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魔女様は攻略しない  作者: mom
第1章 そして少女は魔女となる
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04 駆除する



家に着くと昨日の続きの拭き掃除をして、買ったものをザッハにお披露目した。

私の寝具シリーズと間に合わせの服と靴、多目的の布地やザッハの洗い替えの絨毯などなど。本当に家から宝飾品持ち出してきて良かった。あの時の自分を褒めよう。


《これは何かね?》


「あ、それはザッハの首輪…」


《お前は私をペットと勘違いしていないか?》


「乗せてもらうときに便利かと思って…」


捕まるところに悩まなくて済むし。


《…着けないよ。》


と、言いながら自分の寝床に置きに行く様は娘から可愛いキャラもののストラップをもらって困るお父さんのようである。


一通り戦利品を見せびらかした私は新しい寝具でベッドメイキングをしてから水場で汗と埃を落とした。

今日は服も靴も新しいしベッドで寝られるし町で美味しいパンを買ってある。

お金がなくなると魔物の肉生活だし自炊はできないし不安まみれだけど今日のところはこの喜びを噛みしめよう。





朝になるとザッハは出掛けていた。

着ていた服や使った布地なんかを洗って干したりと用事を済ませてから寝室にあった本棚の本に目を通す。

魔法マニアが住んでいただけあって魔法や魔物についての本ばかりだった。この人と友達だったからザッハは魔石について知ってたのかしら。

ただ本の内容については、サッと見たところ伝承や噂程度のものがほとんどだった。昔はこういう魔法があった、とかこんな魔物がいた、とか…読み物としては面白いけど。

ゲームでもヒロインの守りの力以外魔法っぽいものは誰も使っていなかったしそんなものか。魔物もそんなにヤバい奴はいないしね。


《どうやら魔法のことを忘れたわけではないようだね。》


本を読みふけっているといつの間にか帰ってきたザッハがドアのところに立っていた。


《買い物ではしゃいでいたし、忘れているかと思っていたよ。》


ええ、まあ、さっきまで割と忘れてたわ。

言わないでおくけど。


《ついておいで。》


本を置いてザッハに付いて行くと、山の斜面に出来た小さい洞窟のような穴の前に案内された。

穴の中は陽の光が差さず何も見えない。


《お前はあの時、雷の魔法を使っていたね。》


穴を覗いていると、穴の前に転がっている岩のうち大きめのものの上に登ったザッハが話を始めた。

確か一昨日の、屋敷を破壊したやつね。


「そうね、多分雷ね。」


黒かったけど。


《試しに一度この岩に落としてみなさい。》


今からなにが始まるのかよく分からないけどザッハが退いた岩の上に黒い雷を落とす。

ドン、と音がして岩の上部が砕け散った。雷なのに岩が割れるとは…。


《コントロールはまずまずだが、魔力の量を抑えて威力を調節しないとすぐにバテてしまうよ。》


も、もしかしなくてもこれは…お説教タイムかしら。いや、いわゆる修行パート……?


《まずはこれを使ってみなさい。何も無しより集中しやすい筈だ。》


実は小屋を出るときからザッハが咥えていて気になっていた木の棒をこっちに放る。

魔法使いの杖みたいだ。

25cmくらいの、手に持って丁度いい長さでねじねじしている。


《小屋の彼が趣味で作ったものだけど、なかなか良いと思わないか。》


「シンプルで良いと思う。」


珍しく少し得意そうなザッハに感想を述べておく。

私が杖を拾い終えると話を続けた。


《魔法は使う者との相性がある。お前の魔法は破壊することは得意なようだが、身を守ることには向いてないね。》


元のヒロインは守りの力だったのに……。

それって私はドス黒いオーラで破壊するのに向いていて元のヒロインのような聖女とは程遠い、と?性格批判があんまりじゃない?

ザッハに他意はないだろうけど。…ないよね?


ザッハによると、私のドス黒オーラでバリアを張るとするとかなり消耗して効率が悪いらしい。なんでも守りの力とは違い、全方位に攻撃して周りからの影響を相殺するような仕様になるとか。

それなら攻撃を受けたらそれをピンポイントで相殺する、もしくは先に敵を倒す方がいいので威力調節とコントロールを身につけろとのことだった。攻撃は最大の防御なり作戦だ。

私の身を案じてのことらしい。


《ところで最近、蜘蛛のような魔物が異常に繁殖しているようだよ。お前は虫は苦手だと言っていたけど。》


少し愉快そうな口調でザッハが嫌な前フリをする。

………それをわざわざ今言うってことは、


「…まさか………」


《危なくなったら私が助けるが、あれに集られるのは嫌だろう?》


暗い穴に目を向けると、まさにタイミング良く七つ目のデカイ蜘蛛がちろりと暗がりから半身を出したところだった。


「ザッハ、あれ30cmくらいあるけど…?」


それを指差しながら振り返ると、そわそわと尻尾を振りながら心にもない返答をされた。


《加勢してやれなくてとても心苦しいよ。》


朝から出掛けていたのは絶対これを探す為だった。いつからこんな恐ろしい企画を立てていたのか。

半ばヤケになりつつ雷を打ちまくり悪夢の1日目を終えたのだった。





1日目、というのも次の日もその次の日も蜘蛛退治をしたからである。


「ハァ────これで全部か?!」


そう荒々しく吐き捨てるのは、木の枝を片手に息を切らし鬼の形相で辺りを睨み回す少女……私だ。

周りにはデカイ蜘蛛の死骸がごろごろ転がっている。今日は一番多く20匹くらいいたが一匹も触られていない。初日は足に取り付かれて発狂した。

弱い魔物みたいで噛まれたりとか害はないのだがとにかくキモい。


実はあの蜘蛛みたいな魔物の巣穴はいっぱいあって、この辺りの森や村に出てくることがあるらしい。

今回でめでたく全ての害虫を駆除することに成功した。途中からつぶらな七つの目が見つめてきて可哀想な気もしてきたが、心を鬼にしてやった。

私の安眠の為だ。


そう。なぜザッハに強制されてもいないのに、こんなに必死に魔物狩りを行なっているかというとそれが要因だ。

この蜘蛛は基本夜行性らしく寝てる間にうろうろとやって来る可能性があった。

なお初日に昼間に穴から出てきたのは穴の前で私が雷を落として騒いだからだ。ザッハの計画通りだ。

で、いつ来るかも来ないかも分からない虫に怯えて眠るよりも自分から行って全て駆除して安心して眠ろうとなったわけである。


今日まで苦労の連続だったが、おかげで威力調節すれば20発くらいなら魔法を使っても倒れなくなったし、安眠の目処も立った。


帰って蜘蛛の殲滅を報告すると、ザッハは早いねと少し驚いていた。

今日は体力も使ったし、気分良く熟睡出来そうだ。



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