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魔女様は攻略しない  作者: mom
第4章 人形の棲む館〜リース家へようこそ〜

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82 帰宅する



「うわ! いい! すき!」


衣装部屋から出るとセシルが飛び跳ねた。

比喩ではなくぴょんと跳んだ。


「どうも。」


「やっぱりボクのかわいさを更にパワーアップさせるには、ミスティアで間違いないね!」


「うわ………真顔でこういうこと言う。」


悪魔に引かれてるわよ。


「髪のリボンは何がいいかなぁ、あ、ここ座って。」


セシルがこれまた少女趣味なドレッサーの前に向かい小物入れを覗き込む。

そういや髪を結ぶとか言ってたわね。


「髪を触るならその汗を舐った汚指を洗ってからにしてね。」


「だから昨日と打って変わって辛辣過ぎない? 弁えてるとか嘘でしょ。」


「どこがよ。さっきからずっと汚いな、服に付いてたら嫌だな、とか思ってたけど言ってないでしょう。心配りしたのに。」


「今言っちゃってるから意味ないね!」


普段は砂の地面に座らないけど体育の時には躊躇いなく座るのと同じようなもので、汚してもいいと割り切ってたら建前上は大抵は我慢出来るんだけど、舐りフィンガーは流石にちょっとね。

必殺技とかで使えそう。舐りフィンガー。

物理攻撃力は低いけど精神力とか削ってくる感じ。



「はい、かわいくでーきたっ♡」


ツインテールにした後もリボンがどうとか毛先を巻きたいとか、セシルがやたらこだわりを発揮して時間をかけたヘアスタイルがようやく完成した。

なおその間のトークで、ジルが来るまでに行ったセシルの数々の変態行為が露見し「この世の害悪」とか言われて始末されかけていたが、ジルがクマ耳の譲渡により買収され、事なきを得た。


