表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女様は攻略しない  作者: mom
第3章 邪竜討伐
59/113

53 攻略する

タイトル逆回収回ッ




邪竜の脚を踏み台に、飛び上がった騎士団長からものすごい剣速で放たれた斬撃は、邪竜の腹を一直線に斬り裂いた。

今まで剣で少しずつ付いていた傷よりも格段に深く、どくどくと青い血が流れている。

竜の血は青いのか………と思い近くの腕の切断面を見れば、確かにこちらも青かった。


「魔女殿!! とどめを!」


「ひゃい!」


ほぼ喋らない騎士団長から初めての大声で呼びかけられ反射的に返事をする。

変な声が出たわ。


「えっ、えっ………これ私がとどめ刺すの?」


返事したけど、指名されてびっくりしたわ。


《臓器は位置がいまいち分からないからね、頭部が確実だろう。》


なるほど、騎士団長が人間離れしてると言っても跳躍力には限界があるし、合理的っちゃあ合理的か。


「ギャアァァァァァァァ!!!」


騎士団長の一撃が効いたのか、邪竜の動きは鈍い。

近付くと邪竜がブレスを滅茶苦茶にばら撒き、周囲の騎士や岩を吹き飛ばしていく。

厄介なので下から雷撃を昇らせ顎に当てるとブレスが止んだ。


「ザッハ、竜に登れる?」


そろそろ疲れてきた。

魔法を撃ってもまた避けられるとこちらも消耗するし、確実に終わらせたいわ。


《あぁ。》


邪竜が左手を私とザッハ目がけて叩きつける。

ザッハは地面を陥没させたそれを回避すると同時に、腕に飛び乗った。そのまま腕を駆け上っていく。

邪竜は腕を振り払い落とそうとするが、さすがザッハ、バランスが良い。上手く跳ねながら肩口まで辿り着いた。

今度は反対の手で叩き落とそうとするも、右手がないので思うように出来ないようだ。


「頭に叩き込むわ!」


《ふふふ…》


何故かザッハが笑っている………何故だ。


《お前は本当に変な娘だな。》


「今それ言う?!」


ドラゴンとの戦闘中に敢えて言う必要なくない?!

しかも少女漫画とかに出てくる良い意味の「君って変わってるね」じゃなくてガチの変人に向けるトーンじゃないの。


《気にするな、ほら頭だよ。集中しなさい。》


人の集中を乱しておいて注意してくるとはとんだ横暴である。

親鳥が雛に餌を与えるような感じでそう言いながら、横暴なザッハは自分だけさっさと真面目モードに戻り、邪竜の首で踏み切ってヤツの顔の前に飛び出す。ちょうど上顎の上を通る辺りで僅かに身体を捻って私を竜の顔の方へ傾けた。


2つの目玉が同時に動いて私を見る。

ビー玉みたいな目玉は、けれども近過ぎて距離感が掴めないようだ。寄り目になったまま固まっている。なんだかちょっとカワイイ。

カワイイが、私はすれ違いざまに手の届く範囲にあった眉間に向かって逆手に持ったナイフを力任せに突き立てた。


「ギャオオオオァァァァ!!!」


竜が首を振り、刺したナイフごとそれに引き摺られて私はザッハと分離した。


「………っ、うぉおおおッ!」


ナイフを刺しただけでは大したダメージにならない。ザッハから離れた右手も動員して両手で必死でナイフを掴み、振り落とされる前にナイフを通じて黒雷を流し込む。

ナイフに黒い稲妻のようなものが走り、刃を伝って竜の中へと吸い込まれていく。外目には判りづらいが、確かに手応えはある。

邪竜の眼は光を失くし身体からは力が抜ける。

遂に竜の巨体が崩れ落ちた。


「お、おぉ……………?」


誰かが言葉を発したが、それきり辺りは静まった。全員が竜がゆっくりと前に傾くのを固唾を飲んで見ていた。

私はその間に竜の額からナイフを抜いて落ちる。背中から、命綱無しのバンジージャンプだけど、さっきみたいにザッハが拾ってくれるでしょう。


私が拾われるよりも先に、ズズン、と大気まで震えるような轟音を立てて邪竜が前のめりに倒れる。地面がひび割れた。


「やった、のか………?」


誰ともなく呆然と呟かれた言葉の後には歓声が上がった。

そちらも空気を揺らすようで、正直少しビビった。

そして私はザッハではなくジルの腕の中に着地していた。地面ではないので厳密には着地ではない………着腕? いやそんなことはどうだっていい。


「お疲れ様。」


とにかくジルが至近距離でニコニコしている。

ふわりと浮いていたジルはそれこそ着地すると続けて私を地面に降ろした。


「かっこよかったよ。映画みたいで。」


着地点の近くに置いてあった荷物の中から飲み物を用意しながら満面の笑み。

荷物には戦闘前は無かった大きな袋も増えている。大きさからしてさっき落とした邪竜の腕だ。抜かりない。


「プレゼント、ちゃんと受け取ってくれたようで何より。」


「うん、ありがとう。血抜きもしておいたよ。」


騎士団が竜に釘付けになってる隙にそんなことまでしてたのか。

まぁ、あの青い血を染みさせて持ち帰るのは非常に嬉しくないのでファインプレーだ。


ジルから飲み物を貰って飲んでいると、ようやく騎士団の盛り上がりが収まったようだ。

邪竜の死骸を確認した騎士団長と副団長がこちらに歩いてくるのが見えた。


「魔女殿、」


ドリンク片手に応対できるような雰囲気ではないので、ジルに飲み物を預けて前を向く。


「邪竜の生命活動の停止が確認できました。これにて討伐完了です。」


「そうですか、お疲れ様です。」


「これより我々は邪竜の回収作業に移りますが、魔女殿は先に馬車へお戻りください。」


時間がかかるから先に行っとけってことね。

回収って……腕をくすねたのバレないかしら。その辺の魔物が持って行ったと思ってくれればいいけど。


そんなことを考えていると、目の前に手が差し出された。大きくてがっしりとした、固そうな手。騎士団長の手だ。


「………えっと、」


握手、で良いのかしら。

黙ってじっとこっちを見下ろしている。本当に喋らない人ね……でも寡黙な騎士は嫌いじゃない。

強いしすごくかっこよかった。ぜひ仲良くやっていきたい。


「楽しかったです。」


そう言いながら、差し出された手を掴もうと右手を伸ばす。

すると突然騎士団長の手が引っ込められ、続いて金属を弾くような音がした。


「───え?」


音とほぼ同時に、身体が後ろに引かれる。

目の前の騎士団長はいつの間にか剣を手にしており、深い碧の瞳が油断なくどこかを見据えている。一瞬ギョッとしたが私に剣を向けている訳ではなさそうだ。

な、なんだこの状況………。


困惑する私の足元には、短い矢のようなものが転がっていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