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魔女様は攻略しない  作者: mom
第2章 ミスティアとノア

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38 命名する



「あの、離してもらえます?」


「声も可愛………ぎゃッ!!」


ちょっと握られた手が気持ち悪いので離れようとしていると、不審者はジルに尻尾で刺されて飛び退いた。

その尻尾、攻撃に使えるのね。


「痛い!」


「ごめん、あまりにも気持ち悪くてつい。」


全然謝ってる感じ無く尻尾をひらつかせるジルに対し、痛そうにしながらもまだ向かってくる不屈の精神。これはかなり熟練の変質者ね。


「──で、この変質者は誰?」


さっきから地獄の20連勤企業戦士みたいな顔つきになっているクレイグが知ってそうなので聞いてみる。まず最初に深い溜息が返ってきた。

あの体育会系クレイグが疲れ果てるとは………私が寝てる間に何があったんだ?


「こいつは医者のゼームス・アクスウィス。ロリコン。」


OH………。

二言目の紹介文のせいで医者という立派な肩書きが一転、最悪の職業になったわね。


「ぜひゼームス先生と呼んでくれ!」


再びジルに突かれ床に転がっていたが、しゅばっと起き上がり満面の笑みで要求してくる。

不屈度が高い。


「そうだ、足の包帯を替えに来たんだ! 取り替えついでに怪我の様子を見よう。」


「これを抑えるのに苦労したんだよ………医者としては優秀だから我慢してくれ。」


「え、これに診せろってこと?」


比較的常識人のクレイグにしては珍しく子供にロリコンを差し向けて来るとは。

足の包帯を見るに、もうすでにこのロリコンに処置をされているらしい。


「怪我人が出ることを考えて、お前を診せる条件で連れて来たから………悪い。」


思うのだけど、クレイグって善良そうだけど結構他人を使うことに長けているのでは。


「……仕方ないわね。関係ないとこ触ったら容赦しないけど。」


「うんうん、さあさあ足を出して。」


ゼームスに向けてベッドから右足を出す。目はヤバいが処置はちゃんとやっているようだ。

消毒液か薬か知らないが、恐らく傷だらけだろう足の裏に染みる。


「………っ……」


思わず力んで目を細めるとゼームスの楽しそうな顔と目が合った。


「……………いっ…!」


こいつ、私の反応をガン見して楽しんでいる……!


「そんなに睨まないでくれたまえ。自分で言うのも何だが私はただの変人ではないぞ。瀕死の亜人くんも助けたんだし。」


角の男が助かったのって、実はこいつのおかげなのか………? と思いクレイグを見ると、苦い顔で頷いている。

遺憾ながら功労者のようだ。


「でもミスティア嬢に睨まれるのは悪い気がしないな。」


Mっ気もあるロリコン、これはもう私の手に負えそうにない。魔法のコントロールを練習する必要を切実に感じる。人体に損傷を与えず手を振り払ったり弾き飛ばす技術を会得しないと。


「はい、終わり。綺麗な足に傷が残ったら大変だからね。」


包帯を巻き直してそう告げると、星が出そうな見事なウインクをしてくる。


「クレイグ、私この人苦手だわ。」


「だろうな。」


相性ってあるわよね。


「ところでクレイグくん、亜人くんを助けたご褒美に抱擁しても良いだろうか。」


「………は?」


クレイグと抱擁、という訳ではなさそうだ。

私に腕を伸ばしている。


「ごめん、それも約束した。」


クレイグ………その場凌ぎで私を売ったな?


「私、もう身体を洗ったから抱擁は出来ないわ。」


「私は清潔だよ?!」


さあさあ、と手を伸ばしてくる。


「じゃあ………布の上からなら……」


妥協案として被っていた肌掛けを体に巻きつける。これならまぁ、許容範囲だわ。


「では遠慮なく。」


「あ、それでいいんだ。」


数秒してから、蚕の魔物みたいになった私を抱き締めてはしゃぐゼームスを呆れた眼差しで見ていたクレイグが握手会のスタッフの如く引き剥がしに来た。


「そろそろやめとけ。」


「まだ堪能したい……」


「やめろ、ヤツが凄い目で見てんだよ。」


クレイグが小声でごちゃごちゃ言いながらロリコンを引き摺っていきそのまま出て行った。

終始騒がしい奴だったわね。


ロリコンを見送ると一息吐く間もなく、入れ違いに今度はエリックが飛んできた。


「魔女様!! お目覚めになられたと聞いてっ………!」


ポロポロ涙を流しベッドサイドに駆け寄ってくる。


「すみません、私が至らないばかりに、御身を危険な目にっ…」


「ちょっと落ち着きないよ………誘拐とあなたとは関係ないでしょ。」


遠因としては、村に呼ばれて結果ああなったわけだから、信者的には何か責任感じるのかもしれないけど。


「ぼくが、行けば良かったんです、ぼくが代わりに、」


嗚咽交じりに言葉を紡ぐ。

最近では珍しい、気弱な方のエリックだ。


「いや、私で良かったわ。あなたなら逃げられないでしょうし。」


美少年好きの金持ちとかに売られてえらい目に遭う未来が見えるわ。


「でも…………」


「結果的に誘拐犯も捕まえたし子供も帰って来たし、私も無事だからいいのよ。」


そもそも、あの時村に一人で戻るって言ったの私だしね。

実際売り飛ばされたり大怪我でもしてたら八つ当たりで「ついてくるなって言われてもついてこいや」くらいの暴言を吐いたかもしれないけど。


「それより私を探すの手伝ってくれたのね、ありがとう。」


号泣するエリック。

どうしたらいいものか………


「ミスティア、隊長が話いいかって。」


困っているとクレイグが呼びに来た。

今日は入れ替わり立ち替わり人が来るわね。


「行くわ。」


そういえばここエリックの家だった、ベッド占領してたわ。


「ベッドありがとう、後で整えるから。」


ジルが。


「………お構いなく。」


すんすん、と泣いているエリックはいつもの狂信者っぽさが控えめで可愛らしい。


「ジル、私の靴はどこかしら。」


「まだ歩かない方が良いよ。」


………足の裏、歩いたら痛そうね。運んでもらおう。


ジルに運ばれて外に出ると、角の男が立っていた。


「……ミスティア。」


もうピンピンしている。

私の名前は誰かに聞いたのだろうか。


「やりたいことはできたの?」


「うん、ありがとう。」


角の男はそう言って穏やかな笑みを返した。


「それは何より。……ええと、名前は。」


「盗賊のところではノロマと呼ばれてた。」


「…それあだ名じゃないの?」


あだ名というか……蔑称というか。


「もともと名前はなかったから、ノロマでいいよ。」


おおらか過ぎない?


「私が呼びたくないわ。その呼び方が気に入ってるなら別だけど。」


好みなら他人の名前にとやかく言えないけど、苛めてるみたいじゃない。


「なら、好きに呼んで。」


ザッハにも同じようなことを言われた気がする。

魔物系は名前に頓着ないのかしら。


「じゃあ………」


亜人の、混ざり物の生き残り………。


「…ノア、はどう?」


うん、2文字で呼びやすい。かわいいし。


反応がないのでネーミングセンスに不安を感じて表情を窺えば、男は夕焼けの中で静かに、泣きそうに笑った。

赤くてよく見えなかったので見間違いかもしれない。


「君には貰ってばかりだ。」


私何かあげたかしら、と呟くと、ノアはまた可笑しそうに笑っていた。



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