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魔女様は攻略しない  作者: mom
第5章 エリル村 冬の大感謝祭

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とある村人の一日 レクサスの場合



カンカンカンカン、村にけたたましい音が響いた。

魔物出没を報せる警報だ。


「区画C、レベル2! 繰り返す! 区画C、レベル2!!」


魔物の襲来場所と対処難度を示す言葉が繰り返される。区画Cというと、魔女様へ奉納する卵を生産する為の鶏舎がある。

あそこの担当はどちらかと言うと、記録を付けたり実験をする仕事が多いので、力自慢のタイプが少ない。魔物を止めきれず、鶏が襲われでもしたら大変だ。


「わしらが近いな。」


「………よし、行くべさ。」


隣の畑で畑仕事をしていた隣人がこちらに歩いてくる。

それに返事をしながら、己も農作業の手を止め持っていた鍬を握り直した。



「うぉおぉぉお!!」


「これは魔物風情が食べていい代物じゃねぇんだよォオオ!!」


鶏舎に近づくにつれ、怒声が聞こえてくる。

卵の担当者のものだろう、時折バシバシと叩くような音もしている。


現場に到着すると、既に鶏舎の周りに大きな芋虫のような魔物が3匹寄ってきており、それを若い飼育係が木の棒でどつき回していた。


「助けが来るまで何としても死守しろ!」


腰の曲がった担当者は殴る体力は無いようで、鶏舎に芋虫が近寄らないよう何とか気を引いたり石を投げたりしている。他に婆さんや女の担当者も居たはずだが、危ないから鶏舎に一緒に隠れているのだろう。


そう、村人も大切な魔女様の資源。

鶏を守るためとは言え、魔物に対処出来ない者をうかつに参加させて怪我をしたり死んでしまったりすれば意味がない。

以前区画Eの畑に魔物が出たときは、畑を守ろうとするあまり、そこの奥さんが一人で魔物に突撃し深手を負った。魔女様の為に普段以上の力で奮戦した結果、畑を守ることは出来たが、怪我のせいで畑仕事に支障が出て、生産効率は落ちてしまった。

あの奥さんは手際が良く、収穫時に作物を優しく丁寧に、且つ素早くもぎ取る手腕を高く評価されていた。早く完全復帰して欲しいものだ。

次の祭で彼女が出品予定のカボチャの彫刻を楽しみにしている者も多いというのに………。


話が逸れたが、要するに適材適所、自分に出来ることと出来ないことを見極めるのが大事だ。

わしらも年寄りだが、鍬を振り上げて下ろすだけなら毎日やっている。レベル2ならばわしらで対処可能だ。


「……ふん!」


一緒に来た隣人と、若い飼育係が叩いている以外の芋虫を1匹ずつ鍬で退治する。

芋虫の背後から振り下ろした鍬はどちらも見事に命中した。


「よし、次。」


最後の1匹に目を向けると、あっちも仲間がやられたことに気がついたのか、こちらに向かって糸を吐きかけてきた。


「ぬぅん!」


自慢の体幹を活かして上体を逸らし糸を避ける。そのまま元の体勢に戻る勢いで鍬を振り回し、芋虫の胴に当てた。


「………鍬が汚れてしまったな。」


しっかり手入れしなければ。


「レクサスさん! すいません!」


鍬を見ていると、若い飼育係………ベルクが駆け寄ってきた。


「ベルク、魔物は他にいないか?」


「はい、ここに出たのはこれだけです。」


警報が出たということは、既に見回り担当が他に魔物がいないか村の周囲を見に行っているだろう。


「お、レクサスの爺さん。もう片付いたのか?」


少しすると、警報を聞いて駆けつけたらしい近隣の村人が集まってきた。


「ははは残念、今回はわしらが一番乗りじゃな。」


「まぁ被害がなくて良かったぜ。」


「わたし、報告してきますね。」


魔物の死骸を確認して、それぞれバタバタと動き出す。


「緊急連絡! 緊急連絡!」


それと入れ替わりに、別の声が聞こえてきた。

村で一番足の速いガロンが、大声で叫びながら物凄い勢いで駆け抜けていく。

最近また声量が上がったようだ。


「なんだなんだ。」


彼の緊急連絡は、先ほどの警報よりも重要性が高い。

警報は、どちらかといえば業務連絡に近い。対処できる者に聞こえれば良いし、必要な者には聞いた者が伝言するので聞かなかった者がいても問題はない。

対してこの緊急連絡は村中を回り知らせる、大切な情報だ。よくあるのは村の人気作者による魔女様関連の作品の完成告知。絶対に聞き逃す訳にはいかない。

集中してガロンの方に耳を向ける。


「魔女様が視察に来られる! お姿が拝見できるぞ! やっふー!!」


奇声を上げ、飛び跳ねながら走るガロンの影が小さくなっていく。

魔女様が、村に降臨なされる………!!


「こ、こうしちゃおれん!」


「お出迎えの準備をせねばな!」


鍬を拭いていた隣人と目配せをする。

そうだ、この芋虫をさっさと片付けねば。


「おい、誰か手伝ってくれ! 魔女様のお目に触れる前に始末せねば。」


「こりゃ大変だ! わかった!」


鶏舎に隠れていた婆さんたちも出てきていたので、総動員で速やかに三体の痕跡を撤去する。


魔女様はそれはもうお優しい方なので、この村を襲う魔物を退治するのと引き換えに食料や物資を奉納することを許してくださっている。

無条件で受け取るのを嫌う、義理堅いお方なのだ。

それなのにわしらが割と自力で魔物に対処できるようになっているとバレれば、自分は必要ないと思われるかもしれない。


そこで村の会議で話し合い、方針が決まった。

今回のような突発的に発生した雑魚魔物は自分たちで倒せるようになることで魔女様のご負担を減らし、周辺の巡回で見つけた巣穴や群は魔女様に退治を請願する。

そうすれば魔物退治の対価として捧げ物を受け取っていただける上に、雑魚が減ったと思われれば魔女様が我々の安全を気にせず安心してお出かけすることができる。

魔女様はお優しいので王都に赴かれる際も残される我々の身を案じてくださるのだ。

そして一番重要なのが、魔女様の手による魔物の遺骸──聖遺物が手に入ることである。これは飾ってよし墓に入れてよしの代物だ。


程よく魔物退治をお願いし、美しい魔女様のご勇姿を心に納め、聖遺物を入手し、貢物を捧げる。

これぞ正しい村人のサイクル。

健康的で文化的、活力が湧いて心も豊かな最高の生活である。


もうすぐ冬だ。

今までならばただ寒くてひもじいだけの冬。

今年は食糧も十分、魔物対策も万全、何より感謝祭のある冬。


楽しい気分で魔物の始末を終え、魔女様のお姿を目に焼き付ける為に急いで村の入り口へと向かった。



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― 新着の感想 ―
[一言] なんか変な(しかも狂信的な)宗教になってるー!? 最初は同人誌くらいだったのに…どうしてこうなった! これ、教会の偉い人とか来たら異端審問…ひぇっ
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