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魔女様は攻略しない  作者: mom
第4章 人形の棲む館〜リース家へようこそ〜

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77 妹は妥協しない



昨日の夕食の時間、滅多に喋らないおとーさまが珍しく口を開いた。

曰く、明日のお昼に魔女を家に招待したと。


なんで前日に言うかなぁ?

魔女ってなに? 童話に出てくるしわしわのお婆ちゃんみたいなやつ?

それ招いて大丈夫なの?

ボク嫉妬で呪いかけられたりしない?


もう頭の中で疑問が渦巻きまくって、全く料理の味を覚えてない。何を食べたか後から執事に聞いたら、執事も覚えていなかった。


事前察知していたらしいおかーさまは既に軽食の手配なんかを済ませていて、何考えてるのか分からないおにーさまも相変わらず何考えてるのか分かんない感じで黙々と食事を続けていた。

家族で驚いてるのはボクだけ。

二人とも適応力高くない?


おとーさまが仰るには、箝口令があったので言えなかったけど友達らしい。

アニスおじさん以来、二人目の友達……なのでとやかく言う気はないけど、箝口令がなくなった時点ですぐ言ってよと抗議したら、まだ箝口令は敷かれてるから漏らすなと言われた。

明日客人が来るとだけ言うつもりが、うっかり魔女だと喋っちゃったと。

おとーさま、箝口令守る気ないよね。



とにかく、そんなわけでおとーさまの友達の魔女が来るらしいけど、全然興味が湧かない。

童話のお姫様みたいなボクが魔女と並んだらある意味絵になるけど、そういうのは求めてない。全然かわいくない。


使用人がバタバタしだしてお客様が訪問してきた気配がしても、部屋でゴロゴロしていると、おとーさまが迎えにきた。

強制的に連れ出され、いつの間にか後ろに付いてきていたおにーさまと一緒に裏庭に連行された。


おとーさまの無駄に広い背中から顔を出すと、お気に入りのテラスのテーブルのところに人が座っている。

サラサラの銀髪をハーフアップにして、瞳と同系色のドレスを着て、白系の花束を抱えたお人形。

立ち上がって、辿々しい礼をしたお人形………みたいな人!


な、なにあれ………


「かわいい!! すき!!!」


思わず叫んでから我に返ると、先に歩いていたおとーさまは大分遠くなっていて、転びかけたおかーさまを支えていた。

ボクは衝撃で立ち止まっていたみたいで、テラスまではまだ距離がある。叫びが聞こえなくて良かった~。


「あ~ムリ、かわいい…」


こんなにかわいい人間がボクの他にも存在してたなんて………。

しかもあの人を寄せ付けない瞳、触れれば怪我しそうな近寄り難いオーラ、アンティークドールのような美しさ。持っているどのドールよりも繊細で、高級で、苛烈さの中にかわいさを内包している。

ボクの隣に並んで遜色ない、かといって被らず調和も乱さず、最高にバランスがいい!

合格! 圧倒的に合格!


近くに行って挨拶すると、強気な外見に似合わずぎこちない礼をしてくれた。

ボクのことを窺うように見ている。


隣に座って近くで観察すると、魔女とかいう割に貴族教育でも受けたかのように所作にも気品がある。なかなかの逸材、しかも肌も綺麗でおまけに声もかわいい。


あの服とかあのドレスとか似合うだろうなー。

でも、おとーさまの客人だしあんまり勝手なことをして怒られたらまずい。今おねだりしてる最中の新しいドレスを買ってもらえなくなる可能性がある。


とりあえず友達になって、次に繋げよう。

そう思って薔薇園に連れ出したら、雨が降ってきた。ボクの荒ぶる気持ちを表現するかのような嵐、雷。

降り続く大雨に、ミスティアはうちに泊まることになった。


「はぁ………、これはまずい。どーしよ。」


ミスティアを部屋に案内してから自分の部屋に篭る。

ボクに都合が良すぎて目眩がしてきた。

泊まりなら、チャンスがある。ネグリジェはおかーさまが用意してしまったけど、次の日……好きな服を着せるチャンスはある。

何着も着せたりしたら不審がられるから一着。今回は、ひとまず一着。


衣装部屋の扉を開き、目を走らせる。

黒系の服は似合うだろうけど、今日見たのと印象が近い。やっぱり逆にピンク、いや白で統一するのも捨てがたい……

赤みたいなハッキリした色もいい。でもどうせならフワフワひらひらな感じの方が……


思考を巡らせながら衣装部屋を一巡する。埒が明かない。


「よし!」


もう一回実物を見て決めよう!

幸い、明日まではまだまだ時間がある。

今日のうちに観察して、着せたい服を決めよう。


ランプを持ち、衣装部屋の扉を中から閉めて、奥の隠し扉から通路に出る。

暗い通路を通ってゲストルームの壁の裏まで行き、覗き穴から中を確認すると、ミスティアはそわそわと部屋をうろついていた。

内装をひとしきり見回した後は、夕食の時間になり部屋を出る。部屋を覗く穴から、廊下に作った絵画に偽装したレンズへ移動して見ると、ちょうどミスティアが前を通った。

マリーちゃんが気になるのか、きょろきょろ後ろを気にしている。


壁の中の通路を通って先回りし、一階の覗き穴でも観察する。

途中で会ったのか、付き添いの黒い人───ジルベールさんと下りてきた。あの黒い人はなんか鋭そうだし、あんまり見てるとバレそうだな。

程々で切り上げよう。



ご飯の後は、少ししてからお風呂だ。

流石にお風呂を覗くとメイド長に怒られそうなので、バスルームの外の隠し通路で待機する。


「まだかな~。」


軽くストレッチしながら待っていると、ようやく中からミスティアが出てきた。着ているのはおかーさまが用意した白いレースのあしらわれたネグリジェで、大きく動くと長い裾がふわりと翻る。


むり! すき! かわいい!!