「あと一日泊まってくれたら絵描き呼んだのに。」


鏡に自分と私を映し満足げなセシルが呟く。

私が着せられたものと並べて見栄えのいい、同系統のブルーのジャンパースカートを着ている辺り、少なくとも朝、服を着た時点では着せ替えごっこを計画していたようだ。


「どちらにせよ描かせる気はないわよ。」


「え〜。」


じっとしてるの嫌だし、私の絵を持たれてるのも嫌だわ。

まぁ既にエリル村ではアホみたいに私の絵が出回ってるけど、あれは宗教画だからノーカウント。邪教信者からシンボルを取り上げたらどうなるか怖いから触れていない。


「じゃあ、ついでだしあと7着くらい着ない?」


多いわね。


「残念だけど、そろそろ帰る時間よ。また機会があればね。」


実際は暗くなったらジルに運んでもらうから少しくらい遅くなってもいいのだが、普通は暗くなる前に宿に到着する必要があるのでそろそろ出発しないとおかしい。


「仕方ないな。じゃ、せっかくだし、元の服に着替える前におかーさまにも見せに行こう。かわいいは共有しなきゃ。」


セシルに手を引かれるまま部屋を出て階段を降りる。

話している間私にクマ耳を着けて遊んでいたジルも後からついてきた。


「はぁ……そういえばミネットさん達はあの恐怖の人形部屋のこと承認してるの? 散財して迷惑かけたりしてないでしょうね。」


「かわいいドーリィルームね。お手伝いして貰った正当な報酬だからいーの。」


お手伝いだけであの量は普通買ってもらえないと思うけど………どんなハイレベルなお手伝いしてるのよ。


「あ、おかーさま! 丁度いいところに。」


二階から一階に降りる階段に差し掛かったところで、丁度下から上がろうとしていたミネットさんと鉢合わせた。


「あらあらあら! セシルちゃ………きゃっ!」


慌てて階段を上って来ようとして躓いた夫人を間一髪、ジルが抱き留める。


「ありがとうジルベールさん。ところで、セシルちゃんどうしたの? これは……?」


私の姿を頭からつま先まで順に眺め、目をぱちくりさせている。


「着てもらった。いいでしょ。」


「かわいいわ〜! おばさんの部屋にも欲しいわ!!」


飛びつくように抱きしめられた。

同じようなセリフをそこの息子から聞いた気もするが、ミネットさんは不気味さがないのでよい。

ただ、やってることは遺伝子を感じる。セシルは母親似か。


「セドリックも可愛らしいと大絶賛しているわ。」


「えっ。」


想像できない話を耳がキャッチしたので驚いて顔を上げると、ミネットさんの背後に騎士団長が出現していた。呼べば来る守護霊感がある。


「げっ!! おとーさま………!」


そしてセシルは自称かわいいに似つかわしくない声を上げていた。


「こ、これは決してミスティアをおもちゃにしたとかではないからね? 迷惑は一切かけてないから。」


また見え見えの嘘を………。

汗がすごいわよ。


「……………………。」


騎士団長は見え見えのセシルを一瞥した後、私の頭をじっと見下ろすと、無言のままポフポフと頭を撫でた。

これは………まさか愛でられている!?


「……失礼。」


「いえ、あの……どうぞ。」


手を引っ込めた騎士団長に頭を差し出すと、もう一度ポフポフしてから去って行った。

あの騎士団長が子供を撫でるとは。くすぐったかったけれど、犬に構う強面みたいでなんだか可愛い。

と、和んでいたらセシルがジト目で文句ありげにこちらを見ている。


「何?」


「ボクが髪触ろうとした時と別人かってくらい反応違うなと思って。」


「当たり前でしょう。あなたと騎士団長では人間としての格が違うわ。」


「差別!!」


怒りながら私の頬を伸ばしに来たセシルの後ろで、夫人のクスクスと溢れるような笑い声がかすかに漏れた。


「ふふっ、ふふふ…」


し、しまった………!

おばさまの前でセシルに失礼なことを言ってしまったわ……!

私としたことが。


「あ、あの……」


ごめんなさい、と謝ろうとしたところをおばさまの満面の笑みが遮る。


「二人とも、いつの間にかこんなに仲良しさんになっていたのね! わたくしとっても嬉しいわ!」


そう言って、取っ組み合いかけていた私とセシルをまとめて抱きかかえた。

な、仲良しさん……?


