81 自供させる
セシルを問い詰めて吐かせたところ、昨日私を悩ませた幽霊騒ぎはこいつのせいだったことが判明した。
「てへっ、ごめんね?」
私が一人の間、隠し通路を使ってずっと尾けていたそうだ。
あの足音も、あの笑い声も、全部こいつが隠し通路で発した物音。道理で音だけで姿が見えないわけである。
なお倒れていたマリーちゃんは、私のランプが切れたのでそれを口実に部屋に誘い込もうと慌てて三階の隠し通路から出た際に椅子から落ちたらしい。
「てへっ、じゃないわ。」
すこぶるイラついたので、ジルのアイアンクローを見よう見まねで再現してみる。
「あ゛ぁああよい子はマネしちゃダメぇええ……!」
「悪い子だからいいのよ。」
手が小さいのに加えて握力がない為ジルのように上手くできない。仕方がないので両手を使って両サイドから頭を圧迫して前後に振っておいた。
解放すると、酔った様子のセシルが胸に手を当て俯く。
「うぇ………地味に気持ち悪い。」
「私も顔の脂が……………」
他人の顔なんかむやみに触るもんじゃないわね。反省反省。
「酷くない?! そんなこと言う?!」
ジルが差し出してくれたおしぼりで手を拭いているとセシルが憤慨している。
私を怖がらせておいて抗議とはいい身分ね。実際いい身分なんだけど。
「私だって他人にこんなこと思うのが失礼なのは分かってるし、いくら心では気持ち悪い最悪クソがとか思ったとしても、その辺は弁えてるわよ。」
じゃないと誰彼構わず暴言を吐く嫌な奴以外の何者にもなれないからね。
「思ってたより心の中酷いね? てゆーか弁えてるなら言わないでよ。」
「あなたは無礼な変態だし、別に言ってもいいかなって。」
変態に気を遣う必要ないし。
「さっきからさぁ、それ、変態じゃないから。かわいいのが好きな常識人だって。」
「私が怖がってるのを楽しみながらこっそり尾け回したり観察する奴が常識人なわけないじゃない。」
「だぁーって怯えててもかわいいし…」
「やっぱり変態じゃないの………。」
フリフリドレス着用の、自分が最強にかわいいと言い張る男。男なのに人形趣味。
いや、性別は関係ない。
女の子であってもこれだけ部屋中ズラリと人形が並んでいたら怖い。地震が起きたら人形に埋もれて死ねるレベルだし、救助が来ても人形が邪魔してなかなか見つからなさそう。
どっちにしろ自称常識人ほど常識人の確率が低いものである。
というか、確かゲームでセオドアは妹がいると言っていたけど……まさかこの男の娘な弟を妹と称してたの?
凄まじいわね………。
適応力高すぎじゃない? 理解がありすぎるわ。
ゲーム時点では性転換とかして本当に妹だった可能性もなくはないけど。
「ふふ、魔女様おばけ怖がってたんだ。見たかったな。」
「なによ、だって攻撃しても消えるかどうかわからない存在って怖いじゃない。仕方ないでしょ。」
あ、しまった顔が熱い。赤くなってそうだわ………。
ジルが微笑ましいものを見る目で見ている。
火照りを冷ますように心を落ち着かせていると、セシルが口を開いた。
「でもマリーちゃんのこと脅してたよね。動いたらタダじゃおかないとかって……攻撃通す気満々じゃんって思ってたんだけど。」
「気合いでなんとかなるかと………ってそんなことベラベラ喋らなくていいのよ。」
あれも見られてたのね……穴があったら埋まりたいわ。
また顔が熱くなってきた。
「出たら退治するつもりだったの?」
「魔法が効かなかったら罵倒して追い払ってみようとは思ってたわ。」
「あはは、それはそれで見たい。」
文句あるかと言おうとしたら、私なら罵倒で勝てそうと不名誉な賞賛をしながら笑われた。
何かツボに入ったようだ。一人で口元を押さえてクスクスやっている。小学生女児か。
