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魔女様は攻略しない  作者: mom
第3章 邪竜討伐

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45 遠征する



出発の日、私は村人に盛大に送り出されるところだったがすんでの所で計画に気付き阻止。

花をいくつも繋げた飾りやら「全国出場おめでとう」みたいなでかい垂れ幕を持ってしょんぼりされても許可できない。私の無事を願った応援歌もやめろ、やめて。

なんとか説得して、騎士団の迎えが来る前に村でささやかなお別れ会をする方向に変更させた。騎士団に私が反政府組織を作ってるとか誤解されたら面倒極まりない。


それから、何人か邪竜討伐について行くとゴネる村人もいたが危険なので当然それも阻止。

好き好んで前線に飛び込むとか自殺志願か冒険者志望なのかと思いきや、同人誌のネタ集めがしたかっただけのようだ。命を張る場所を間違え過ぎだろ。そのうち村からこの世界初の戦場カメラマンとか出るんじゃないだろうか。


「じゃあ留守の間、よろしくね。」


文字通り北の山脈への遠征になるので数日家を空ける事になるが、留守はノアが見てくれることになった。こういう時面倒見の良いご近所さんがいると助かる。


「うん。気をつけて。」


向こうで車輪と蹄の音が聞こえて数分、ノアに手を振り家の近くの指定されていた開けた場所に行く。既に到着している迎えの馬車の前には騎士が立っていた。


「魔女殿ですね。王国騎士団所属、ダート・マイルヒア・コスタリカと申します。この度は宜しくお願い致します。」


近づくと、ザッと地面と靴の擦れる音をさせながらキビキビと姿勢を整え、キビキビとした口調で言い放つ。名前なんて? ダーツさん?


「はい。ええと、宜しくお願いします。」


「こちらにどうぞ。分乗になりますが……」


ダーツさんが馬車のドアを開ける。

中にいた騎士がそれぞれ挨拶するが似たような見た目の長いカタカナ名ばっかりで、悪いが全く頭に入らない。

定員は六人程に見えるけれど、騎士は鎧の分かさばるので四人乗りのようだ。

二台の馬車にダーツさん含めそれぞれ二人騎士が乗っており、その向かいに私とジル、ザッハに分かれて座った。いや、ザッハは二人分占拠して丸くなっていたか。


「では出発します。」


密室に鎧の騎士と一緒なんて正直嫌だが我儘は言えないわね。この間の汗かきの騎士じゃないだけマシとしよう。


「はい。」


ゆっくりと馬車が動き出す。


初めノアはすごく心配していたが、相手が人ではなく竜だけだと知ると安心して留守を預かると言ってくれた。何か話の中身がおかしい気もするが間違いではない。


留守番に関しては、ノアなら荒らされたりもしないし安心だ。過激ファンである村人には間違っても留守番なぞさせられない。


残る心配事は、私の素性だ。

警備隊や騎士団には、私は木の股で生まれて森でザッハに拾われたと大嘘を吐いている。木の股で生まれた以外はあながち嘘でもないが。

この辺りの設定は全て、エリル村の同人誌、もとい魔女様創作本の中から一冊選んで丸々流用した。その場しのぎで嘘をつくと後で間違えたり矛盾を見破られたりするのが気になるところだが、創作本から丸々騙ればそれが台本でありカンペになる。

発見時に発光していたとか、オーロラが出現したとか、その日村では一斉に花が咲く謎の現象が起きたとか無駄に盛られているが、そこは目を瞑る。


失敗したのは本名を割と名乗ってしまっていたことだ。

騎士団は警備隊と違い、貴族出身者が大半を占める。

幸い家名は出していないし、グレンヴィル家は元々社交界にはあまり出ない上に、私も箱入り娘というか、家庭教師や親の親しい繋がりの人くらいしか交流していないので私の顔を知っている人も少ないのが救いか。その少ない交流相手がサイコだったというのは自分の運の悪さを呪うしかないが。

とにかく、私の顔と名前にピンとくる貴族出身者がもしかしたら、一人くらいは、騎士団の中にいるかもしれない。それをピンとこさせない為に、ピンときても気のせいかな?と思ってもらう為にも、事前情報で魔女は貴族と無関係という先入観を刷り込んでおくのだ。


そうして私の出自もバレず、ミスティア・グレンヴィル死亡説はそのまま、親人間派の魔女だと証明しつつ、使い勝手の良い駒にはならないと印象付け、扱いにくいけど害はないしアイツはそっとしとこうと結論付けさせ、無事帰宅してドラゴンの肉を食べる………そこまでが遠足である。

