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魔女様は攻略しない  作者: mom
第3章 邪竜討伐

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48 遠慮する



遅れていた騎士どもが新人もしくは落ちこぼれだっただけで、先に到着していたベテランの騎士達は鎧を汚すこともなくスマートに移動兼魔物退治を終えていた。

新人教育を部外者に一部負担させておいて良いご身分である。勝手にしたから別にいいんだけどね。


《ここは景色が良いね。》


「ほんとね、遠くまで見えるわ。」


向こうに連なる山々は緑が見えず、冷たい印象を受けるがその灰色が静かで美しい。荘厳な、と表せるだろうか。

これは登った価値がある。私の場合は、自力で登るなら一生来ないような場所だけど。


景色を見つつ、集団に追いついたはいいものの誰に声をかけようかと迷っているとこちらに気付いた騎士が私の後ろを見ながら近づいて来た。


「あの、同行していた者は………?」


まずいわ。ダーツさん達のことだ。

監督者を置いてくるとか印象が悪い。


「それが…先に来てしまって……」


ザッハから降りてとりあえず杖を仕舞う。

すぐにぞろぞろと騎士団に囲まれた。


「魔女……殿、ですよね?」


「あ、はい………。」


やっぱり、さっきの騎士を待って一緒に来れば良かった。気まずい。アウェイ感が凄い。

このアウェイ感はアレだわ、例えば中学生がバーで一人待たされるとか、小学生が会社に忘れ物を届けにきて親を待っている時みたいな……どちらかと言うと場違い感かしら。

せめて顔見知りがいれば良いのだが、それは過去の自分が愚かにも途中で置き去りにしてきた為いない。ダーツさん早く来て。至急、可及的速やかに。ASAP。


共通点と言えば私の髪の色と鎧の色が若干似てるくらいしかないような、180cm越えがゴロゴロいる鎧の集団に囲まれているのは非常に居心地が悪い。どこを見ても初対面のおじさんお兄さんと目が合うので目線を上げられない。


「団長は邪竜が姿を見せないので少し様子を見に行っていて………じきに戻ると思います。」


「あ、そうですか。」


置き所のない目線をザッハに向ける。ザッハは騎士を眺めている。ザッハの毛も銀に近い灰色なのでこの一帯は同系色まみれである。

遠くからこの辺を望遠鏡か何かで観察したら、恐らく部分的に銀色で不気味なことだろう。


再び沈黙。すごく視線を感じる。私を観察しても別にまだ魔法は使わないから、意味ないのでやめてほしい。騎士団には他人をジロジロ見るのは失礼とかいう礼儀はないのか?

時おり小声で何か話すのが聞こえるが、自分達で喋って特に私に話し掛けてくる様子はない。用が無いのならもう少し離れてくれないかしら。


「大丈夫? 緊張してるのかな?」


と、思ってたら若い騎士がしゃがんで話し掛けてきた。

そうじゃない。話し掛けないなら離れてというのは、話し掛けてではなく離れてくれという意味だ。話し掛けなくていいし目線を合わせるという無駄な気遣いも要らない。私は迷子の子供か。


「お名前は? 何ちゃん?」


完全に迷子の子供扱い。次に「どこから来たの? お母さんは?」とか続きそうだ。

これには流石に周囲の騎士も私が気を悪くしないか戦々恐々といった様子。人によって怖がったり子供扱いしたり落差が激しいのはどうにかならないのか。魔女の情報が曖昧だからこんなことになってるのかしら。


ところで、この質問には答えたくない。

名乗ったら名前が知れ渡ってしまう。

この若い騎士の場合、「ミスティアちゃん一人で来たの? 偉いね!」的に、一人でおつかいに来た子供を無駄にサポートしようとする近所の気のいい人みたいな感じで名前を連呼しつつ喋りかけて来そうだ。


しかしだからと言って偽名を名乗る訳にはいかない。後々偽証とかになると面倒そうだし………そもそも警備隊からの情報で私の名前は知っているはずよね? この騎士忘れたのか?

