けら……」
「やっぱり暗殺の任務があるんじゃないか!」
「ひ、否定はしないがマルボロは気にしなくていい。ギルド内の特別な部署が担当しているからね」
お婆の話しによると新入りの自分にまわってくる仕事はお使い程度のものらしい。今は力をつけることだけを考え冒険者稼業に専念しろとのことだ。
お婆にそう言われてはやるしかないな。
お婆は何でも知っているのだから。




