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魔女様は攻略しない  作者: mom
第4章 人形の棲む館〜リース家へようこそ〜

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70 招待される



リース家のホームパーティ当日、私は馬に跨って森を駆けていた。

軽やかなリズムで颯爽と駆ける馬、流れる景色。馬車とは違い、酔いはない。


「魔女様、疲れてない?」


「大丈夫よ。」


ただし手綱を握っているのはジルだ。

ザッハに乗るのは好きなので、馬にも自分で乗ってみようとしたこともあったが、私が手綱を握ると馬が暴れる。何故だ。

手綱ではなく首にしがみついたら安定というか硬直されたので恐れられている気もしないでもないが、乗ってるだけなら問題ないので、馬に嫌われる体質とかではないらしい。


クレイグに言ったら、「運動音痴すぎて馬が不安なんじゃないか」と言われた。失礼だが図星。圧倒的に図星。

変に力んでいるので多分それが原因………改善しようともしたが、練習するにも暴れるし、しがみついたら怯えるし、馬が可哀想になってきてやめた。


「じゃあ王都に着いたら休憩にしよう。」


「そうね。」


リース家は王都郊外にあり、私の家からはまた王都まで結構な道のりになる。先日は宿を挟んだ馬車移動だったが、馬車に10時間20時間も乗ってたら死ぬし移動にあまり時間をかけるのも鬱陶しいので、今回は交通手段を変更した。

馬、ジル、馬だ。


日が落ちるまで馬で移動、その辺で馬を売って夜はジルで移動、夜が明けたらどこかで馬を買ってそれに乗る。

ジルを挟むことで、寝てる間も進むシステムだ。夜なら飛んでもバレないし丁度いい。

ジルは重労働だが、本人は「別にいいよ」とノートでも貸してくれるくらいの気軽さで引き受けてくれた。


初めはザッハ移動も考えていたけど、さすがに騎士団長の家に魔物を連れて行くのはまずいのでナシになった。多分マナー的に宜しくない。

でも悪魔は連れて行く。擬態できるからセーフセーフ。



昼頃、王都に到着した私たちは軽く食事をしてから花屋に寄った。

手土産をいろいろ考えたのだが、食べ物は向こうが用意しているというのと、魔女が食べ物を持参して食中毒とか悪夢なので、そういう心配のない花束を持っていくことにした。

気候が涼しくなったからと言って油断できないし、不安を与えるかもしれない。そう言ったら花束は花束で中に殺人蜂やら吸ったら死ぬ毒の粉なんかを仕込んでる可能性もあるけど………。


と、なんだかんだ御託を並べてみたが要するにお金持ちの家に持っていって不評でも処分に困らない無難なものが花しか思いつかなかった。

リース家も、毒とかそこまで疑うならそもそも呼ばない。

騎士団長は手紙に「小さな友人へ」と書いていたし。かわいい。

あの渋いおじさまが、小さな友人。言葉のチョイス。

無口で怖い感じの騎士団長が、私のことを、10歳女児を友人。大男がリス好きみたいなかわいさがある。まぁ強面と女児が並ぶと犯罪臭がしないでもないが、私の顔も割と凶悪なので大丈夫だろう。

