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魔女様は攻略しない  作者: mom
第3章 邪竜討伐

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51 咆哮される

恐らく需要のないバトル展開が続いておりますが、しばしお付き合いください。



「グァアアアアアアア!!!」


騎士団長を弾き飛ばした後、邪竜は完全に身体を起こしきると自身の力を誇示するかのように大きく吼えた。

大気が震えるような咆哮に、ただでさえ腰の引けていた騎士たちが青ざめる。


「あ、あ、…あぁぁあぁあっ!!」


幾人かは破れかぶれになりつつも再び剣を握りしめ立ち向かっていくが、大した傷も付けられずあえなく撃退される。心が折れるのは時間の問題といったところか。


「一度退け!」


副団長は散った騎士に指示を出し始めた。

団長除く騎士団は邪竜の気を逸らす役に徹するらしい。現状、騎士団長をサポートするのが一番勝つ可能性が高いものね。

それにしても騎士団長、人類の領域ではないのではなかろうか。


「……これ、腕獲る余裕あるかしら?」


《向こうの攻撃は私が避けるから、お前は好きにするといいよ。》


なんて心強い申し出。

この状況で好きにさせてくれるなんて、最高の保護者だわ。


「いいの?」


《ただし落ちないようにね。》


話しながらも襲い来る竜の腕を潜り抜ける。

ザッハなら本当に全部避けられそうだ。

お言葉に甘えて、気兼ねなく、攻撃に集中しよう。


失敗を踏まえ、先ほどよりも強い威力で頭部目掛けて魔法を撃ち込む。瞬間、鋭く光る瞳がぎょろりと私の手元を追い、狙った頭部の上に腕が現れた。


「ガァアァァァ!!」


バチンと弾くような音がして邪竜の左腕が抉れるも、頭部は無傷だ。


防がれた。

あれは明らかに、私の狙いが分かっていた。

確かに杖を振る方向を見ればある程度予測はつく。でもこんなにすぐ反応されるとは。


「…………ちっ……!」


様子見で軽く放った二発もそれぞれ回避、阻止される。


《舌打ちはやめなさい………魔法を見慣れているようだね。この竜、見かけたことはないが昔からいたのだろうか。》


「そうね……………。」


始めは不意打ちで成功したが、私が魔法を使うと分かった時点で警戒しているのだろう。

避けられないレベルの広範囲で仕掛けてもいいが体力的に厳しい。となると、フェイントをかけてみるか或いは───


「ギャアァァァ!」


考えていると、邪竜の悲鳴が鼓膜を襲った。

騎士団長がヤツの足に深手を負わせたらしい。右足から血が流れている。


そうだわ、こっちには恐らく人類をやめている騎士団長がついている。邪竜が私の魔法に気を取られている隙を突いたのだろう。ならば逆も然り。

騎士団長を払い除けようと振るわれた竜の尾を魔法で弾く。やはり気にしていないと回避は出来ないようね……そりゃそうか。そうでなければ困るわ。


尾のダメージに満足して目を移すと騎士団長と目が合った。

視線が交差した瞬間、時間が止まったかのような感覚。ザッハに乗る私は馬より速い速度で移動している筈だが、総てがスローモーションのように感じられた。

深い碧の瞳が微かに揺らぎ、私の瞳を捉えている。死戦の最中のような緊迫感が身体を走り、一瞬を長く長く感じる中、彼は僅かに、だが力強く頷いた。

私も頷き返し、視線を前に戻す。


「騎士団長の反対側に回って。」


そう言うとザッハは騎士団長がいた邪竜の右脚の反対側、左脚の後ろ側へと移動した。邪竜が私を追って身体を回転させようとするが騎士団長がそれを邪魔する。


私は一人で竜に挑んでいるのではない。

回避はザッハがやってくれるし、騎士団長が注意を半分引きつけてくれる。


邪竜は意識に無い攻撃には対応が出来ない────そして幸いなことに、私にはまだまだ試したい攻撃がある。騎士団に幾つも手の内を晒すのは躊躇われるが……まぁ出力は控えているし、今は邪竜のせいで混乱してるから良いでしょう。


「まずはこれから………!」


これまでと同じモーションで邪竜の頭部に魔法を放つ。

またも正確に読み取った邪竜は即座に腕で庇った。ただし、出来る限り細く絞って面積当たりの威力を高めた雷撃は、竜の腕に当たるもそのまま直進し、右頬から首にかけてを貫いた。


「ビームは成功ね!」


《前に練習していたものか。使い勝手はあまり良くなさそうだ。》


「そうなのよね………。」


今回は当たったが、避けられたら何の意味もないわ。

そもそもあの細さでは当たったところでこの邪竜や大型の魔物には効果は薄そうだ。心臓など臓器を狙い撃ち出来るならともかく、そこまでの知識や見えないものを狙う技術が足りていない。

壁や固定物を貫通させたりするのには使えるかもしれないけどそんな機会ないし。

暗殺者向きの使い方かもしれない………私一般人だから必要ないわね。自己評価終わり。


「グァアアァアア……!!」


私がビームの効果と使い道について考える一方、ビームを受けた邪竜の方は本日何度目かになる咆哮をした。


………なんだろう、なんと言うか…笑っていないか?