もうそのまま、忘れたままのあなたでいてほしい。


「魔女の名前は呼んではいけないんじゃなかったか………?」


「近くの村の少年が恐れ多くて呼べない、と発言したと聞いたぞ。」


そんな私の祈りが通じたのか、根拠のない噂話が聞こえてきた。

その少年には心当たりがある。魔女様呼びを浸透させたアイツだわ。今となっては結果オーライ、それでいこう。


「魔女でいいです、わかりやすいので。」


魔女が複数いたら分かりづらいけれど、私しかいないしいいでしょう。


「そう? じゃあ魔女ちゃんで。」


そこにも「ちゃん」は付けるのね。


「ところで魔女ちゃん軽装だけど大丈夫なの? 戦闘で怪我しない?」


装備については、そもそも素体が紙防御の私に鎧やら防具を着けたところで纏めて吹っ飛ばされるのがオチだ。代わりに燃費最悪の最終奥義である闇オーラバリアがあるから問題無いが、バリアが無ければ鎧の中でシェイクになること間違いなし。


「大丈夫です、お気遣いありがとう。」


それより高度が上がったからか、冷え込んでいる。運動するからと薄着で来たけど待機中は寒い。早く邪竜出て来てくれないかしら。騎士に囲まれてるのも居心地悪いし。


「寒い? これ貸そうか?」


そう言って若い騎士が自身の首に巻いているマフラーだか手拭いだか何だか知らないが、布を外そうとする。

絶対要らない!!!


「結構です……!」


「遠慮しないで、無くても大丈夫だから。」


恐らく鎧との間の詰め物か何かにしていたらしき黄ばんだその布をにこやかに私に巻き付けようとしてくる。

そういう問題じゃない!! 巻くな、私にそれを巻くんじゃないわ!


親切に対して「汚いからやめろ」とは言い難い。苦難の末無言のまま屈んで回避した。そのまま騎士が私に回そうとしていた腕をすり抜けて三歩退がる。

時代やら職業的にその辺無頓着、というかいちいち気にしてられないのは理解できるが、親切心で腐った一反木綿みたいな布を差し出すのはやめてほしい。悪魔の所業か。


「……魔女ちゃん動き速いね?」


確かに盗賊と戦闘になった時よりも良い動きで回避できた気はする。

それはさておき、騎士たちにフォローしなければ。全力で布を回避する私に奇異なものでも見るような、訝しむような目が向けられている。角の立たない断り方は無いものか。


「わざわざすみません、魔女様の上着は持って来てるのでお構いなく。」


布から距離を取り膠着状態に陥っていると、呑気な声と共に私の肩に重みのあるものが掛けられた。首筋と頰にフワフワの……ファーの当たる感触がある。

フワフワを感じながら後ろを振り向くと、本職の悪魔が私にコートを被せつつ営業スマイルをかましていた。


「お待たせ。コート先に渡せば良かったね。」


歩いて来るって言ってなかったか? 早くない?

馬があるダーツさん達もまだ着いてないけど?


気になることはいろいろあるが、まずこれから聞いておこう。


「このコートは……?」


悪の司令官が着てそうな、ファーのついた漆黒のロングコート………これは家のクローゼットには無かったはずだけど。


「この辺寒いと思って仕立ててたんだけど、大きい鞄の方に入れてたから出すの忘れてた。」


短期間で仕立てすぎでは?


