06 契約しない
閲覧・ブックマーク登録ありがとうございます。
前回!おふざけで召喚ごっこをしていたらホントに悪魔が出てきた!どうするミスティア?!…以上あらすじ。
と、心の中でナレーションしてはみたけど実際には2秒くらいしか経っていない。今かなり困惑している。まさか人型が出てくるとは思わなかったんだもの……
「えっと、君が召喚したの?」
悪魔の方も同じく戸惑っているようで目をみはってこちらを凝視している。
「…そうみたい。」
「召喚出来る人はここ数百年いなかったんだけど…」
ガーネットみたいな瞳の中の猫みたいな瞳孔が一瞬大きくなって元に戻る。
今は魔法を使える人がいないものね。
「魔石で魔法が使えるから、そのせいかもしれないわ。」
遊びで召喚ごっこしてたことは伏せておこう。
にしてもこの悪魔────悪魔よね?
目尻は上がっているし耳は尖っているし、ツノはないけど長い尻尾が落ち着きなくふよふよ揺れている。天然パーマみたいな黒髪が首まわりまで伸びていて、ちょっとセクシーな感じのヤツだ。暑そうだけど。
で、おまけに犬歯がキバみたいに光っているし顔立ちも整っていて服も黒っぽい。
蠱惑的な美形って感じね……見た目的にはほぼ確実に悪魔っぽいんだけど…一応確認しておこう。
「あの、悪魔…よね?」
「うん。」
普通に答えてくる。見た目の妖しいカンジに反して、受け答えは全く悪魔っぽくない。
「……願い事、あるの?」
飲み物、いる?みたいな感じで聞いてくるし。
「あなた全然悪魔っぽくないわね。」
まぁ悪魔っぽい悪魔が来ても困るんだけど……借金する気もないのにヤミ金に顔出しちゃったみたいな気まずさがありそう。
「そう?」
「もっとこう、魂で契約~とかそんな感じじゃないの?」
そう訊くと、悪魔は斜め上に少し視線を彷徨わせてから口を開いた。
「ん~、じゃあ─────人間よ、貴殿の魂と引き換えに望みを叶えてやろう…!」
右腕を大仰に広げ、顎を上げて悪い顔で見下ろしてくる。
あ、この悪魔結構ノリ良いわ!
「我が望み、貴様程度の悪魔に叶えられる程温くはないわ!」
相手がイイ演技で来るものだから、ついついこっちもノリノリで返してしまった。
「ま、まさか貴殿は世界を手中に収めようと言うのか────?!」
規模でかいな!
「ちょ、ちょっと待って。あなたどこまでなら出来るの?まさか世界征服とかできちゃうの?」
「あ、いや。今のはノリで…」
そうよね、そんなヤバいヤツがうっかり召喚できたら今頃この世界滅びてるわ。
「ちょっとした村ぐらいだったら……あ、君魂すごいし時間がかかってもいいならもうちょっと…」
ヤバいヤツや!!
「ク…クーリングオフ!クーリングオフッ!!」
危ない事を言い出したので頭を押さえて魔法陣に押し戻す。魂取られて無駄に村とか滅ぼすことになったら洒落にならないわ…!村人も私も迷惑千万!!
よし、今ならまだ魔法陣光ってるし戻せそう。
「待って待って!今なら魂とか契約とか要らないお手軽コースがあるけど!」
詐欺師みたいなことを言い出した。
ハードルを上げてから下げる手法で来るとは…さすが悪魔。
「け、結構です!物騒なことの為に召喚したわけじゃないから!」
全体重で押し込んでるのに全然引っ込まない。
やはり9歳の体重じゃ無理か…。
「…じゃあ何で?」
「あ、えっと…上手くいったらお助けキャラ的な生き物が召喚できるかなと思って……」
まさかお手伝いさん募集したらデストロイヤーが来るとは…
「お助けキャラ。」
「そう、猫とか鳥とかペットみたいな…」
言ってて恥ずかしくなってきた。
普通に考えたら魔法陣でペット召喚すなって話よね。実際は厨二気分を味わいたかっただけだけども。
「役に立つペットなら何でもいい、ってこと?」
「そうね…言い方は悪いけど。」
前世だったら動物愛護協会に眉を顰められそうな……
まさかこの悪魔お手軽コースとやらで連れて来てくれる気かしら。
「例えばどんなことに困ってるの? 言ってみてよ。」
言われるがままに料理とか洗濯とかの話をした。半分愚痴みたいになってしまった。
だけど話しているうちに悪魔の方はそれはもうご機嫌そうな笑顔になっていって、最後にはこう言った。
「それなら僕、役に立つと思うよ。」