ゲームで女好きがヒロインに「マイリトルプリンセス」とか抜かしたときは「な~にがリトルじゃ」と思ったが、このリトルはアリだ。


また王都辺りまで来るのはすごく億劫だったが憧れの騎士団長のお宅訪問が出来るなら来るしかない。


「もうすぐみたいだよ。」


王都から団長宅の間だけ、タクシー感覚で拾った馬車の中からジルが外を覗く。

外を見ると、立派な屋敷が見えた。

時間が短いので酔う前に辿り着けそうだ。


「この格好、大丈夫かしら。」


自分の足元を見る。

今着ているのは膝丈の紫のワンピース。裾にはジルが持てる技術を駆使した豪華な刺繍が施されている。


「膝が隠れてるから大丈夫大丈夫。」


貴族様のお屋敷なので、膝下10cmくらいの方がいいのかと思ったが、絶望的に似合わなかった。結局、平民設定だし膝丈でいいかとこの丈になった。

だって憧れの人を訪ねるのにオシャレしたい。礼儀も大切だけどここは折衷案で。


「それより、騎士キャラ担当がいるんでしょ? そっちのが大丈夫かな?」


「あぁ………」


そう。

ジルにゲームのことを話していて思い出したのだが、攻略対象の一人であるポニテ男子……確かセオドア、が今から行くリース家にいる。

騎士団長の息子だったのすっかり忘れてた。

無口で無表情な騎士、完全に遺伝。

貴族だから会わないとか言ったが、会う。


「いきなり告白されたりしない?」


「ないない。」


セオドアは学園では、自身も学園に通いながら王子の護衛騎士をしていて、ヒロインが聖女と判明してからは聖女の護衛も兼ねる。すごい忙しい、仕事しすぎ。

超がつくほどのマニュアル人間で、王子や上の指示が絶対、他の余計なことはしないという性格。初めはヒロインを護衛対象としか見ていないし、気になりだしても仕事を優先する。

助けてもらってお礼を言ったら無愛想に「任務ですので」とか言うタイプだ。


攻略が進むと、任務と関係ない令嬢の嫌味口撃から咄嗟にヒロインを助けてしまったり、元気のないヒロインのために指示にない差し入れをしてしまったりして、自分の気持ちに戸惑いながらも自覚する。


甘いセリフも少なめで、シナリオも一人の人間の成長記録みたいな内容だったので割と好きな方のキャラだった。

まぁどのキャラも成長はするけど……セオドアはロボットの自立というか、ロボットが少しずつ人間の心を獲得してご主人様(王子)から独立する感じで、愛玩動物的なものを見守る生暖かい気持ちになる。


攻略には王子レオナルドの好感度も重要で、レオナルドの好感度が一定値以下だと、ヤツに「お前は俺の騎士には相応しくない」とめちゃくちゃ反対される。娘を嫁にやる父親の如し。

全エンド制覇した前世の友人によれば、確か、ヒロインを選んで王子の反対を押し切り駆け落ちエンド、王子の反対に従って結ばれないエンド、王子に逆らってヒロインを選ぶもサイコ兄貴の暗躍で反逆者として始末されるエンドなんかがあるらしい。

逆にレオナルドの好感度が高いと、そっちにも言い寄られて、結果ヒロインをレオナルドに譲ったり、サイコのせいで泥沼三角関係になったりするようだ。

一番良いのは好感度そこそこでレオナルドにも祝福されるエンド。敵はサイコだけではない、このルートでは王子も敵だ。

立ちはだかりすぎて、セオドア実は王子とデキてる疑惑まで出る程だ。


私が辿ったエンディングは、ヒロインとの交流の過程で自分の在り方を見直し一人で旅に出るエンド。途中で変な答えを選び過ぎてどっちの好感度も足りなかった。

恋愛的にはダメだったが、王子との決別シーンは胸熱でちょっと感動した。最後にしんみり見送るヒロインの横に何食わぬ顔でしれっとサイコが立っていたのには変な声が出たが。またお前か。


とまぁこんな風に恋愛に発展するまで面倒くさいキャラなので、会っただけで恋に落ちるとかはないし、マニュアル人間で外部からの影響は受けにくいからエリックみたいにちょっとの刺激で突然変異することもまずない。


「悩み聞いたら好感度上がるんでしょ。気をつけてね。」


「初対面のヤツに悩み打ち明ける奴はいないでしょ。」


悩み………というと、家の話か。

ゲームでマニュアル人間になったきっかけでもある。

親の失敗で批判されている家の名誉回復のためとか、兄が家を出て自分に重圧が〜とか話してた気がする。そんな家庭の事情、初対面でしかもホームパーティで話すわけない。


──そういえば、何で批判されてたんだろう。親はあの英雄騎士団長だし、悪い噂は聞かない。

これから何かやらかすのかもしれないが、内容を知らないので止めようもない。自然にまかせるしかないわね。


「お客さん、着きましたよ。」


馬車が止まる。

降りようとしたら、相乗りしていたおじいさんが話しかけてきた。


「お前さんら、人形の館に行くのかい?」


「はい。」


「わしは3年前まであそこで働いていたんだが、来訪者は珍しいのう。」


老人は懐かしそうに目を細めて語る。

なんだ思い出話か、曰く付きの場所みたいな前振りするからドキッとした。


「……なんで人形の館なんですか?」


「なに、あちこち人形やら可愛らしいものが飾ってあるのでな、わしら使用人はそう呼んでたんじゃ。」


一応確認したら、本当に大したことない理由だった。あだ名みたいなものか。


老人に挨拶して馬車を降りる。

数歩歩くと、童話に出てきそうな、かわいい薔薇模様の門が出迎えた。



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