「ほんとうに、ほんとうにセシルちゃんってばお友達ができなくて…………」


聞けばセシルは、男の子を家に呼べば一緒に…ではなく一人で男の子たちをからかって遊びだし、女の子を連れてくればかわいくないからと見下して交流したがらないとか。

性格最悪じゃないの。


「こんなに言い合いの出来るようなお友達は初めてだわ。セシルちゃんもとっても楽しそうだし………」


おばさまがハンカチを出して涙ぐみ始めた。

確かに、遠慮せず何でも言い合える仲………と言えば間違いでもない。ただ信頼ではなく「こいつなら文句言ってもいいか」という認識になっただけだけど………


「これからも仲良くしてちょうだいね。」


「………はい…」


ミネットさんの輝かんばかりの笑顔の前には、私はただ頷くのみである。


その後は部屋に戻って元の服に着替え、荷物をまとめて下へ降りた。

挨拶をしてから馬車を待とうかと玄関へ向かうと、既に馬車を手配していたおばさまが待ち構えていた。

王都までリース家の馬車で送ってくれるらしい。親切で気が回る、かわいい奥さま……騎士団長にふさわしい。なぜ子供はあんななのだろうか。

遺伝子に思いを馳せながらおばさまの隣を見れば、もう一人の子供……セオドアが立っていた。


「魔女殿………」


目が合うと、私に何か言いかけてしばし沈黙する。こういうタイプって、続きを話す前にこちらから催促したり声をかけると「やっぱりいいです」となりそうな気がする。

黙って待っていたらちゃんと続きが聞けた。


「──妹がご迷惑をお掛けしてすみません。妹はああいう奴ですが、魔女殿のことは気に入っているようなので、良ければまた相手をしてやってください。」


あ、性転換とか関係なく既に男の娘が妹の括りに入ってるのね。

この台詞、会ってから今までで一番饒舌に喋っている。やはりシスコン……ブラコン? なのかしら。


「ちょっと! ボクのことダメな奴みたいに言うのやめてよね。」


「違うのか。」


「違うわ!!」


仲が良いわね。


「お家が遠いけれど、気が向いたらぜひまた遊びにいらしてね。言ってくれたらすぐに日程を組んで、セドリックが招待状を書くわ。」


背後の騎士団長が力強く頷く。


「ありがとうございます、私の……家はちょっとお招きできる場所ではなく心苦しいですけれど、………ありがとうございます。」


うっかりうちにも来てねと言いかけた。

危ない危ない、あんな魔物スポットな上に邪教徒が立ち寄る場所に招く訳にいかない。

そもそも家がリース一家を招けるレベルではない。


「ジルベールさんも、お菓子とっても美味しかったわ。今度は一緒に何か作りましょう。」


ジルはおばさまと趣味が合うようだ。少しの間ママ友みたいな会話をしていた。


さて、挨拶が終わったが、馬車だけ置いて馭者が戻って来ない。

ミネットさんに促され、先に馬車に乗り込んで待つ流れになった。


「……馬車の揺れが苦手と聞きましたが、馬もですか?」


馬車の扉を開きながら、思い出したようにセオドアが訊ねる。

私が馬車で死んでいた話、まさか騎士団で広まっているのだろうか………


「馬は平気ですね、一人では乗れませんけど。」


「そうですか。」


何か納得したらしく、そのまま私とジルを馬車に乗せて扉を閉めた。

今の質問は何だったんだ………セオドアの会話は独特なテンポで進む上に、真顔すぎて表情からは意図が読み取れない。

ただ気になっただけという可能性が高いけど。


「お待たせしてごめんなさいね、もう戻ってくるわ。」


馭者はトイレに行っているらしい。

お客様に失礼をと申し訳なさそうに言われたが、別に急がないので問題ない。


………トイレといえば、昨日の幽霊…セシルの仕業だと判明したけど、よく考えたらあれトイレ手前まで尾けて来てたってことよね。


「セシル。」


馬車の窓からちょいちょいと手招きしてセシルを呼ぶ。

近づいてきたセシルが窺うようにこちらを見上げた。


「そういえば流石にトイレの中までは来なかったみたいだけど、洗面台の後ろに立ってるのはやめてよね。」


今更だけど、あれが一番怖かったので文句言っておこう。


「へ? そんなとこ立ってないけど。」


「は?」


「トイレの時はずっと時計のところの覗き穴から動いてないよ。」


セシルは何の話か分からないといった様子で目をぱちくりしている。

え、じゃああの水死体の霊みたいな奴は……?

確かにセシルにしては髪が長かったけど………。


「お待たせしました、それでは出発しまーす!」


駆け足で馭者が戻ってきて馭者台についた。

ゆるりと車輪が回り出す。


「……あ、そう。」


それだけ絞り出した頃には馬車は走り出し、遠ざかるリース家の面々がこちらへ手を振っている。

私も振り返し、見えなくなったところで手を下ろし座席に深く座り直した。


よく考えたらセシル一人では説明できない、別方向からの足音とか背後の影とかがあった気がする。

セシルは隠し通路を使っていたらしいが、階段を降りている間も背後から足音が聞こえていた気がするし、走り去る音の直後にまた後ろで足音がした気もする。


「魔女様どうしたの? 酔った?」


気のせい、気のせいよね。

あまり深く考えるのはよそう。


「いや………大丈夫よ。」


無心で帰路に着く私を、人形の館の薔薇模様の門が見送った。





潔癖がしつこいので省いたヘアアレンジ前のやりとり


ジ「あ、ブラシも自前のがあるからこれ使ってね。」

セ「ボクのこと汚物扱いするのやめない? 同年代の男ではダントツで清潔かつかわいい存在だというのに。」

ミ「あなたは比較的綺麗だとは思うけど櫛はムリ。」

セ「厄介な性質だなぁ………」



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