03 案内させる
私の胃腸は頑丈だったらしく、変な生肉を食べたぐらいでは壊れなかった。
《おはよう。》
「おはよう…体痛くならなかった?」
昨日私はザッハを枕兼布団代わりにして寝た。
ベッドが用意出来ていなかった為だが…親切すぎて不安だ。こうして念?で会話できることからも結構高位の魔物ではないかと思うのだが、今も私が起きるまで起こさずじっと寝具役をやってくれていたりと気が利くダンディーっぷりがすごい。
《問題ない。準備をしたら町に行くよ。》
「うん。」
ここで顔を洗いながら気がついた。
私の装備は昨日と変わらずネグリジェとスリッパのままである。仮にも死んだことにする前はご令嬢。町に行くのにこれは如何なものか。
と、言っても着替えはないしどうしようもないんだけどね。
「お待たせ。」
仕方なく余ったシーツの布を頭から被り怪しい旅人風で行くことにした。
よく考えたらこの銀髪は目立つので一応隠せて良かった。同じ目立つでも個人が特定できない方がマシだし。
町は遠かったがそこそこ大きくて目当ての物は手に入りそうだった。
問題はネックレスをどう換金するか、だ。
普通こんな怪しい奴から買い取るか?窃盗犯と間違えられるんじゃないか?
…考えが甘過ぎた。
スリッパ履いてシーツ被った子供とか完全に浮いている。
町の外れで待機してくれているザッハが恋しい。
魔物を町で連れ回すわけにいかないので一人で来たけどもう不安だ。さながら親に一人でお使いに行かされた子供のように。
そんなことを考えながらシーツの中でネックレスを握りしめて右往左往していると、後ろから肩を叩かれた。
「ひっ……!」
「あ、驚かせたか?ごめんな。」
振り向くといかにも運動が得意そうな爽やかな少年がいた。
「いや、えっと…何かしら。」
「なんか困ってるみたいだったから…迷子か?」
失礼な。と思って顔を見るとたじろがれた。
相手の方が背が高いし、睨むみたいになっちゃったわね。
「この辺の子じゃないよな?俺はクレイグ・オーデリ。そっちは?」
たじろいだ割にフランクに話を進めてくる。
コミュ力が高い奴はこれだから…。
「ミスティア………」
あ、あんまり町の人に本名名乗らない方が良かったか?しかも相手につられてフルネームで名乗りかけた。
元の家からは結構離れてるしサイコ兄貴に割れることはないと思うけど…目立つ行動は控えよう。既に目立ってるけども。
「ミスティアは一人?親御さんは?」
「一人よ。」
保護者なら町外れで待機中。
「えっ、歳はいくつ?どこから来たの?」
私は子供か。…あ、子供だったわ。
でも迷子扱いしすぎじゃない?こいつも年上だろうけどまだ子供枠でしょ。
「9歳、向こうの方の…村から。そっちは?」
「俺は12。ここの出身だから見たいものがあれば案内するけど。」
体つきしっかりしてるけどそんなに歳変わらないのね。案内自分から申し出るとか出来た若者すぎない?
丁度いいからお節介そうなこの人にきいてみるか。
「あの、これを買い取ってくれるところを探してるのだけど。」
「げっ!これまた高そうな…一応聞くけど盗ってきたりは……」
「してない。」
今度は意識して睨むとクレイグは黙った。
まぁ自分の家とは言え勝手に持ち出したのはそうなんだけどね。
「…俺の知り合いのおっちゃんなら引き取ってくれるかもしれん。行ってみるか?」
「睨んだのに親切ね。打たれ強くて助かるわ。」
「ミスティアってキツくない?喋れば喋るほど毒舌になってく気がするんだけど。」
「私って人見知りだから。ごめんなさい、もっとオブラートに包むよう心掛けるわ。」
「…………。」
オーバーに申し訳なさそうな顔を作る私を見て文句ありげな目を向けたクレイグは、はいはいといった感じで呆れながらも例の知り合いのところまで案内してくれた。
「良かったな、買い取ってくれて。」
クレイグの口利きもあって、怪しい出で立ちの奴が持ち込んだにも関わらずネックレスは正当な値段で買い取って貰えた。
こう見えて顔が広いみたいでこの町のお店についても詳しいらしい。意外と頼りになる男である。
「助かったわ。お店の案内もお願いできる?」
手に入れたお金から一部を渡すとクレイグは少しムッとした。
「そういうつもりじゃないぞ。」
「お堅いわね。分け前よ。またそのうち換金に来ると思うからその時もお願いしたいし。」
実際クレイグがいなかったらもっと買い叩かれていたと思うし、損はないのよね。
「じゃあ今回だけ貰う。」
「よろしくねクレイグ。」
「はいはい。それより早くその格好どうにかしようぜ。靴も買うだろ?」
私の格好をざっと見てシーツを捲る。
スリッパを視認するとそのまま目線を上げてクレイグは信じられないものを見る目で見てきた。
「お前、家出してきたの?」
「半分間違ってもないけど。」
「にしてもネグリジェって……襲われても知らねーぞ…ロリコンに。」
え、この世界にもロリコンいるの?…いるか。
「あんまり深く考えないで。ロリコンが出たら撃退してね、私が手を出す前に。」
説得するように笑顔で肩に手を乗せる。
闇パワーで雷を落としたら撃退できそうだけど人体には威力や加減がわからない上に大騒ぎになるだろうから使えないのよね。
「…何する気だ?!」
その後妙に怯えているクレイグを押して店を回ると、予定よりかなりスムーズに欲しいものを調達出来た。食べ物は美味しいお店を教えてもらえたし、靴や服は腕のいいところを紹介してもらえた。どこにあるかもわからなかったシーツも手に入ったし、持つべきものは地元民の知り合いである。
「今日はありがとう。」
「どういたしまして。…その格好のまま帰るのか?せっかく買ったのに。」
「帰ったら大掃除の続きをやるから、新しい服は汚したくないのよ。」
「ふーん。」
「じゃあまたね。」
「おう、またな~。」
町外れまで見送ってくれたクレイグに手を振って林に入っていく。
向こうから見えなくなったところでザッハを呼ぶと近くにいたのかすぐに来てくれた。
「暇じゃなかった?」
《問題ないよ。遠くから町を見物していた。》
かなり待たせたけど文句も言わず、落ち着いた仕草で歩いて来る。
《大荷物だね。》
「運べるかしら。」
背中に括り付けている敷物やシーツを見ると、落とさないようにねとだけ言って背中を向けた。結構重いけどザッハはビクともしない。すごいわ。
行きと同じ調子で、ただ背負った荷物が引っかからないかにだけ気をつけつつ、私たちは小屋へと戻ったのだった。
◇
町に帰ろうとしたところでふと、一人で来たと言っていたし子供があれだけの荷物どこまでどうやって持って帰るんだと思い至ったクレイグは、踵を返すとミスティアが去った方に足を向けた。
「あれ…もう行ったのか?」
続く林道には人影はなく、馬が走って行ったような音もしなかった。別れてからすぐ戻ったはずなので不思議に思うも、いないものはいない。
古いシーツの中に高級そうなネグリジェを着ていて、スリッパなのに宝石だけ持ち歩いていて、ところどころ上品なのに弟を相手してるような気分にさせられるチグハグな少女の事を考えながら帰路につく。
途中で町一番のロリコンとすれ違い、誘拐の可能性はなさそうだなと安心して少年は家に帰った。




