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魔女様は攻略しない  作者: mom
第3章 邪竜討伐

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62 観光する



王都に到着して数日、私達は市場へ観光に来ていた。


「いらっしゃい、良いの揃ってるよ!」


通りのあちこちから声が聞こえる。

一応は箱入り娘だった為、王都に来るのは今回が初めてである。よって普段の市場の様子は知らないが、収穫祭の時期と被っているからか思っていたよりもやたら人がいる。


事前に騎士団の人に人が多いからスリには気をつけろとか言われていたが、本当に多い。メインの通りに至っては人がごった返しており進むのもままならない状態だ。

人がゴミ………と言うよりも、人しかいなさすぎてゴミですら人に見えてくるレベル。露店の前に置いてあるゴミ箱、店の裏に出されたゴミ袋、露店のおじさん、そして通行人も、総じて人混みといったところ。

ついさっき、ゴミ袋がうずくまったおじさんに見えるという本日3度目の空目をした。


「魔女様、こっち。」


押し寄せる人波に絶望していると、ジルが脇道へ手を引いた。


「すごい人だね。」


「なんなのアレ、初売りバーゲンセールでもやってるの?」


目線の先の人混みに辟易しながら息を吐く。

とりあえず買えた綿菓子風のお菓子を片手に、影になっている壁際に寄る。


「ガイナスを探してた時はこんなのじゃなかったわよね?」


ちょうど今持っている木の棒の刺さった綿菓子の如く、私をクロスボウで串刺しにしようとした犯人はガイナス・リューという名の傭兵だった。


「他の通りは普通だったけど、ここだけ異常だね。大きい通りだからかな。」


「普段はここまでではないんですけど、今日は王都限定スイーツの新作発売日が被っていますから………メレーネ通りは明日にした方がいいかもしれません。」


馬車でキャラメルをくれた、甘党らしい騎士が補足した。スイーツ事情に詳しい。伊達に甘党ではないようだ。


「そうなんですね。」


王都の住民のスイーツにかける情熱が思ったよりも凄まじい。


「魔女殿のお好みのキャラメルもこの通りですので、また明日案内しますよ。」


「それはどうも。」


この甘党騎士とダーツさんの二人は、昨日ガイナスを騎士団に引き渡した時に案内を申し出てくれてついて来た。親切と言うより若干監視されている気もしないでもないが、見られて困ることは昨日済んだので問題ない。


途中、あれ? 何で私は王都まで来て探偵ごっこに興じているんだ? とか思ったりもしたが、無事に奴を確保出来たので、探した甲斐があったというもの。

見つからず滞在期間が無駄に長引くのも嫌だし、王都の路地裏で手配書片手に歩き回るヒロインとか絵面がよろしくない。まぁ楽しかったけど。タータンチェックの探偵帽があれば完璧だった。


「パイプとかあれば良かったね。」


心を読んだのか、私の隣で綿菓子のようなモファモファのお菓子を食している悪魔が呟く。

今こやつ、心の声に相槌を打たなかったか………?


「ヒゲ………はいらないか。」


驚愕している私を尻目に連想を続けているようだ。やはり探偵のイメージはその辺りらしい。


「……とにかく、昨日のうちに見つかって良かったわ。この人混みでは面倒極まりないし。」


懐から出した紙に描かれた人物を手の甲で指す。

金がなく往生していたようだが、これだけ人が居ればスり放題なので、奴の懐が潤って勧誘の効果が薄れてしまう。


余談だが、このスケッチはかなり役に立った。

王都までの道中はあまり大きな町はなく、見知らぬ人がいたかいないか聞けばすぐ済むのだが、王都ではそうもいかない。

スケッチを見せて回り、路地裏で見たとの情報が入ったので暗い路地を中心に徘徊していたら見つかった。


「あの人、情緒不安定みたいだったけど大丈夫かな?」


「そうね。ちょっとおかしかったわね。」


それに、後半は言動が厨二っぽくなっていた。

同類の匂いがするわ。

やたら私のことを悪魔に仕立て上げようとしてくるし………隣に本物がいるのに。


「震えてたし、変なクスリでもやってるのかしら。」


それなら悪魔扱いも幻覚とかで説明がつく。

副作用か何かで、人が悪口を言う幻聴が聞こえるとかいうのもあったような気がするし。


「何のお話ですか?」


「あぁ、いえ。大丈夫です。」


何が大丈夫なのか、という感じだが、空気の読める騎士はそれ以上は追及してこなかった。

良かった。中毒患者かもしれない奴を騎士団に推薦したと知れたら面倒だ。


ガイナスについては、誘う際に無駄に怯えていて少し腹が立ったので、意地悪して「報酬は安心」なんて無茶を言ってみたら妙にノッてきたので拍子抜けした。悪魔の手先とか言っていたので、やはりそういうプレイがお好みなのかもしれない。私も結構好きだ。


私に敵意があるわけでもない雇われの奴を始末したくもないし、だからと言って野放しにするのも落ち着かないので、騎士団に入れることを思いついたが、我ながらナイスアイデアだった。

