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魔女様は攻略しない  作者: mom
第2章 ミスティアとノア

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37 起床する



目を開けるとふわふわの黒髪が目に入った。

そのまま目線を下に移すと、ジルの両手がテンポ良く三つ編みを生み出している。

順番に、一定のリズムで次々出来ていく三つ編み。それをボーっと眺めていると深紅の瞳がこちらを捉えた。


「おはよう。」


「………何故私の髪を三つ編みにしているの。」


寝たまま目だけを動かしてそれを見やるとジルは少し微笑んで仕上げに三つ編みの先をリボンで結んだ。


「なんとなく。」


まぁ、三つ編みするのに特別な理由はないだろうけど。左側を見るとこちらも既に三つ編みにされている。さては余程暇だったのか。


「……私どのくらい寝てたの?」


「もうすぐ夕方だから、半日は大幅に超えてるね。」


えーっと………20時間くらい寝てるわね。

我ながら寝過ぎだわ。お陰で体力は回復したけど。


「ここどこかしら。」


「信者くんの家だよ。あ、一応身体は綺麗に洗って、シーツなんかも全部新しく替えたから。」


手を見るとあの最高におぞましいおっさんの血液は綺麗に消えているし、森の中を転げ回った土汚れなんかも見当たらない。

寝具は清潔で石鹸の香りがする。これは熟睡できるわけだわ。

森から帰る際にシャワー浴びたい的なことを言ったのを近い形で叶えてくれたのだろう。ジルが私の意図を汲み取り過ぎている。有能すぎて怖い。


「えっ、わっ。」


ふわふわの頭に手を乗せてよくやったと撫でると斜め下を向いて赤面している。乙女か。


「ははは、愛い奴め。」


ベッドから身体を起こし追加でよしよしと撫でる。

今の、ヒロインが王子辺りに言われそうなセリフだわ。これはなかなか言ってて楽しい。私はヒロインよりも攻略対象の方が向いているのかもしれない。

撫でながらふと、さっきの話を思い返す。


「…そういえば、身体を洗ったって私をお風呂に入れたってこと?」


この田舎に浴場なんてないが、まぁ水浴び的な、そういうものにしても私はマッパになったのではなかろうか? 着てる服変わってるし。


「あ、ちょっと失敗して……服は着たままで洗っちゃって水浸しになったから、着替えは村の奥さんが。」


なんとなくお婆さんが川で洗濯よろしく私を丸ごと洗濯したんだなというのは伝わった。

奥さん以外に裸体を見られた訳ではないようね。


「そう、ならいいわ。」


「いや、良くねーから。」


声の方を見るとクレイグが入って来ていた。


「ジルベール、お前ずっとここにいたのか?」


「うん。」


「少しは手伝えよ………。」


知らない間にクレイグとジルが仲良くなっている気がする。絶対ジルベールとか呼んでなかった。


「で、ミスティア。お前なー、あれで起きないとかもう少し深刻に考えた方がいいぞ。」


壁に肩を預けて私をダメな子のように呆れた目で見やがるクレイグの後ろには、やたら人がいた。警備隊っぽいのやら村人やら。

一番気になるのがクレイグが連れている子供たち。託児所みたいになっている。


「………何人兄弟かしら。」


1、2、3………と数えるマネをするとクレイグに違うわ!とツッこまれた。


「保護した子供だ。」


子供は本能で面倒見のいい奴が分かるのだろうか。クレイグがたかられている。

一方私の方は様子を窺うように見られていた。


「無事だったのね。良かったわ。」


どうやら角の男は目的を達成したらしい。


クレイグによると、盗賊も全員捕まり、殺したかと心配していた一人も生きているようだ。

子供たちは全員無事に保護され、角の男も瀕死だったがザッハが連れ帰り一命を取り留めた。

そして私が寝ている間に事情聴取は終わり、角の男も回復。今は残りの子供の面倒を見てるとか。………亜人、回復早過ぎないか?


とにかく、寝てる間に面倒ごとは全て片付いていた。

子供も無事、真犯人は逮捕。

これで私の疑いは晴れたし一件落着だわ。


ただ一つ問題が。私は子供たちに魔法で檻を壊したり盗賊を攻撃したところを見られたんだった。恐がられるのも当然か。しかも自分だけ逃走しようとしたし、かなり印象が悪いはず。

………上手いこと記憶を消す方法ってないかしら。


「…あの、ありがとうございます。」


真剣に考えていると、クレイグに纏わりついている女の子の一人が何故か私の顔を見てお礼の言葉を呟いた。

お嬢さん、誰かとお間違いではないだろうか。


「あなたがいなかったら助からなかっただろうって、」


状況が読めず見つめ合っていると私の疑問を察したのか、女の子がさらに説明を付け足した。

小さいのに気が回るわね。


「それは結果そうなっただけで、私があなた達を助ける為に動いた訳ではないからお礼は要らないわ。」


身に覚えのない感謝をされるのは居心地が悪い。


「どうせならあの、角の男に言って。」


あっちは本当に助けに行ってたし。


「角のお兄ちゃんにはもう伝えました。お兄ちゃんもあなたにお礼をって。」


「………私?」


意味がわからないわ。

………いや、ある意味この子達の時も角の男の時も、私が囮役に一役買っていた気もする。

そういう意味では感謝もあるわね。


一瞬、洗脳魔のエリックの関与を疑ったけど、魔女様とは呼んでこないし大丈夫そうね。

せっかく助かったのに幼少期の人格形成に影響を与えてたら事だわ。


「ありがとう、魔女様…。」


あかん!!魔女様言うてはる!


「あ、あの、私のことは極力忘れて普段の生活に戻って…ね。」


もうこれは魔法の存在を隠し通すことが出来ないレベルになってきたわね………。

目撃者を抹殺する訳にいかないし、私の扱いは警備隊に丸投げしよう。


「クレイグくん、そろそろ良いか ………おぉ!!」


話に区切りがついたところで、入り口の人集りの向こうから叫び声がした。

驚いている間にも声の主は人を掻き分けてベッドの横まで来て私の手を取る。紺の長髪に眼鏡をかけた男、まぁイケメンの部類だ。

心なしか子供たちがその人物から距離を取ったように見える。


「寝ててもマーベラスだが、目を開けるとまた格別だね!」


すごい馴れ馴れしく手を握って至近距離で叫んでいる。こんなうるさい奴知り合いにいない。

誰? 新キャラ?



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