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魔女様は攻略しない  作者: mom
第3章 邪竜討伐

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41 思案する

閲覧ありがとうございます。

乙女ゲームと一切関係なさそうなタイトルの第3章開始です。




あれから約ひと月半、ノアは上手くやっている。

初めこそ信者村の邪気にあてられないか心配していたが、ノアの完全なる善性の前には無力だった。


「起きた状態では初めましてですね。…へ~え、あなたが! 盗賊に命令されたとは言え魔女様を! 危険に晒した! へ~え!」


───とは、当時のエリックの言葉である。

正直エリックがこんなに嫌味が似合うとは思わなかった。こいつ中身は悪役令嬢なんじゃないか?

対してヒロインの回答は…


「ミスティアだけじゃなく、心配していた村の人にも迷惑をかけたと思う。本当にすまない。」


嫌味と思ってすらいない。

多分鈍感系ヒロイン。


「お世話にもなったし、俺に出来ることがあれば手伝いたい。何でも言って。」


そしてこのふんわりスマイル。

私的ヒロインが言いそうなセリフ上位の「私に出来ることがあれば何でも言って!」だ。

この亜人、私よりヒロインに向いてるんじゃなかろうか。


「……ち、力が強いだけの人に言われてもね! この村に相応しい気品と知性が無いと困ります!」


これは完全に悪役令嬢。貴女みたいな庶民、伝統ある我が学園に相応しくありませんわ! 的な。

ごく普通の村に求められる気品と知性とは。

あとこの村、力仕事すごく必要としてるだろ。力が強いだけで十分よね。


「俺は学が無いから、良かったら教えて欲しい。」


一応ゲームでは教会に仕える予定だった程度には元々善良な素質のあるエリックは、ノアのセリフにうがぁあぁぁ………とエクソシストに祓われる悪魔みたいな呻き声を上げてしばらく頭を抱えて悶絶した後、腰に手を当てて言った。


「し、仕方ないですね………!」


ツンデレかよ。



はい、ということで以上が誘拐事件収束後のノアとエリックのやり取り。


「魔女様、卵をお届けに参りました!」


噂をすれば何とやら、丁度考えていたらエリックが来た。

ドアを開けるとノアと一緒だった。


「いつもありがとう。…凄い荷物ね。」


卵を掲げるエリックの横で、ノアが大工道具と木材を抱えている。


「村で貰ったんだ。ベッドの材料にどうかって。」


「もう外観は完成だものね。」


この家の隣には現在ノアが家を建てている。

家と言っても台所なんかは無い、寝る為だけの…寝室のようなものだけど。


そして、ノアはすっかり村に馴染んでいるらしい。

もう村に住んだら良いと思うのだが、やはり村の外の人間には驚かれるというのと、なんと私にご近所さんがいないので万が一の時心配だからとのこと。ノアは私をその辺の幼女と同じように見ているのだろうか。確かに一度誘拐されたがジルやザッハもいるし、留守番でも一人で出来る。

まぁ誘拐事件の折に盗賊の手足を魔法で吹っ飛ばしていたので、穏やかな性格のノアは私がコソ泥をオーバーキルしないか心配しているという線も無くはないけど。

もしそうなら、私は別に殺人鬼でも戦闘狂でもないのでそこは勘違いしないで欲しいわ。


「凄いですよね。ノアは村でも家具作りなんかを手伝ってくれてるんですよ。」


あれ以来エリックは村で読み書きを教えたりと、兄のようにノアに接している。年は逆だけど。

ノアも素直について行くし、身長もだいぶ逆だけど兄弟みたいな関係だ。

ここだけ見るとエリックは本当に憑いてたものが浄化でもされたかのようだが、そうでもない。


「私の家の祭壇もノアに新調して貰ったんです!」


……祭壇。


「そういえば、家の中に魔物の死骸があってびっくりしたよ。」


びっくりで済ませる辺り、この男も普通ではない。笑ってるし。


「あれは魔女様の倒された、貴重なものです。」


「ミスティアが倒したの?」


「ええ! …それはもう鮮やかな手際でその漆黒の雷光は神の光にも似て美しく見るもの全てをあまねく魅了し刹那の至福へと至らしめその余韻ですら我々は───」


エリックの息継ぎをどこでしてるのか分からないような長い語りが始まったので聴覚を遮断。

ノアは部外者はうんざりすること間違いなしの語りをニコニコ聞いて頷いている。

もう少しNOと言うことを覚えた方がいい。前世世界なら絶対変な勧誘に引っかかってるわ。


そろそろ語りが終わったようなので耳を働かせると、ノアがこっちを向いたところだった。


「すごいね、ミスティアは。」


「え、あぁ………そうかしら。」


「村の人も言ってたけど、やっぱりミスティアは優しい。」


………正直。

正直、私は褒められるのが苦手だ。

信者みたいになってしまった村人が魔女様魔女様~言ってくる分には割と平気なのだが、いや怖いが、それはともかく、ふざけたり意外とやるじゃんみたいな軽いのではなく、こういう真面目な奴から素直に普通に良い風に言われるとむず痒いような、逃げたいような気持ちになる。

