表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女様は攻略しない  作者: mom
第3章 邪竜討伐

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/114

55 狙撃される



「何だ?!」


ドタバタと騎士が数名駆け寄って来る。

私を後ろに引っ張ったのはジルのようだ。引かれるまま背中をもたれさせている私の肩に手が乗せられた。


足元に落ちている矢──騎士団長は恐らくこれを弾いたのだろう──それはぬらりと、タールを垂らしたように光っていた。

なんだろう、これ。

私に向かって飛んで来た……?


「魔女ちゃん大丈夫?」


弁当強奪騎士の声に何か大事なことを忘れていたことを思い出す。

一反木綿事件の後にザッハが大事なことを言っていた───そう、誰か不審者が来てるって話! 忘れてたわ!!


「ええ、大丈夫。」


恐らくその不審者、にマジで狙撃されている。

無意識でも闇バリアって発動するんだろうか、しないだろうな………騎士団長とジルがいなかったら危なかった。高確率で死んでるところだわ。


若干冷や汗をかきながら周囲を見回す。

とりあえず、騎士団長が助けてくれたことから騎士団は関与してなさそうだ。となると、第三者。情報漏洩が深刻だわ。

でもなんで私を狙って来るのかしら……騎士団に魔獣認定されたならともかく、身に覚えがないんだけど。

まぁ攻撃してきたからには私の敵で間違いない。仕返しがてら本人に聞けばいいわね。


「ジル、どっちから………」


気付いて引っ張ってくれたらしいジルに狙撃してきた方向がわかるか確認しようと目を向けると、既に指をさしていた。


「ちょっと捕まえて来ますね。」


呼び寄せたザッハに跨りながら騎士団長に一言断りを入れる。

そのままザッハに乗ってジルが指した方に向かうと、やがて岩場の所に人影が見えた。手前には武器だろうか、岩から何か覗いている。


「一人かしら。」


《そのようだ。》


良かったわ。沢山いたら捕まえきれないものね。

見えている武器のようなものを魔法で吹き飛ばす。近寄ってみるとそれはクロスボウらしきものだった。

クロスボウの持ち主は一瞬びくりと動き、すぐに別の武器に持ち換えようとしていたが、それも雷撃で粉砕する。


「こんにちは。さっきの矢、あなたよね?」


襲撃者の背後に回り、ザッハから降りながら確認する。すると襲撃者は答えずに逃げようとする素振りを見せたので、すぐ横の岩を打ち砕いて牽制する。


「動かないで。次は頭が粉々になるわよ。」


《お前、それは悪党の台詞ではないか?》


「……いいのよ。」


確かに少しそれっぽかったかもしれない。

でも目の前の男が襲撃犯、悪者、それは間違いない。心外だわ。


「手を上げて、ゆっくりこっちを向いて。」


杖を構えて距離を取り、相手が動くのを待つ。

相手は何かプロ的なものだろうし、油断できない。急に何かしてきても対処できるだけの距離を空けて、目を逸らさないように気をつけよう。


「なぜ私を狙ったか聞かせてちょうだい。」


屈んだままこちらを向いた襲撃犯は体ががっしりとして背が高そうだ。同じく背の高いノアとは違うタイプの、筋骨隆々といったような感じ。暗い茶色の短髪、骨太の、軍隊にいそうなタイプの男である。

ゲームでも今世でも見たことがない。私とは面識が無いはず。誰かに雇われたのかしら。


「話す気はないの?」


こちらが何を問い掛けても無言のまま固まっている。

これじゃ埒があかないわ。


「…話さないの?」


またしても無言。

私はこいつ本体には攻撃していないし、話さなくても危害は加えられないとナメられているのだろうか。

手足のどれかを吹き飛ばしてみるべきか………でも雇われているなら少し可哀想だし、今後の仕事にも支障が出て私が恨まれかねない。

素直に吐いてくれればいいのに………。


《私が少し揉んでやろうか。》


なかなか喋らないから、ザッハまで物騒なことを言い出した。

でもその必要はない、いい魔法を思い出した。


「いや、アレを試すわ。雷の。」


《ふむ…》


誘拐騒ぎの後からナイフと並行して密かに練習していた、人体を傷つけない、とっても人道的な魔法。

今日も一度あの弁当強奪騎士に試しかけたが、損傷させずとも騎士を攻撃するのは良くないし、絵面とか色々と外聞が悪い。


その点、この襲撃者になら存分に試しても問題ないだろう。

万が一失敗して傷つけてもそんなに問題にならないし、ここは騎士団から離れている。多少の叫び声なら聞こえないはずだ。

そして一番重要なのが、私の良心が痛まないという点である。


「話したくなったら言って。」


一応前置きをして、杖を振る。

最近判明したのだが、私の魔法は属性で言う所の雷および闇──破壊だろうか、その二つが3:7くらいの割合で混ざっているらしい。

そこで頑張ってコントロールして雷の力と破壊の力を分離する。これがなかなか難しいのだが、短期間で雷のみの魔法を放つことに成功した。私は天才かもしれない。いや、ヒロイン補正かな………。


