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魔女様は攻略しない  作者: mom
閑話

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43/114

とある村人の一日 キアンの場合

新しい名前がたくさん出ますが、頭に入れなくても全然問題ないです。



エリル村の朝は早い。

正確には、エリル村の農業従事者の朝は、だ。


「よお、キアン。」


「おう。」


畑でジムに軽く挨拶を交わすと早速仕事に取り掛かる。

体力が自慢の俺は幼少から親父に教わってこの鍬捌きを身に付けた。


以前この村がただの農村だった頃、俺は畑仕事が得意で力もある自分こそが優秀で、腰の弱った老人やひ弱な奴は他人の施しがないと生きられない、無能で劣っている人種だと思っていた。

しかしそれは間違いだった。


魔女様は目立つのを嫌う謙虚なお方なので、魔女様を讃える為の祭壇や集会は各自家などでひっそりとやっている。

ひっそりやるということで最近村で人気なのは、魔女様のシンボルを描いた枕だ。

実際の品は初期に作成した旗と同じ染めの布を使い、枕を包むため袋状にしたものなのだがこれはとても夢見が良い。

これを考案したカークは、昔は植物ばかり弄っている変わり者で俺も関わったことがなかったが、今は尊敬する人物の一人である。あいつは村で一番染料に詳しく、魔女様の素晴らしさを色彩で表現することに於いては天才的だ。


「おい、速報だ! ジークの爺さんが新作を完成させたぞ!」


畑の横を走り抜けて行ったのは村一番の駿足のガロン。村の中での緊急の連絡や新しい情報の伝達、あとは個人の伝言の仕事などを請け負っている。


「何だと! おいキアン、ひと段落したら行こうぜ!」


「おう!」


ジークの爺さんは数年前に腰を痛めてから家にこもりきりで、食糧難の際には口減らしのため山に連れて行こうという話が出ていた。

今考えれば、俺たちは何て馬鹿なことをしようとしていたんだろうと思う。この貴重な人材を危うく失うところだったのだ。


「よし終わった! 先に行ってるぞ!」


「あ、ずるいぞ!」


一刻も早く行きたいが畑仕事を疎かにはしない。魔女様は野菜を召し上がらないが、この野菜は村人たちの糧となりそれは巡り巡って魔女様のもとへ還るのである。


しっかり仕事をしてから爺さんの家へ急ぐと、そこには既に人だかりができていた。


「早く読ませろ!」


「この次のページは誰が持っているの?!」


「待て、絶対に引っ張るな。順番に並べ。」


一人の声に従って集っていた全員が少しずつ移動して一列になる。俺もその最後尾に加わった。


「キアン来たか。」


最後尾でそわそわしている俺にジムが声を掛けた。


「もう読んだのか?」


「あぁ、今回も最高だったぞ………魔女様と異形のな、」


「待て待て言うな。先に内容をバラすのはやめろ。」


とても気になるが読むまで我慢だ。

一ページ目がもう俺の三人前まで回ってきているのだ。


「ははは、悪い悪い。お前も読んでから、夜に話そうぜ。」


「おう!」


それから少しして、ようやくお待ちかねのモノが回ってきた。

ジークの爺さんの新作、魔女様の活躍を描く物語の第三作だ。


この爺さんの話、実際に起こった事ではなく家にこもっている爺さんが想像で書いた話なのだが、かなり面白い。読んでいると、それを目の当たりにしているかのように思い浮かべることが出来るのだ。

学のない俺は初めは字の読める村人が行う朗読会でこれを聞いていたのだが、次第にそれが待ちきれなくなり文字の読みを習い初めた。今ではたどたどしくだが一人で読むことが出来る。

村人の中には自分でも魔女様の文章を書くべく読み書きのみならず、言葉の表現を勉強をしている奴もいる。

話が逸れたが、とにかく爺さんの話は面白い。村の宝だ。出来るだけ長生きしてほしい。



日が暮れる頃、頼まれた荷物の運搬で集会所へ足を運ぶとエリックと数人が話し合っていた。


「では、その時期に発表会を行うということで。」


「そうですね。系統は問わず、なるべく未発表のものが好ましいでしょう。」


前に村の話し合いでエリックがチラリと漏らした魔女様を讃えた作品の発表会というやつの話だろうか。


「あ、ありがとうございます。そこに置いておいてください。」


俺に気付いたエリックが集会所の隅を指差した。そこに荷物を置いて集会所を後にする。


俺はかつてエリックに暴言を吐いたことがある。生贄の役目がなければ、いてもいなくてもどうでもいい奴だと思っていた。そのくせ妙にプライドが高そうなところもムカついていた。


だが、エリックは凄い奴だ。

先日の、魔女様の聖なる御身を不浄の輩が拐かした事件の時も、ただ狼狽える俺たちを冷静に纏め上げた。

思えば魔女様の素晴らしさを俺たちに教えてくれたのもエリックだ。今では魔女様の存在がなかった頃の生活なんて考えられない。

あの方のことを思うだけで生きる気力が湧いてくるのだ。これまでほとんど話したことのない村人との交流も増えたし、毎日楽しい。

そういった意味ではエリックは恩人だった。


俺がちっぽけだと思っていた奴だって、未来のジーク爺さんかもしれないし、他の凄い技能や役割を持っているかもしれないのだ。


帰りに、村の掲示板に貼られた最新の魔女様帰還時の見事な写し絵を見て、この村にはまだまだ俺の知らない凄い奴がいるんだと楽しみになった。



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