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魔女様は攻略しない  作者: mom
第3章 邪竜討伐

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50 高揚する



「総員、体勢を立て直せ!」


邪竜の着地だけでバラバラになった騎士団は、それでもなんとか戦う姿勢を保っていた。


「うぉおぉぉお!!」


ただ騎士団を眺めるだけの邪竜。その背後に位置取った一団が、男臭い雄叫びと共に邪竜の足元に殺到する。

しかし届かず、前方の数名が振られた尾になぎ倒された。残った騎士が尾を攻撃するが軽く傷を付けるだけで有効打にはならず、そのまま吹き飛ばされる。

とりあえず、剣は通じるようね。


「団長、」


邪竜が尾に気を取られている間に前方にいる騎士が突撃し、しかし力及ばず鉤爪の付いた腕で振り払われている様を見ていると、副団長がスッと現れる。


話を漏れ聞いたところ、どうやら騎士団長のもの以外馬は怯えて使い物にならないらしい。

さすがは騎士団長の馬…鍛え方が違うわ。まぁ私のザッハには劣るけどね。馬にしてはやるな、といったところね。


「………そろそろ出る、任せた。」


騎士団長の方は、それだけ言うと愛馬を走らせ邪竜に突っ込んで行った。


「わかりました。」


あれだけで伝わったのか、副団長は代わりに騎士団の指揮を執りだした。なるほど、騎士団長は指揮するより実戦したいタイプか。

なんだか部下が苦労しそうだわ。


「グォアアアアアア!!!」


地の底から響くような二度目の竜の咆哮に、今まで食らいついていた騎士たちも若干顔を青くしている。

ムカデに苦戦していた新米騎士なんかは私が言うまでもなく戦意を喪失しているようだった。


単騎で突撃した騎士団長は、邪竜の周りを駆けながら試すように斬りつけていく。騎士たちも隙を見て攻撃しているが、まともに通用しそうなのは騎士団長の攻撃くらいか。

というか騎士団長、あんな大剣を持って息一つ切らさず動き回れるって………。討伐対象にならないよう気をつけよう。

邪竜の方は腕を振り地面を叩きと応戦していたが、群がってくる騎士たちが疎ましくなったのか範囲攻撃を仕掛けようとしていた。

……何故分かるかというと、体を反らし息を吸い、如何にも炎なんか吐きそうな動作をしたからだ。


「ぐっ……………!」


「がぁっ!」


予想通り───いや予想と違い炎ではなく風属性のようだが───吐き出された竜のブレスで騎士団が弾け飛ぶ。

渦を巻いた風は地面を軽く抉り、前方にいた数名と抉れた地面の欠片が飛び散った。幸い、死人は出ていないみたいだけれど負傷者は動けないようで、他の団員に回収されていた。


「退避、退避!」


「どう防げって言うんだ?!」


現場は混乱している。

さっき騎士団長はブレス攻撃が来るのに気づいているように見えたけど、何故周囲に警告しなかったのだろう。

そのことが気になり騎士団長に目をやると、慌てふためく騎士団を背景に邪竜との一騎打ちに興じていた。……………もしかしてこの人協力プレイ苦手なんじゃ……寡黙で意思疎通が苦手そうだし……そういえば副団長が連携取り辛いとか言ってたわね。


