66 邪竜は栽培する
「おーいお前ら飯だぞー。」
オレの朝はエサやりから始まる。
「食べろ食べろ、食べて大きくなれよ~。」
育てているのは主に虫型の魔物だが、そうでないのもいる。
これはただの趣味で、強い魔物が出来たら強いヤツ同士で闘わせてみたり、普通に戯れて遊んだりする。大きくなると勝手に山のあちこちに散らばって、それぞれ生きていくケースがほとんどだ。
集まってきた魔物たちに餌をやって、その後は農場だ。
ここは瘴気山脈、漏れ出す瘴気により魔物が自然発生する為、人間は誰も近寄らない不毛の地。…なーんて言われているが瘴気はオレの魔力だし、普通に植物も生える。
というか魔力の影響か知らんが、種を蒔いてみたら厳しい気候でも育つ生命力の強いやつが生えた。
いろいろ植えてみたが、一番適応したのはこのトマト。多く収穫出来た時は人間相手に売り付けて、収入源にもなる。
「ふんふ~ん♪」
鼻唄を歌いながら土をいじる。
手に付いた土をブレスで軽く吹き飛ばして、綺麗にしたら朝の日課は終了だ。
トマトを齧りながら農場を後にする。
「ギシャシャシャ」
金属のような硬質な鳴き声で魔物が寄ってきた。甘えているようだ。
「おー、よしよし。」
撫でながら先日のことを思い出す。
王国最強と謳われている騎士団長、ついでに騎士団とも一戦交えようという思いつきだったが、思わぬ収穫があった。
やたら魔法適性が高い人間の女。あんなに魔石と相性の良い人間は初めて見た。
オレの身体を易々と貫くあの威力、それを連発出来る魔力変換量。
あいつなら絶対強い子供ができるだろうな。
あんなのもうこの先見つからないだろうから、戦闘中に持って帰ろうとしたが失敗した。
本人は普通に捕まえられそうなのだが、下のオオカミがかなりすばしっこい。
脱皮後も運良く遭遇出来たが、オマケの二匹が邪魔で拐ってくることは出来なかった。
連れて帰ろうと思ってたんだけどなー。
ま、いいか。まだまだ人生長いし。
にしても、オレが邪竜と言った時のあの顔。
あいつの驚いたような困ったような、訳の分からないものを見るような顔が浮かぶ。
「……っくく、うはは。」
また驚かしてやろう。
それから、指を喰わそうとした時のすげー嫌そうな顔。
「へへへ、失礼なやつ。」
「……ギシャ?」
撫でていた魔物が不思議そうに首を傾げる。
オレの一人百面相を見られたな。不覚。
「あいつ虫が嫌いみたいだからな、お前はちょっと嫌がられるかもな。」
話している最中、魔物でもない小さい虫に過剰反応していた。確かあのヘンな男が追い払っていたな。
「ギギ………」
「落ち込むなって。お前愛嬌あるから意外といけるかもしらんし。」
そう言って魔物を慰めると、小さい口をモゴモゴ動かしていた。たくさんある節足の一つに、小さな白い花を携えている。
「ふむふむ、花か。見た目に反してあざといやつだな。」
「ギシャー!」
鳴きながら、得意げに花を集める。
そうだな、花は植えたことがなかった。こっちも突然変異で変わったのが育つかもしれない。それも面白そうだ。
オレの扱いがちょっと雑なオレの花嫁は、悪そうなくせに花がよく似合う。
「あっ、名前聞いてない。」
オレは名乗ったのに、あいつら誰も教えてくれなかったな………。
不審者扱いされていた気もする。
仕方ない、今度遊びに行った時にでも聞くか~。
バトルジャンキーだらけの第3章、これにて終了。
閲覧、ブックマーク、評価、感想、どれも励みになります。誤字脱字報告、とても助かります。
ありがとうございます。
次章は魔物だらけの第3章と打って変わって、お人形がたくさん出てくるお話です。