騎士団なら勝手に動き回ることもないし、他の団員の目もあるし、安心して預けられる。

騎士団長がガイナスの腕を褒めていたので、弓術アドバイザー的な感じで売り込みをかけ、ちょっとゴネたら何とかなった。


一つ気になるのは、これで弓スキルが上達した騎士団がそのまま丸ごと敵に回った場合だが、ガイナスの弓は意識外からの攻撃という点がマズイのであって、数はあまり関係ない。さすがに万とかなら労力的にキツいが、一本でも百本でも同じことなのだ。

気づかなければ刺さるし、気づけば防げる。

どうせ敵になるのなら一つ所に纏めて居てくれた方が助かるというもの。

バラバラに襲って来られたらこちらの身が保たない。


まぁ、敵にならないのが一番なのだけど。


「魔女殿、喉は渇きませんか。果実のジュースなどもありますよ。」


お人好しそうな甘党の騎士に続いて店を巡る。

今日は表通りを観光する為ザッハは留守番なので、何か美味しいものを買って行こう。





「いや~、いっぱい買ったね。」


夕方。

騎士たちと別れて、宿への道を歩く。


「あの人だかりが出来てた人気のお店以外でも、美味しそうなところいっぱいあったわね。」


邪竜討伐の報酬が出るのでお小遣いは余裕があるが、お腹の容量的には1日ではとても回りきれない。

明日行く一番大きなメレーネ通りにも期待大だわ。ノア達へのお土産はそこで買おうかな。


「王様の謁見もなくて良かったね。」


「ほんと、こればかりは魔女で助かったわ。」


国王陛下は面会をご所望だったようだが、私が魔狼を連れてたり使う魔法が危なかったりするので、それはちょっと………と各所から待ったがかかりナシになった。

そりゃそうだわ。


私としてもお偉いさんに拝謁! なんて神経がすり減るし心臓に悪い。

ゲーム通り聖女だったら多分招かれていた。危ない危ない………。



宿に戻ると、ザッハはまだ帰って来ていないようだった。

お土産のパイはとりあえずテーブルに置いて、荷物を片付ける。


明日はキャラメルにケーキ………お小遣いに余裕があると言っても、お土産を買うとなるとヤバい気がしてきた。

いかんせん人数が多い。エリル村の人口は詳しく分からないが、100人…いや200人はいた。

名前も知らない奴がほとんどなので買わなくてもいいかと思ったが、日頃お世話になってる…かは微妙だが………いやいや、こういった機会もあまりないので、みなさんでどうぞ的なお菓子を渡すつもりなのだ。

クッキーを300枚くらい買えば、全員に行き渡るか……?

食品は消費期限が心配だが、後に残る物だと私の知らないところで祀られていたり、よく分からん伝説の品になっていたりしそうで怖い。ゲーム世界だし、何か日持ちするものが売ってると期待しよう。


「ジル、お金の袋出してくれる?」


「はい。」


スリが怖いのでジルに持たせていたお金をテーブルの上に広げて数える。

町の人は数人だから良いとして、エリル村。ケチって数が足りないなんてことになったら血で血を洗う争いが起きそうで怖い。その場合は誰にも渡さなければいいかもしれないが、せっかくだしね………。


必要分を避けておくため、金勘定を始める。

気分は高利貸しである。


「ところで魔女様。」


「なーに?」


典型的な悪徳高利貸しのお婆さんを想像しつつお金をジャラつかせていると、後ろから、ジルが私の両肩に手を乗せた。

そのままするりと首の前を交差して、ちょうど抱き着くような形になる。左肩の辺りに頭を寄せているのだろう、耳のすぐ後ろで声が聞こえる。

珍しい。甘えんぼモードだろうか。


背中にジルを引っ付けたままお金の計算を続ける。しかし、直後に耳元で囁かれた言葉に私は固まった。


「学園って何?」


「………は?」


何、というと。

学園が何であるかは説明できるが、この感じはそれが聞きたいといった雰囲気ではない。


「邪竜にさ、学園にいたとか言ってたよね。」


………言った。

確かに言った。

ゼノリアスのあれこれで紛れていたし、特に気にしてなかったが。むしろ今まで忘れていた。


「…そうだっけ?」


「魔女様、学園に行ったことないよね?」


この男、私の渾身のすっとぼけを許してくれない。

椅子に座った状態で後方、斜め上から首に巻きつかれているので抜け出して態勢を立て直すこともできない。


「えっと………。」


視線が彷徨っているのが自分でも分かる。

それを話すということはゲームについて話すということになるが、ゲームに転生とかいう厨二ここに極まれりみたいな話を真面目にするのか………これ信じてもらえるのかしら。突飛すぎる上に、乙女ゲームとはなんぞや? から始めなければならない。

確実に話せば長くなる話だからちょっと面倒だわ。

あと、私、実はヒロインです☆ とか言いたくない。


「初対面のはずなのに、知ってるような言い回しだし……」


巻き付いていた蛇のような腕が解けて声が少し遠のく。

振り返ると、真っ直ぐ立ったジルが手を後ろで組んで見下ろしていた。


「僕の訊いたこと、何でも答えてくれるんだよね。」


ドヤ顔である。

お、憶えてやがったわね………!

ジルの唯一のあってないような報酬なので無碍にはできない。あと拒否すると確か村が滅ぶ。お土産を持っていくどころではない。


「ものすごく長くなるけど…」


「いいよ。」


観念した私に、見下ろす赤眼が楽しげに和らいだ。



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