「身体冷えてない? 大丈夫?」


「大丈夫よ、助かったわ。」


タイミング的にはセーフ、これで一反木綿を穏便に断り、受け取らずに済む。


「親切にどうも、私はこの通り大丈夫なので。団長さんが戻るまでその辺で待機してますね。」


私もジルに習い営業スマイルで対応しながら徐々に距離を取る。


「そちらは……」


「あ、僕はただの付き添いなのでお気になさらず。」


ジルも突っ込んで聞かれそうなのを遮り、私の肩を掴んだまま退散する。


ところでザッハはどこに消えたのかしら。

騎士とごたごたやっている間、静かだと思ったら居なくなっていた。


「あ、ザッハさん戻って来たよ。」


辺りを見回しているとジルが先にザッハを見つけた。森の方から歩いて来る。


「どこ行ってたの?」


騎士団の囲いの中に私を一人残して………


《私が居なくても対応できるだろう。》


「……………。」


まずい、心細かったのが顔に出ている。


《この場所、ここにいる騎士団以外に何か来ているようだよ。》


「え?」


聞くと、誰かが野宿したらしき痕跡があったらしい。隠すようだったというので怪しさ満点。


《もう近くにはいないようだが……目的が分からない。》


「そうね………」


誰で、何の目的だろうか。

私の観察、暗殺、抹殺………それならここにいる騎士団でやるだろうし、他にコッソリ連れて来る必要も無いか。それか外部委託の暗殺で、失敗しても国は関与してません的な………。

というか昨日から今まであわよくば私を殺ったろうという感じは微塵もなかったので、私が下手を打たなければ敵対しないと思う…

あれが演技なら騎士団じゃなくて劇団でもやるべきだし人間不信になるわ。


今回の討伐のことは外部に漏らしてないって話だけど、嗅ぎつけた第三者の可能性もあるし、私じゃなくて騎士団か邪竜の追っかけかもしれない。全然わからん。


本人に聞くにも、邪竜討伐があるから捕まえる暇が無いわね。急に抜けたら不審がられるし騎士団とグルだったら面倒だ。

それに捕まえて尋問してもただの一般人だったらまずい。邪竜出没中の瘴気山脈なんかに遊びに来てる一般人とか紛らわしさの極みでしかないけど。


「なら泳がせてみる?」


なんでそこでワクワク顔なのよ。

まぁ放っておけば勝手に動くしいいか。考えなくてもそのうち目的が分かる。騎士団の動向も見れるし。


「そうね、正当防衛の方が気が楽だし、もし敵っぽいヤツなら手を出してきたら容赦しないところを騎士団に見せるチャンスかもね。」


騎士団にしろ第三者にしろ、危害を加えてくれば倒すコースでいこう。あれこれ考えるのしんどいし。杞憂ならばそれも良し。


変なやつ、得体の知れない奴に見られてるかもしれない、狙われてるかもしれないというのは落ち着かないが………大統領とか、暗殺される懸念のある人ってこんな気持ちなのかしら。私は魔法があるからいいけど、精神力強靭すぎない?


《危ないことは控えてほしいが。》


「邪竜退治に来といて今更でしょう。」


《それもそうだね。》


油断は禁物だし、体力は出来るだけ残して討伐したいところね。


緊急会議を終えて騎士団の方を確認する。

団長待ちの間、邪竜ミーティングスポットのど真ん中で悠長にもいつの間にかランチタイムに突入していた騎士団は、乾パンみたいなのを食べている。

携行食だから仕方ないが、全然美味しくなさそうだわ。


「魔女殿も良ければどうぞ。」


見ていたら知らないうちに合流していたダーツさんが乾パン片手にやってきた。

さっきは切実に来て欲しかったけど、今はいい。乾パンいらない。


「いえ、私は……………あ。」


お弁当、お弁当頼むの忘れた………!

地獄の馬車に気を取られて忘れていた。

この遠足で一番楽しみにしていたお弁当。ジルにお願いしようと思ってたのに………。


乾パンしかない現状に私がショックを受けていると、ジルが横からランチボックスをにゅっと出した。


「サンドイッチしかないけど、宿の調理場を借りて作っておいたよ。」


…なんだこの悪魔。

ランチボックスに手を伸ばしつつ目を見開いて悪魔の顔を見れば、初めてのデートで弁当を手作りしてきた彼女みたいに控えめに、八重歯よろしく牙を小さく覗かせて照れたように笑っている。少年漫画のヒロインにいそうだ。


「………でかしたわ。」


とりあえず撫でておく。

クセ毛がふわふわする。


こいつが本気で私を怪しい契約に勧誘してきたら抗えないかもしれない。私の欲求を知り過ぎている。


この調子だと、このランチボックスには私の遠足でお弁当に入ってたら嬉しいランキング上位である苺か林檎辺りが入っててもおかしくはないわね……。

サンドイッチだけって言ってたし流石に無いだろうけど。



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