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追いかけるセピア色の記憶

作者: 影迷彩
掲載日:2019/06/29

 珍しく、今日は人名付きです

 ──そうよ僕、その角度──


 色の味わいも思い出せない記憶、幼い頃の僕はカメラのボタンの機能すら分からなかった。


 ──そこはズーム、そこがシャッターを押すところ……そこで写真が出来るのよ──


 黒とも赤とも言える髪色の女性は座りながら指差しで、カメラのあちこちを見回す僕に写真の撮り方を教えてくれた。


 ──僕、いい感じに撮ってね。今写真を頼めるのは、僕しかいないんだから──


 椅子に背をつけて腰掛け、女性は艶やかな唇を結んで笑みを僕に向けた。


 その時の写真が、僕の部屋に飾られている。

 二枚撮り、片方を女性に、片方を僕に預けた。

 机の引き出しに入れて、額縁に飾った時には既に色褪せていた。

 この写真は僕の原点、僕の仕事の本流。

 太陽の陽射しの明るさ加減が昼の時刻を知らせ、僕は時刻を確認すると一階の仕事場に降りていく。

 部屋を出る前に、写真の女性に一瞥する。仕事に遅れるといけないのでほんの一瞬であったが……きっと、この思いは「未練」なんだろう。


 「そうだよ、その位置」


 僕はカメラのズームを調整し、レンズ越しに被写体を覗く。

 今日が卒業祝いらしい被写体の少女は、僕の知り合いであり、僕のお得いさんだ。


 「いつもありがとうね、町一番の写真家さん。アヤのアルバムは、綺麗な写真だらけよ」


 少女、アヤの母親が僕を持ち上げる言葉を投げてくれる。


 「いえいえ、今日も調子がいいですね」


 僕はレンズを覗いたまま、あいさつを返す。


 「そうなのよ。今日早速、進学先に行くんですから」


 「え、随分早いですね、全く聞いてませんでした」


 「ごめんなさいねぇ、ウチのアヤったら、アナタのこと話したら、もういっそ町にいたら寂しくて辛いと言い出してね──」


 アヤは不意に顔をしかめ、母親に向けて視線を睨んだ。

 危うくシャッターを押しそうになった僕は、口角を指で上げて「笑って♪」というジェスチャーを送る。

 アヤはハッとして、頬を赤く染めると元の綺麗な姿勢に戻った。

 ──うん、いい感じだ。最後の仕事は、今までで一番いい写真になるだろう──

 そんなことを思っていたからか、今日の撮影はリテイク関係なく、何枚もシャッターを切った。


 仕事をしっかり終え、僕は部屋に戻ると身支度を整えた。

 今日、僕はこの町を出て旅をする。

 色んな風景の写真を撮影したいし……僕に写真家の道へのきっかけを与えてくれた女性に、もう一度会いたいからだ。

 あのあと町の人に聞いたが、どうやら旅人だったらしい。名前も生まれも聞かなかった。

 僕が知ってるのは、黒と赤色の情熱的な魅惑の、笑顔が艶やかな顔だけだ。


 夕暮れ、電車の改札を抜け、駅のベンチに腰かけると、ちょうど隣にはアヤが座って本を読んでいた。風景の写真集らしい。

 僕が隣に座ったのに気づくと、アヤはハッとして本を閉じ、慌てふためいた。


 「あ、ごめん。邪魔しちゃった?」


 「い、いえ……お兄ちゃん、今日で町からいなくなるの?」


 僕は一瞬惑い、ウンと頷くと、アヤは目に涙を溜めてそっぽを向いた。


 「え、あれ、どうしたの!?」


 僕が戸惑うとちょうど電車が音を立てて停まり、アヤに続いて僕も乗り込んだ。


 「うっ、ぐすっ……ごめんね、行き先大丈夫?」


 「いいよ、行く先決めてない1人旅だし……」


 1人旅、改めて僕は不安になる。これから、どこに着こうか。道は何も決めていない。


 「……町には、戻ってくる?」


 「うーん、しばらく……1ヶ月、何ヵ月……?」


 我ながら計画性の全くない、そう自分に呆れてると、アヤは目頭を赤くしながら僕の顔を覗いていた。


 「お兄ちゃん、どこに旅するの……どこで、写真撮るの?」


 「まぁ、まずはここから一番近い名所。ガイドブックを読みながら、溜め込んだ貯金を崩して撮影場所を探してく……うん、探しに行く感じだな」


 「お兄ちゃん、何か探してるの?」


 「……うん、探してる。僕の始める旅の目的は、昔撮影した女性を探すこと」


 アヤは胸を抑えた。苦しそうに、何かを吐きそうに。だけど僕が心配し始める前に、今にも泣きそうな顔を笑顔にした。


 「そうなんだ♪ それって、見つかりそう?」


 見つかりそうかどうか、正直分からない。年単位で探しても見つからないだろう。もしかしたら、既に故人かもしれない。いや、家庭を持ってて……

 僕は、あのときの女性に会って、どうしたいだろうか?


 「見つかるといいね、その女性に」


 アヤの僕に向ける笑顔は、写真で作った表情じゃなく、優しさと想いを向けた快活な笑顔だった。

 それでていて、真摯な眼差しで僕を見つめる。


 「お兄ちゃん、その女性に会いたくて決心したんでしょ? それがお兄ちゃんの夢だったら、私はお兄ちゃんの夢を信じてる」


 「アヤちゃん……ごめん」


 「謝ること全くないよ! 私も1人で学校に行くし……まぁお兄ちゃんに比べれば大変じゃないかもしれないけど……」


 アヤはニコッと笑った。不器用な僕を見守る、あの女性の笑顔と似ていた。


 「だから、お兄ちゃんが1人で頑張ってるの、分かるつもり。お兄ちゃんが頑張るから、私も頑張ろうと思う」


 電車が停まり、アヤは席を立った。ここで僕とアヤは、道を分かれて旅立つ。


 「だけど時々、町に戻ってきてね。そしたら連絡すること。私も戻って、一緒に思い出語ろうね」



 電車が発車し、僕は窓からアヤが改札を出るのを見送った。

 窓は夕焼け空を投下し、列車内をオレンジに染めた。

 あの頃の、写真を撮った記憶も明るいオレンジで染まっていく。

 僕に、写真家としての道を作ってくれた女性が、この道の先にいるだろうか。

 それは分からないけど、僕に勇気を分けてくれたアヤとの思い出を振り返り始め、僕は旅しに行く。

今回は今までで一番上手く書けたかも。


1人だけ名有のアヤ、彼女も主人公もつもりで書きました。

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