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魔女様は攻略しない  作者: mom
第1章 そして少女は魔女となる
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07 悪魔は執心する



あれはどのくらい前のことだったか。

気がついたら異世界にいた僕は、たまに魔術師を名乗るローブを纏った中二病患者みたいな連中に呼び出されては願いを叶えたり叶えなかったりしていたら、いつからか悪魔になっていたらしいことに気がついた。

この世界に来た時から既に悪魔だったのかもしれないし、元の世界でも悪魔だったかもしれないが今となっては記憶が曖昧だ。


そんな呼び出しもここ数百年ぱったりとなくなり、暇になった僕は誰にも気に留められることもなくダラダラと過ごしていた。

そんなある日、かなり久々に大きな魔力が動くのを感じて、直後懐かしい感覚を覚えた。誰かが、召喚を成功させた。


今時、僕を召喚出来るだけの魔法が使える奴なんて珍しい。というか、まだいたんだ。

どんな奴か興味はあるけど、しょうもない願いだったら久々に運動がてら殺してやろうかな。大体悪魔を召喚する奴には碌なのがいない。思い上がった奴とか権力に溺れた奴とか…

そんなことを考えていると魔法陣の場所に繋がった。


「成功おめでとう。願いは何かな?」


なんとなくお祝いの言葉を言いながら魔法陣から身を乗り出すと、目の前にいたのは綺麗な銀髪の子供だった。

他に部屋には誰もいない────まさかこの子が召喚したのか?どこでそんな魔力…


「────え?」


いろいろ考えようとしたところで、少女はこちらを振り返った。

銀髪に白い肌、全体的に色の薄い中で赤紫の瞳が鮮烈な印象を与えている。アメジストにブラックオパールを足したようなその煌めく瞳が僕を映し出していた。


「えっと、君が召喚したの?」


今まで見たどんな宝石よりも綺麗な瞳を持つ少女。刺すような美しさの容姿に違わず、その魂も目が眩むような銀の閃光を放っていた。

魂は見ないようにした方がいいかもしれない。眩しすぎる。


「…そうみたい。」


涼しい声が返ってくる。

冷たいのに心地良い、不思議な声だった。


「召喚出来る人はここ数百年いなかったんだけど…」


「魔石で魔法が使えるから、そのせいかもしれないわ。」


そういや昔は魔石とかあったな~。それが残ってたのかな。

記憶を振り返っていると、アメジストの瞳が僕を訝しむように眺めていた。


「あの、悪魔…よね?」


「うん。」


多分ね。


「……願い事、あるの?」


召喚したってことは、何かあるよな。

村を滅ぼすくらいなら叶えてあげられるけど。

僕はさっき召喚者を殺してやろうかななんて考えていたことはすっかり忘れていた。


「あなた全然悪魔っぽくないわね。」


返事は願い事ではなかった。

普通の悪魔がどんなのか知らないけど…


「そう?」


「もっとこう、魂で契約~とかそんな感じじゃないの?」


一時期そういう台詞回しもやってたな。これがまた魔術師には好感触で……

そう思って中二っぽいセリフを言ってみると、かなりノリノリで返してきた。

やっぱ召喚者って中二病の気があるのかな…この子のは可愛いからいいけど。


そうして遊んでいると、僕のセリフに引っかかった彼女からストップがかかった。


「ちょ、ちょっと待って。あなたどこまでなら出来るの?まさか世界征服とかできちゃうの?」


「あ、いや。今のはノリで…………ちょっとした村ぐらいだったら……あ、君魂すごいし時間がかかってもいいならもうちょっと…」


やったことはないけど…魂をエネルギー源にすると普段より大きいことが出来そうではある。見ようと思えば魂がどんなのか見えるんだから、そういう能力があるはず…多分。

でも、使っちゃうのはもったいないな。

どうやら僕は彼女が気に入っている。せっかく面白そうな召喚者に会えたのに、そんなことで失うのは惜しい。


使わないでも出来る簡単なことならいいんだけど。


「ク…クーリングオフ!クーリングオフッ!!」


彼女の望みはどの程度だろうかと頭を悩ませていると、焦ったように魔法陣に押し込められた。

