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魔女様は攻略しない  作者: mom
第3章 邪竜討伐

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42 若者は交流する



「どうしよう………」


目の前の悪魔は溜息を吐きながら俺の剣を弾き返すと、その長い睫毛を物憂げに伏せた。

その様は男の俺でも美しいと思える程で美術品のようでもある。

しかしその悩みは見た目に反して実にくだらないものだった。


「あのなぁ、そんなことでいつまでも悩むなよな。」


警備隊に正式に入隊し普段はミシガルで生活している俺は、休みの日にはオルガの町に帰る。

俺の休みの日は連絡し合って、こうして町でジルベールと訓練することにしている。全然休んでないが鍛錬は俺の趣味でもあるしコイツが帰った後は町で家族と団欒しているのでちゃんと休みである。

ジルベールは警備隊連中とはまた違って、剣同士の戦闘ではなく色んな武器やパターンを使ってくれるので面白い。ただしその見返りとして、奴の恋愛相談に乗ってやらねばならないのだが。


「でも毛糸のパンツは流石に………」


「本人が気にしてないならいいじゃねーか。」


コイツは最初、ミスティアに「パンツ」というワードを使ったことで変に思われてないか気にしていたらしい。正直そんなことを気にする方が怪しいと思うが。

で、ミスティアの方は初めは子供扱いにむくれていたそうだが毛糸のパンツに興味を示してきたとかなんとか。


「気にしてないのは良いんだけど、いや良くないんだけど、」


どっちだよ。


「こっちが提案した以上編まなきゃいけないし、でもそれはちょっと………。」


こいつ真面目だな?


「約束したわけじゃねーんだろ? 別に編まなくていいだろ。」


「でも冬は寒いし……。」


こんなくっだらねぇ話をしながらも俺の剣は全て躱すか弾くかしている。ムカつくな~……。

コイツといると精神力まで鍛えられそうだ。


「じゃあ買えばいいだろ。」


「……売ってない。」


そういえば町で見たことないな。

俺もジルベールに聞くまで知らなかったし。


「あ、ならズボンと思えば良いんじゃねーの? 短い毛糸のズボン。実際そうだし。」


そう言うとジルベールはなるほど! と目を開いて、その端整な顔を破顔させた。


「ところでクレイグ。攻撃が単調になってるよ。」


悩みが解決して気が回り出したのか急に今まで受け身だったジルベールが動き出した。

真面目に俺の相手をする気になったようで何よりだ。



「そろそろ休憩する?」


しばらく攻防を繰り返した後、疲労が溜まったところに足をかけられ地面に座り込む俺にジルベールが手を差し出す。

なんでこいつ呼吸乱れてすらいねーんだよ。


「はい、お茶。」


持ってきた籠の中から出したコップにお茶を注ぐと息を切らした俺の前に出してくる。


「どーも。」


ハーブの香りがして落ち着く。

お茶請けに出してきたクッキーも美味い。


「そういえば、ノアに聞いたけどミスティアにナイフ贈ったってマジ?」


クッキーをつまみながら話を振れば、隣に座ったジルベールは同じくクッキーをつまみながら答えた。


「うん。ナイフ使ってみたいって言うから、どうせなら自分用のが良いかなって。」


「お前さ、好きな女にナイフ贈るか普通? 最初のプレゼントだろ?」


普通こう、女性へのプレゼントっつーのはアクセサリーとか花とか………


「でも魔女様すごく喜んでたよ。飾りに宝石も付けたし。」


あー………あいつも普通じゃなかったもんな。

確かに花を貰って喜ぶよりナイフ貰って喜ぶ方が想像出来るぞ。切れ味が良さそうだわ~とか言ってそう。

つーか宝石付けたって自作かよ。


「毎日使ってもらえる物って良いよね。」


「まぁ、それはそうだな。」


確かに贈り物はよく身に付けたり使ったり、箪笥の肥やしにならないのが理想だよな。


「………って、ミスティア毎日使ってんのか?!」


「毎日練習してるよ。最近は動きの遅い魔物なら刺突で倒せるようになったかな。」


あいつは何を目指してるんだ。


「警備隊の方はどんな感じ?」


「今は大きい事件も無いし、平和だな。この前の件の盗賊は全員刑罰も決まったし、子供たちも身元不明者もなく家に帰った。」


盗賊のほとんどは死罪で、雇っていたと思われる隣国の金持ち、恐らく貴族だろうが………そっちは調査中だが恐らく捕まらないだろう。

盗賊の拠点に使われていた洞窟は、昔隣国との戦争時に捕虜だか亡命者だかを一時的に置いておく為に作られ、そのままになっていたものを利用されたらしい。その為、上の方は管理責任やらでまだ揉めているようだ。