ドラゴンに表情筋とかはなさそうだけど…いや知らないけど………これは確実に笑っている。笑顔。ドラゴンが笑顔。

なんで? ビーム受けて笑うってどういうこと? マゾヒスティックドラゴンとかそういう系?


《………っおい!》


珍しくザッハの慌てた声に我に帰ると同時に、左手からハーネスがすり抜けた。


「げっ─────」


ドラゴンスマイルに気を取られてバランスを崩した………!

しがみつくものも失い、攻撃を避け邪竜の腕を飛び越えた直後のザッハの背中から放り出される。

これは割と高さがある────落ちたら結構まずい。思わず乙女にあるまじき声が出た。

ザッハのアクロバティックな動きに振り落とされない為には、変なことに気を取られている場合じゃなかった。

地面に激突する前に闇オーラバリアを出すべきか。


《魔法は出すな、私が拾う。》


私の逡巡を見透かすようにザッハが指示をくれた。引き返してきて私の下に滑り込もうとしている。

だが安心したのも束の間、空中で無防備な私のもとへ邪竜の手が迫ってきた。


「ひっ………」


邪竜の手は私の左足を掴みそのまま逆さ吊りに持ち上げる。バリアが間に合わなかったので、馬鹿力で足を折られるかと思ったが掴まれただけで無事なようだ。


私を食べでもするつもりなのか、邪竜はぶら下げた私を自身の顔の高さまで上げた。

丁度、人間がフィギュアのパンツを覗こうとするような絵面だ。幸い私はショートパンツなので中は見えないが。


このまま美味しくいただかれては堪らないので、掴まれている左足に魔法を纏わせ、邪竜の手を跳ね除ける。そのまま落下したところをザッハが上手く拾って背に乗せてくれた。


「助かったわ。」


《だからちゃんと掴まれと言っただろう。》


「……はい。」


姿勢を整えてから、杖を持ったままの右手で一緒にハーネスを掴む。

跳ね除けられたことに驚いていた邪竜は落ち着いたのか、また攻撃を仕掛け始めた。

─────というか、私ばかり集中的に狙われている気がする。手がめちゃくちゃ伸びてくる。騎士団長と分担ではなかったのか。


「私を狙ってる、わよね?」


《そのようだね。》


ザッハは落ち着き払っているが攻防がヤバい。実際は私はザッハに乗っているだけだけど……遠くから見ればバトル漫画みたいな図になっていることだろう。

もはや手を出す気すらなさそうな平騎士が座り込んで遠巻きに悲鳴を上げている。……いや、戦えや。


まぁ、騎士が周りに居なくて、腕が自分からこちらに来てくれるという状況は都合が良いと言えば良いのだけど。


ちらりと騎士団長を見ると、何か奥義でも繰り出そうとしているのか、オーラが凄い。邪竜も私を狙いつつもそちらに注意を向けているようだ。

これは私が隙を作れば勝負が決まるかもしれない。


「ザッハ、スレスレで避けられる?」


《やってみよう、》


次に繰り出された右腕を、ザッハが身体を捻って避ける。空振りした右腕は、丁度私たちの左側の空気を掠めていこうとしていた。


邪竜は相変わらずこちらに注視しているが、竜が右手の杖を見ているのなら、私には左手があるのだ。

私は右手のハーネスと杖を離さないように留意しながら左手を腰に回し、背中のナイフを抜いた。


「えいやっ!」


邪竜の右腕に魔法を纏わせたナイフを突き刺し、落ちる重力に任せてそのまま下に切り裂いていく。闇オーラのおかげでテレビの通販番組もびっくり、驚くほどするする斬れるが竜の腕は私が両腕を回して届くか届かないかくらいの太さがある。刃渡り的に全く届きそうにないので、試しに切り口から雷を流し込んでみると手応えがある。

そのまま続けて完全に切断した。


「ヴォアァアアアアアアッ!!」


目を見開いた竜が叫びながらこちらを見ている。

ズンと音を立てて竜の右腕が落ちた頃、騎士団長の秘奥義が炸裂した。



目で語り合ってますが、騎士団長(40代)のルートはないはず………。

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