魂とか言ったから警戒されたかな?求められたから言ったんだけど…


そう思って魂がなくてもいける旨を伝えると、お助けキャラが欲しかっただけで悪魔はお呼びでないと告げられた。

ちょっとショックだ。


悪魔が必要なくたって…何か他のことで、興味を引ければ。欲しいと思わせられるかもしれない。


「例えばどんなことに困ってるの?言ってみてよ。」


悪魔にさして警戒もせずに、家事の悩みについて話す彼女を見て、これならずっと彼女の側にいられるなと思った。

長年の趣味がこんな形で役に立つとは───


「それなら僕、役に立つと思うよ。」


自信満々にそう言えば、彼女は不思議そうな顔をした。


「料理は得意だから。任せて。」


「え、そうなの。意外。」


「僕のこと使う気になった?」


窺うように彼女の顔を覗き込むと、近くで目が合った。

じっと見ていられなくて反射的に目を逸らす。


「…対価的なものはどうなるの?」


ここで対価はあなたの口づけですとか言ったらしてくれるんだろうか。

いやいやいや何を考えてるんだ僕は気持ち悪い。出逢って数分でそんな…それに絵面が危ない。相手はまだ子供だ。

でも歳はまぁ…かなり…2桁くらい違うけど僕は見た目は変わらないから数年すれば問題ないけど……


というか、うっかり変なことを考えたけども僕はもしかして彼女のことが好きなんだろうか。いくら長年一人だったからと言って、生まれたてのヒヨコみたいに魔法陣から出てすぐ見た女の子に一目惚れしてたら世話がない。

誰かと会話しなさ過ぎておかしくなったんだろうか。久々の会話相手に浮かれているだけかもしれない。


と、そんなことを考えている場合じゃない。そろそろ答えないと不信感を持たれてしまう。

さて、どうしようかな。本当は対価なんて必要ないんだけど。


「えっと、……」


妙案を思いついた。

コホン、と咳払いをしてから続ける。


「契約じゃないから対価はいらない。ただ、僕は知的好奇心がすごい悪魔なんだ。」


「ほう。」


「だから、報酬代わりと思って僕の知りたいことに何でも答えて欲しい。」


「私そんなに知識ないわよ?」


「大丈夫、趣味だから。知らないことは答えなくていいから。ただし分かることで嘘ついちゃダメだよ。」


「嘘ついたらどうなるの?」


うーん………殺…さないし……一応実行に移せそうなやつがいいかな。


「近くの村を滅ぼす。」


「………まぁいいか。じゃあお料理作ってくれる?」


よし、これで何でも訊ける……!

お喋りしたいなんて言えないもんね。

これは良い案だ。いろいろ知れば自分の気持ちもわかるだろうし。


「あ、その前にこれ片付けなきゃ…手伝ってくれない?」


「うん。」


とりあえず自分を取り囲んでいる蝋燭の火を消して回収していく。


「倒れたら火事になるから、床にそのまま蝋燭立てるのはやめた方がいいよ。」


「そうね……火事になったらザッハにすごく怒られそう…」


「ザッハって?」


「狼の魔物…かしら。私の保護者みたいなモノよ。」


魔物が保護者……ペットじゃないんだ。


「他には誰か住んでるの?」


「私とザッハだけよ。」


そうそう、肝心の名前。


「君は何ていうの?僕はジルベール。姓はない。」


「ミスティアよ。」


ミスティア。

姓はないのかな、なんて見つめていると答えてくれた。早速さっきの約束が役に立っている。


「…ミスティア・グレンヴィル。」


「へ、へ~。綺麗な名前だね。」


ジルベール・グレンヴィル……悪くないな。

いやだから僕は何を…


「あなたもね、ジルベール。」


冷たくて甘い、涼しく響く声で名前を呼ばれた。

僕はかなりこの声が好きだ。


「…ミス、ティア。」


「?」


「いや、食材とか調理器具とか後で見せて。」


悪魔だから力の強そうな魂に惹かれるのか、それとは関係ないのかわからないけど…


「頼んでおいて悪いけど、大したものないわよ。」


とにかく、冷たくて甘い…さながら氷菓子のような彼女を見ていると、ずっと舌の上で転がしておきたいような気分になるのだ。



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