さすがおかーさま! 分かってる!

やっぱり清楚路線がいいかな!


感情に任せてうっかり壁を叩くと、メイド長に睨まれた。

まずいまずい、バレた。

メイド長が適当に誤魔化してくれたけど、ミスティアに警戒されている。

ボクとしたことが……興奮しすぎた。


そのせいか部屋に戻ってからもずっと周りを気にしている。

覗きを警戒されてるのかと思ったけど、そんなことはなかった。

ボクをおばけと思っているらしく、トイレに行く時も怖がってマリーちゃんにすごい話しかけていて面白かわいかった。

かわいいから思わずずっと観察しちゃった、てへ。





「お邪魔しま~す……」


深夜、完全に寝ているのを確認してから部屋に入る。

部屋に誘い込むのは断られちゃったけど、ボクの方から来ちゃえば問題ないよね!


さっきまでランプが消えて慌ててたのが嘘みたいに、安らかな寝息を立てているミスティアのもとへ近付く。

ボクの持ってきたランプしか光源がないけど、全体的に白っぽいので見えやすい。


こうやって見ると、白か黒。

寝ていると黄色やピンクのシフォンのドレスも合う気がするけど……眼光が鋭いから淡い色より深い色かな。

やっぱり壁から覗くよりも間近で実物を見る方がイメージしやすい。


「ふふ……………」


ベッドに上がり、馬乗りになって上から覗き込む。

ギシギシという音と振動、衣擦れの音が耳につく。しまった、音で起きないかな………。

瞼は閉じ、寝息も変化なし。呼吸に合わせて、胸が規則正しく上下する。おっけー、起きる気配はない。


さてさて、明日は何着せよう。

似合うのも良いけど、普段着なさそうなものも良い。今年の夏に仕立てたマリンブルーのワンピース、パターンを特注したチョコレート色のスカート。どれも着せたい。

あ〜、どうしよどうしよ。

選べない!


「……ふふふふふ…」


頰に手を当てると、ひやりと冷たさが伝わる。

触っても起きないし、こうしていると本当に人形みたいだ。

雷光に空が光り、輪郭が露わになる。

もう着色と顔立ちが良すぎる。

ボクにないタイプのかわいさを完璧にカバーしてる。二人揃ったら完全に世界のかわいいを制覇できる。

ほんともうめちゃくちゃお迎えしたい。

ボクの部屋に置きたい。人身売買が合法なら買ってた。


「ミスティア、寝てる?」


もういいよね? 持って帰ってもいいよね?

今ならおとーさまも寝てるし、良くない?

寝てる間に着せ替えまくったり他のドールと並べて飾っても別に良くない?


そうと決まればさっさと持ち出そう。

寝てるミスティアの腕を引っ張って背中に引っ掛け、そのまま背負う格好に持っていく。

途中で起きたらそのときはそのときだよね!


「よっ………と。」


軽い軽い。ボクのお気に入りのステッキより軽〜い。

これなら部屋に持って帰って服を替えたりするのもできそう。ふふふふふ!


「セシル。」


夢が膨らむボクの思考を、聞こえるはずのない声が遮った。


「───誰?」


誰何しなくても、この声が誰かは分かってる。

ただ、今この場にいるなんて考えもしなかった。


「魔女殿は持ち出し禁止だ。戻せ。」


声の主が、部屋の暗がりから一歩踏み出し、姿を見せる。

深夜だというのに絶対に寝る服じゃない、堅い服装とは逆に、常時寝ぼけているようなハイライトの弱い瞳と相貌。


「おにーさま………。」


全く気付かなかった。ボクが部屋に入ったときはいなかったはず。

いつからそこに……


「も〜、驚かさないでよ。覗き見なんて趣味悪いよ?」


「お前が勝手に始めたんだろう。」


「え、最初からいたの……?」


無言で頷く。

え〜、やば〜。ボクのおにーさま超ヤバい人じゃん!

ふつーお客様の、しかも女子の部屋に潜んでるとかある? 完全に夜這いじゃない?


「おにーさま、まさか夜這い………」


「お前じゃあるまいし。」


「ボクも違うからね!」


失礼なおにーさまだ。

こんなかわいいボクが、夜這いなんて野蛮な真似する訳ないのに。


「てゆーか、ボクならともかく、おにーさまがミスティアの部屋にいるのはまずいでしょ。犯罪じゃない?」


「お前と違って見てるだけだから問題ない。」


こわっ! 変態の思考だよ!


「乙女の寝顔を見るのは犯罪だから。」


ボク? ボクはいーの、かわいいから。

かわいい推定無罪だから。


「そんな法は聞いたことがないぞ。」


「そういう問題じゃないよ、常識的に考えて他人が自分の寝顔をずっと眺めてたら気持ち悪いじゃん。」


「本人が気付かなければ気持ち悪くないんじゃないか。」


ダメだこの人、生まれる時におかーさまの中に常識を落としてきてる。

その分ボクに全ての常識力が来てしまったんだね………。家族の中で唯一の常識人って辛いなぁ。


「とにかく、ジルベール殿に見つかる前に戻しておけ。」


あの黒い人ね。確かにバレると厄介そう。

ま、おにーさまに見つかった時点でどの道持ち出すのは無理そうだし、仕方ないか。


「はあーい。」


渋々ミスティアを元の位置に戻す。

さっきまで背負ったままおにーさまと会話してたけど、全然起きなかったな。


それじゃあまた明日、絶対かわいくするから大人しく着せられてよね!



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