とにかく、どちらにせよ集中すれば静電気の凄い版、高圧電流の軽い版のようなものを出せるようになった。元々の割合からそんなに高い威力は出せないが、痛いはず。

その辺の魔物で試したが、闇を取っ払ったおかげかギャッと叫んだだけで動いていたし、見た目の損傷はなかった。内部は知らないけど。


「………っぐ……?!」


その魔法、電気ショックでいいか、それを襲撃者の右足に当てると驚いたように足を引っ込めた。

私のコントロール出来得る最弱にしたので、そんなに痛くなさそうだ。


「……ぐぁっ………!」


少し威力を上げて、今度は右手を狙うとパチッと音がした。今度のはなかなか痛そうだ。

冬のドアノブで凄い静電気が来た時の倍くらいかしら。


「身体の機能に害は無い筈だけど、もし動かなくなったり、おかしくなったら言ってちょうだい。」


この男、見た目が軍人だし、こういうのに耐性があるかもしれない。

始めてしまったけど限界まで我慢されたらどうしよう。痛めつける趣味は無いし、男の呻き声を聞きまくるのは嫌だわ。

まぁ、音で判断した私的すごく痛いレベルの電気ショックまではあと4段階ほどある。ヤバそうだったら止めよう。


三撃目を左足に当てると、今度はバチッと音が鳴る。これは蜘蛛の魔物が驚いて逃げた程度の威力だ。


「………っ、う………俺は喋らんぞ……」


…こんなことを言っている。


「雇われたんじゃないの?」


質問するが、またしても無言。

仕方がないので今度は左腕に杖を向ける。


「今度のは結構痛いと思うわよ。」


調整に細心の注意を払いつつ電気ショックを放つ。


「ぐぅっ………! う、……くっ……!」


男は一瞬顔を歪めた後、左腕を抑えてうずくまる。

歯を食いしばって私を睨みつけ、額には脂汗が見えた。かなり顔色が悪い。


「え、あれ………」


もしかして、かなり痛い………?

魔物でしか試していないから分からない。でもカメムシみたいな魔物に試した時はこれの二段階強いヤツでもピンピンしていた。

私を油断させる為の演技ということも───


《……待て。》


迷っているとザッハの声が掛かった。

そちらを見ると、ザッハが耳をピクピク動かしている。


「どうし────」


次の瞬間、亀裂が入るような大きな音がして地面が揺れた。地の底から響くような地鳴りの後、足元が流れた。


「は?! なにこれ……!」


一気に地面が崩れ、身体のバランスを崩す。


《掴まりなさい。》


ザッハは私をすくい上げると崩れる地面をうまく躱し移動する。

見ると土砂崩れだろうか、土が一斉に邪竜と騎士団のいる方向へとなだれ込んでいく。邪竜の討伐現場には複数亀裂が入り、そこも崩れかけていた。

邪竜が着地したり落ちたりと、かなりの轟音と衝撃だったのでそのせいかもしれない。


「魔女様、大丈夫?」


騒ぎの中、ジルが飛んできた。


「ええ、騎士団は?」


「大丈夫、今退避中。」


「良かった。」


これで騎士団全員砂の中エンドとかになったらかなりまずいところだったわ。

来ていた全員無事のようね。


「────あ。」


さっきの襲撃者はどうだろうかと思い探すが、姿が見当たらない。

土砂に飲み込まれた可能性もあるが、奴のいた場所はかろうじて無事だし、荷物も綺麗に消えている。

どさくさに紛れて逃げられてしまったみたいね。





「かなり崩れたみたいだね。」


あれから、何度か連鎖的に地面がなだれたりして、ようやく一連の揺れはおさまった。

やはり邪竜との戦闘が影響を与えていたらしく、地割れも酷いようだった。


「やっぱりあの男はいないわね。」


襲撃者を探しつつ、騎士団のいる方へ向かう。


「わっ……」


周りを見回しながら崩れてガタガタになった歩きにくい地面を歩いていると、ぐにっと、何か柔らかいものを踏みつけた。

つんのめりそうになったところをジルに引き起こしてもらう。


「ありがとう……何これ。」


ぬかるみや土、ではない。柔らかいだけでなく弾力もある。気持ち悪い蛭やナメクジ、何かの幼虫みたいな魔物だったらどうしよう。

恐る恐る下を見る。


私の足の下に敷かれていたものは、ゲーム「シンデレラ・ロマンス」の攻略対象の腹だった。




カメムシみたいな魔物には痛覚はありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