挙動不審になるし何と言っていいか分からない。


「はは………」


どうしようか困っていると空笑いが出た。

返事が自動的に決定してしまった。


そもそも、魔物退治は卵が欲しいという私の私欲からきたもので決して善意ではない。

欲に塗れた私の瞳に無垢なノアの存在は毒だわ。

見返りを求めず村人に家具を作る奴が、卵を求めて魔物退治した奴を優しいとか言うのはやめてくれ。浄化されてしまう。


「じゃあ、俺はそろそろ作業してくる。」


「私も村に帰りますね。」


二人がそれぞれ別れたのを見送り、受け取った卵をテーブルに置いてから部屋に戻る。

部屋の机の上にある一本の美しいナイフを手に取るとその刃に光が流れるように走る。


「…やっぱり見事な細工。」


これは帰還のお祝いにとジルに貰ったものだ。

持ち手部分に彫刻で装飾がされており、紫の石が嵌っている。ジルが以前趣味で作ったものを手直ししたのだと言っていた。

美術品のようだが、実用品である。



一匹のたくましいゴリラを想像してほしい。

私が人間を攻撃するのは、そのゴリラが手でビスケットを半分に割るようなものだ。ビスケットが半分どころか1000個くらいに、粉々に割れたのが見えただろうか。

そして私が身体に魔力を纏うのはゴリラが裁縫をするようなものである。めちゃくちゃ疲れる。ゴリラの強靭な筋肉も肩こりで役立たずと化すだろう。


自分をゴリラに例えるのは少々気が引けるが、まさにこれ。

まずはビスケット割り。

こちらについてはひたすら練習あるのみ。今も絶賛特訓中である。


裁縫の方は比較的早く解決策が見つかった。

魔力を纏う範囲を狭めれば消耗を抑えられる。ゴリラの手で雑巾を縫い上げるのは苦行だが、2、3針くらいならなんとかなりそう。そんな感じだ。

部分的に纏うのは、誘拐された時縄を切るのにも使えたし威力もなかなか。人間でも反撃してこない、寝てる相手とかなら魔力を纏わせた手で攻撃するだけでダメージの加減も可能。ただし起きてて反撃されると格闘技とか力がダメダメな私は加減の余裕が消滅する。

それに見た目もヤバい。

素手で肉を削いだり物を破壊する絵面って人間としてどうだろうか。野蛮な香りがプンプンする。


そこでナイフに魔法を纏わせることを考えた。

ナイフで攻撃するのは見た目は普通だし、切る行為は素手と違ってイメージし易いので加減もし易い。比較的細長いので、万が一杖が折れたり何らかの理由で手から離れた場合は杖の代わりとしても使える。


その話をしたところ、ジルがこのナイフをくれたのだ。ナイフには詳しくないが、威力面は魔法を纏うので折れさえしなければ問題ない。

その辺が分かっているのか、見た目に拘ってくる辺り奴はデキる悪魔である。

誘拐の時と言い…こっちが返す前に、してもらってばかりだ。


前のご褒美の話も結局小麦粉で良いと言ってきたし、欲がないのかしら。

こうなったら独断で何か………何が好きなんだ?


「………ジル…」


机に肘をついて奴の顔を思い浮かべ、好きそうなものを考えていると自分の右側が暗くなった。


「呼んだ?」


「うわっ………!」


右からジルが覗いていた。


「び、びっくりした………何、驚かさないでよ。」


思い浮かべてる側から実物を用意するんじゃないわよ。


「魔女様に呼ばれるの好きだから。」


「………ジル。」


呼んでみたらザザザと後ずさって壁に激突した。


「ちょっと待って、目は見ないで。こっち見ないで言って。」


要求の多い悪魔だこと。


「ジル。ジルベール。ジルくん。」


その辺の壁を見ながら何個か言ってみるも返事がないのでジルの方を見ると、頬に手を当てて視線を横に泳がせている。


「ジルベールくん、返事は?」


「……はい。」


女教師風(の、つもり)で言ってみたら、ようやく返事が帰ってきた。

ジルも満足したのか笑っている。目は合わせてくれないが。


「あ。魔女様、あったかい靴下買ってあるからね。」


壁から離れてこちらに戻って来たジルは合わないままの目線で私の足元を捉えるとハイソックスの辺りを見ながら言った。

現在、私の格好は膝上ワンピースにハイソックスという、衣替えを渋った結果夏の終わりからほぼ変わらない服装の肌寒さを靴下で誤魔化したスタイル。

ジルは勝手に服を作ってくることもあれば靴下などの小物を用意している時もある。


「用意がいいわね。」


私が寒いかな、そろそろ秋物要るかな、と思った時には既に準備されている。お母さんか。


「魔女様は放っとくと限界まで動かないからね。」


「そんな私をものぐさな人みたいな………。」


いや、確かにそうでもなくもないけど……心外だわ。


「冬になったら毛糸のパンツ編もうか?」


ジルを見るとからかうように尖った歯を覗かせて笑っている。完全に子供扱いされてるわ。


「………ちょっと。なに笑ってるのよ。」


クローゼットの中は既にジルブランドの服でいっぱいだ。

何か返す前にどんどん与えてくるのがこの悪魔の手口なのである。



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