ちょっと討伐体験と国の意向を探る体験型謎解きイベントがオプションに付いているだけの遠足だ。前世から遠足は好きでもないが、遠足の日のお弁当は好きだった。頑張ろう。


邪竜が手に負えないほど強かったり、全部罠で騎士団総出で取り押さえられたりしない限り大丈夫だろう。

いざとなったら騎士団を壊滅させて闇に消えるしかないが。



…なーんて、調子に乗っていた時期が私にもありました。


「魔女様、大丈夫?」


「………う…いや…」


完全に車酔いした。気分悪い………。

道が悪過ぎる。


「飴舐める?」


隣に座っているジルが心配そうに私の肩を支えながらポケットをまさぐっている。車酔い対策を怠った私の代わりに飴を用意しているとは………困った時のジルベール。素晴らしい。一家に二人くらいいてもいい。


「………ほしい…」


ようやく飴を取り出したジルの手を握ると向こうでバシバシ音がした。

見るとジルの尻尾が馬車の壁を叩きつけている。それを見て向かいの騎士二人がギョッとしていた。


「あぁ、失礼。」


ジルは尻尾を自分のお尻に敷いて騎士に愛想笑いをする。あの尻尾はどうなっているのかしら。よく勝手に動いてるようだけど。


気持ち悪さと戦いながらジルと座席の間で僅かに蠢いている尻尾をボーッと眺めていると目の前に飴玉が出てきた。


「はい。」


甘い匂いがふわりと漂う。

ジルにもたれかかったまま受け取った包みを開け口に入れる。


「目的地までどれくらいかしら。」


瘴気山脈までは遠いので、今日は間の宿場町までの馬車移動だ。確か行程表には宿で一夜を過ごし、次の日の昼頃に本隊と合流と書いてあった。

前に座っている騎士に目をやると妖怪でも見たかのような表情で一瞬硬直した後口を開く。

……馬車酔いのせいで目が虚ろになってたかしら。顔が怖くてごめんなさいね。それにしたって、騎士なんだからそんなことで動じないで欲しいわね。


「宿まではあと5時間程かかるかと………。」


絶望だわ。


「………………。」


表情の抜け落ちた私に、騎士が緊張しているのが伝わる。機嫌を損ねたら暴れ出すとでも思われているのだろうか。


「でしたら、仮眠をとらせていただいても?」


「あぁ、はい。到着までご自由に。」


騎士があからさまにホッとした。

この世界に酔い止めなんて売ってないので、こんな時は寝るに限る。


そういえばあのロリコンドクターは「私が付いて行くから怪我は気にしなくていいぞ」とか言いくさっていたが、騎士団の名前を出した途端「怪我をしたら遠慮なく私のところへおいで」と同行を撤回した。

初めは死んでも殺しても付いてきそうだったのに変だ。ロリコンで騎士団に指名手配でもされているのかしら。

どちらにしろ、怪我には気をつけよう。


「ジル、ここ良いかしら。」


仮眠の為に膝掛けを出してくれているジルの太腿をポンポンと叩くと、ジルは驚いたのか出した膝掛けを落としかけて何とか掴み直した。


「えっ………まさか寝るの? ここに?」


恐る恐るといった風に自分の足を指差している。

長時間正座しても痺れた様子もないこの男なら膝枕くらいなんてことないと思ったんだけど。


「嫌だった?」


「いや、そうじゃないけど。」


私が寝たら起きないタイプだから降りるまで解放されないと思ったのか。いくら私でもそんな鬼畜な要求はしないわ。

いかに悪魔といえど5時間ずっとは流石に辛いわよね。


「初めだけでいいわ。疲れてきたら適当に退けてくれていいから。」


「直接はいけない!」


膝の上に転がろうとしたら着地点に手をかざして阻止された。

口調おかしいわよ?


「硬いから、これ敷こう。ね。」


ジルはそう言ってもう一枚出した膝掛けを畳んだまま自分の膝に乗せ、それからどうぞと促した。


「そのままでもいいのに。」


「絶対だめ。」


己の太腿に鉄板でも仕込んでいるのか?

まぁ、枕は柔らかい方がいいからいっか。


「じゃあ、おやすみなさい。」


頭を乗せるとジルが微かに動いた。


「…おやすみ。」


上から膝掛けが掛けられ、その上にジルの手がそのまま残っている。肩の辺りに乗せられたその手が錘の代わりになって収まりがいいというか、なんとなく落ち着く。

その部分がじんわりと暖かくなるのを感じながら目を閉じれば、私の意識は車酔いも忘れて微睡みの中へ沈んでいった。



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