ジルが楽しそうだし別にいいけど。
「とにかく! もうボクは安心安全って分かったでしょ? はい!」
女児化したジルを眺めていると、セシルがさも自身が安心安全かのような纏めをしながら用意していた服を突き出してきた。
この諦めの悪さは何というか……おきあがりこぼしより起き上がってくる感じ。
「なんでそこまで着せたがるわけ? 着たら掛かる呪いでも仕込んでるんじゃないの?」
突き出した服は怪訝そうなジルベールに押し戻された。
それをセシルがもう一度押し出す。
「そんなわけないでしょ。着たらかわいいからに決まってんじゃん。」
「それは概ね同意だけど………」
「でしょでしょ。」
なんだかジルがあっちに引き摺り込まれそうだわ。ジルも服とか好きだものね。
「これ着てこう髪をこの辺で二つに括ったら良いと思うんだよね。」
「ふむふむ。」
「あと変わり種でクマ耳の……」
「えっ、そんなのあるの。」
そわそわしてんじゃないわよ。
窓から入ってきた時の殺戮モードのロボットみたいな感じはどこいったのよ。
「……せっかくだから着てみたら?」
「うんうん、ここまで来たらもう着てもらうまで帰せないよね!」
あ、ジルが完全に取り込まれたわ。
遠慮がちに期待をするような視線を送ってくる。
セシルも味方を得て生き生きしている。さすが復活早いわね。
「はぁ………着たら満足するなら着てやるわよ。」
「ほんと?」
「あのね、別に変な計画立てなくても、普通に言ってくれれば着たわよ。」
少なくとも昨日の時点でこれ着てみて、とか言われたら普通に着た。
今日は施錠したり舌舐めずりをしたりと、あまりにも常軌を逸した雰囲気なので逃げたけど。
無駄に怖がって損したわ。
結局害はない変態みたいだからいいけど、顔が紛らわしいのよ。
元からそんな顔ならともかく、美少女顔の奴がいきなり「変態です!」って顔全体で主張したような表情で押し倒して来たらそれはもう変態としか思えないじゃない。
「あ、じゃあ気が変わる前に。」
いそいそとセシルが一式差し出してきた服を受け取る。細かなフリルがたくさん付いた少女趣味なブラウスにくすんだローズピンクのジャンパースカートの組み合わせ。昔の少女漫画に出てきそうだ。
「まっ、まっ、まっ………」
渡された服を一旦横に置いてからワンピースを脱いでいると、ジルが慌ててセシルとの間に入ってきた。
「ま」でリズム刻みすぎでしょ。
「どうしたの。」
「待って、ちょっと待って。何してるの。」
「着替えだけど。」
なによその何か言いたげな、物申したそうな目は。
お行儀は悪いけどセシルはアレだし構わないはず。中にスリップ着てるし。
「スリップがあるから大丈夫よ。」
「いや大丈夫じゃないです!!」
その右手で目元をおさえてるけど隙間からめちゃくちゃ見てるのはなんなの。
「この部屋鍵がかかってるし。誰も入ってこないわ。」
「中に男が二人いるけど!」
「ジルと女の服着た子供じゃない。」
「えぇ~………」
いつも寝る前なんかは私、割と似たような格好でうろうろしてるわよね?
「この子供変態なのに………。」
「そういうタイプの変態じゃないみたいだし、いけるいける。」
裸体晒すわけじゃあるまいし、年齢的に小学生同士だし。
「だめだ、君も何か言って!」
「あ~、うん。ボクに振るんだ。……そこの衣装部屋の中で着替えてあげてよ。」
ジルに催促されて口を開いた、変態のセシルにまで呆れた目を向けられた。
さっきは自分が脱がそうとしてたくせに………納得いかないわ。
「もうちょっと恥じらいを持った方がいいよ。」
衣装部屋に押し込められて着替えていたら外からジルにこんなことを言われた。
私は痴女じゃないわよ。