余談だが、盗賊を移送して牢に入れた後、捕らえた盗賊全員が謎の頭痛を訴えたり夜に何かに見つめられていたとか変な話をし出したという噂を聞いた。

その時、俺の脳裏にエリル村で見た呪いの儀式をする過激派の村人の姿が浮かんだが、まさか呪いなんてそんなもの存在するわけがないので忘れることにした。

呪いはない。魔法はあるが呪いはない。

悪魔もいるが、呪いは目に見えないのでない。

そういうことで。


「なるほどね~。」


ジルベールは、俺が知ってることを一通り話し終えると同時に最後のクッキーを口に放り込んで立ち上がった。


「で、肝心の話をまだ聞いてないんだけど。」


「……ミスティアについては、この前箝口令が敷かれた話はしたな?」


「うん。」


単に不安を煽らない為だと思うが、その後動きが一切無いのが気になる。

前例が無いので何とも言えないが、普通魔法使役者という数百年来の存在が現れたら放置せず調査なり何なりするのではないだろうか………というのが俺とジルベールの考えだった。


「それ以降、国が動かない理由が分かった。単純な人手不足だな。」


「人手不足?」


「二カ月くらい前から、騎士団が頻繁に北に駆り出されているらしい。俺の予想では、何か別の重要案件があって魔女に対峙するのに十分な人手が無いんじゃないかと。」


ランドルフ隊長の報告でミスティアが誘拐事件解決に貢献したことは分かっているだろうが、魔女なんて意味不明なものに戦力不足のまま迂闊に手を出して下手な事になると困るとかそういう………。


「騎士団の動向なんてよく知ってるね。」


「警備隊にたまに連絡に来る騎士団の新米に聞いた。そっちも箝口令があるから詳しく言えないとか言ってたし、重要案件なのは間違いないだろ。」


箝口令って言葉自体が漏らせないけど秘密ありますって感じだもんな。「箝口令」を漏らしちゃダメだよな。


「で、こんなに問題抱えてそうなのに国王が機嫌良いってのが何かありそうなんだよな~。」


「王様機嫌良いの?」


「未だ嘗てなくご機嫌らしい。」


客観的に見てだから程度は定かではないが。


「で、情報源は?」


ニヤリというのが似合う笑みをたたえながらジルベールが問う。


「城の庭師。」


「クレイグって怖いね。スパイとか出来るんじゃないの。」


「お前に怖いとか言われたくないよな。」


初対面で見てきた時の目、忘れてないからな。物凄い怖かったんだからな。


「そもそも王城の庭師なんてどうやったら知り合えるの? 今後の参考まで。」


「何の参考だよ……王都に雑用で行って折角だから観光してたら自然に。」


「わーお。」


こいつバカにしてんのか?


「そうそう、王都に行ったついでに王立図書館に寄ってみたんだけど、悪魔ってマジで情報ねーのな。」


「クレイグ、図書館なんて行くんだね。」


「そこは今いいんだよ。」


一応言っとくと、俺はあの脳筋な三番隊の中では一番、戦闘以外にも興味を持てる人間だからな?


「実際、悪魔いないからね。」


「お前だろ。」


「僕以外に見たことないってこと。」


「え、そんなに年寄りなのに?」


確か3桁いってるんだっけ?


「長生きって言ってよね。」


「ごめんごめん。」


それだけ生きてて見ないって、そりゃ情報も何もないわな。悪魔の謎は深まるばかりだな。


「今更だけど、僕のこと警備隊に言わなかったんだね。」


「言ったら要らん騒ぎになりそうだろ。お前と敵対しても俺に良いことないし。」


例えば俺がジルベールについて悪魔だと報告すれば、国は警戒することは出来る。

しかし悪魔についての正確な情報なんて無いし時間があるからといって対策出来るかと言えばそうでもない。

国が秘密裏に悪魔の生態の文献でも保管してるなら別だが。まぁ、大真面目に存在しないはずのものの情報を長い年月記録してるようなものなので、可能性はほぼない。

で、そんな無駄な働きをした結果チクった俺に待っているのはジルベールの敵認定だ。

一族郎党消滅待った無し。………とまではいかないかもしれないが、まず勝てない相手に喧嘩は売るもんじゃない。

それにコイツのことは嫌いじゃない。


まぁ、ここ数百年国が滅んでないんだから放っといても危険でもないだろ。


「まぁね。僕は良い悪魔だしね。」


「自分のこと良い奴って言う良い奴見たことねーけどな。」


そう言うとジルベールは無言で自分のことを指差す。


「………そういうことにしとく。」


「よし。じゃ、僕はそろそろ行くね。」


俺が渋々認めれば、既に片付けていた荷物を持って町の方を向いた。


「どこに。」


「今日は仕立て屋で秋冬物の打ち合わせだから。クレイグも来る?」


こういうところは無害そうではあるわな。


「遠慮しとく。」


こうして、今回の不定期異種間交流会はつつがなく終了した。



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