「魔女殿、あ………何か手立てはありますか?」


噂をすれば。焦ったような表情の副団長が隣に並び、「はよ魔法使えや」と言わんばかりだ。

いけない、観戦に徹してしまっていたわ。


「失礼、見入ってしまいました。」


そろそろ動かないとやる気がないと思われてしまう。

こういうところは前世の体育の授業なんかを彷彿とさせる。出来もしないバスケで一応ボールを追いかけるみたいに、突っ立ってないで行動しなければ、点数に響く。

今回はバスケと違って邪竜退治なので気は楽だけど………騎士団に見られることも考えると下手なことは出来ない。ナメられたら困るし、恥ずかしい。


さて………邪竜は想定していたよりも高さがあるので、今のままだと騎士団としては攻撃手段に困るだろう。

弓はイマイチダメージが通らなそうだし、毒物を仕込もうにも刺さらなければ意味がない。

邪竜の身体が剣で斬れるなら、頭などの部位が剣の届く範囲に下がって来ればいいのだろうけれど………。


どうやら騎士団長も邪竜を転倒させたいと考えているらしく、腱の辺りに仕掛けに行った。

さて、私はどうしようか。腱への攻撃を手助けするのも良いが、初手は大事だ。

まだ邪竜に魔法を見られていないので、今なら相手の警戒していない状態で攻撃をすることができる。


どこをどう攻撃するか考えていると、邪竜が翼を動かすのが見えた。飛ぼうとしているようだ。

……空を飛べるのは厄介ね。

射程的に翼を攻撃出来るのはどうやら私だけのようだし、飛行手段を奪うのはアリかもしれない。

というか、飛ばれたらそれこそ騎士団は手も足も出ないし、私一人で相手する羽目になる。それは困る。よし、翼にしよう。


「まずい! 飛ぶぞ!」


「空からあのブレス攻撃をされたらひとたまりもないぞ!?」


邪竜が羽ばたくのを見て慌てた騎士たちが阻止しようと集まる。

しかしそれを嘲笑うかのように邪竜はそのまま浮き上がった。騎士団長も邪竜の脚にダメージを与えたものの、阻止には至らなかったようだ。でもこれはその方が都合が良い。

どんどん高く飛べばいいわ。


「あの、副団長さん。」


急いで、近くで指示を出していた副団長の袖を捕まえる。


「邪竜の下から騎士団の皆さんを退けてもらえますか?」


「ど、どういうことかな………?」


「私が指示をするのも変ですし、そんなに大きい声が出ないので。」


副団長は意味が分かってなさそうなまま、急かす私に了承してくれた。話が通じる人で良かった。

こんな差し迫った状況で、なんでなんで攻撃でもされたら参る。


「ブレスがくるぞ………!」


副団長が邪竜の下からの退避を叫ぶと同時に、邪竜が大きく息を吸った。


「………よし。」


私も同じく息を吸い、杖を振り上げる。

集中し、狙いを定める。一瞬の緊張の後、ブレスが出る前に杖を振り下ろすと、黒雷が音を立てて竜の左翼を貫いた。


「うわっ!」


「何だ……?! 魔法か?!」


よし、よしっ!! やった!

当たった、効いている。虫退治とは比べ物にならない。

この雰囲気、迫力、臨場感。本当にゲームの世界のようだ。……いや、ゲームの世界なんだけど…乙女ゲームな世界でこんな体験が出来るとは思わなかった。これは完全にモンスターを狩るタイプのゲームだ。


イケメンを攻略するゲームの世界でモンスターを攻略するとはこれ如何に。

私としては、イケメンの好感度を上げたり甘いセリフを吐かれたりな攻略よりも、攻撃がヒットした喜びとドロップアイテムがある攻略の方が好みなので問題は無いけど。


「グォォォ……………」


魔法が命中した箇所は薄く煙を上げ、片翼がボロボロになった邪竜はバランスを崩しブレス攻撃を中止した。

そのまま落ちて欲しいけど……この様子だと、片翼でもなんとか着地しそうだ。

翼への攻撃で墜落、転倒を狙っていたが一撃では難しそうね。


「ザッハ、落ちたら行くわよ。」


《お前、その顔はどうにかならないのかね。》


「えっ………いや、今はそんなのはいいのよ。」


レディーに対して失礼なザッハに跨り革のハーネスに手を伸ばす。

握りやすい。ジルの職人技が光っている。


《やれやれ……》


ザッハが溜め息を吐き、走る体勢が整ったところで、再び杖を振り上げる。

攻撃してきた者を探すように目玉をぎょろりと動かしている邪竜の、残った右翼に向けて魔法を放つとそれを破壊した。


直後、金の瞳がこちらを認識したが、目が合ったのも束の間、完全に飛行手段を失った竜はそのまま地面に落下する。


先ほどの着地よりも大きな音を立て、地面を陥没させて墜落した。

高所から落ちた衝撃によるダメージはあるものの、まだまだ動けるらしい。重そうだし、あそこから落としたらもっとダメージあるかと思ったのに……残念。

邪竜は首を持ち上げると前方───私たちのいる方へ軽くブレスを放った。ザッハが飛び退き、そのまま邪竜に向かって走る。

邪竜の方はその間、地に伏した体を動かし起き上がろうとしていたが、そこへいつのまにか接近していた騎士団長が斬りかかった。


「まずいわ、首を取られる。」


あの騎士団長ならこのまま一人でドラゴン退治を完遂しかねない。

どうせ元々ゲームではこの人が倒したのだろうし、翼というアドバンテージが無くなった邪竜ならより早く倒せそうだ。


《わかっているよ。》


ワゴンのアイスクリームが売り切れるのを心配して急かす子供を宥めるような感じで、半ば呆れながら言うとザッハはスピードを上げた。


「何処が良いかしら……腕?」


《とりあえず、竜の左側に回るよ。》


騎士団長の剣と竜の爪がしのぎを削るのを横目に、迂回して反対側を目指す。

騎士団長と交戦しながらも私を捉えた邪竜は、こちらに向けてブンと大きく尾を振った。


迫る尾を迎撃しようと杖を振る。

が、落ちた黒雷は竜の表皮を焼き勢いを削いだだけだった。


「あ、ヤバ………」


威力が足りてない。

さっき翼にあの出力で通用したから、もう少し節約出来るかと思ったけど………ケチりすぎた!

素人の目測なんて見誤るに決まってるわよね!!


勢いを落としながらも向かってくる尾をザッハが上手く回避する。


「……助かったわ。」


《油断しないように。》


ちょっとテンションが上がって調子に乗っていたかもしれない。自戒しないと。


見ると騎士団長も竜の腕に弾き飛ばされ、土埃を上げて止まったところだった。

どうやら、私のアイスクリームは思ったよりも手強いらしい。



ヒャッハー!!

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