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魔女様は攻略しない  作者: mom
第2章 ミスティアとノア

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36 若者は安息しない



「遅かったな、クレイグ………」


空が薄明るくなってきた頃、町から戻った俺がまず目にしたのは、出発前とは別の意味で疲れ果てたマークス先輩の姿だった。


「え、なに、どうしたんですか。」


まるで魑魅魍魎の宴でも見てきたかのようなやつれ具合のマークス先輩を失礼ながら少し不気味に思いながらも心配して近寄ると、先輩は無言で背後を親指で示した。


魑魅魍魎の宴が開催されていた。


「あぁ魔女様! 神よ、感謝します!」


「我らの祈りが通じたのだ………」


「やったー! 今日はお祭りだね!」


町の広場で村人が明らかにヤバい柄の上衣を着て踊り狂ったり咽び泣いたりしている。奇祭かよ。この様子から察するに、ミスティアが帰って来たのだろうか。

あと最初の奴は神の設定がめちゃくちゃじゃないか?


「………ミスティアが、帰って来た…のか?」


「数刻前にあの自称兄の………空を飛ぶ同居人が連れ帰った。森で盗賊から逃げていたらしいが、今は眠っている。」


空飛ぶ同居人って言葉のイメージが帰還の感動をぶち壊してるな。

そうか、ジルベールが見つけたんだ。


「じゃあ無事だったんですね。」


「そうだな。彼女の方は擦り傷や打ち身はあるが大事無い。」


先輩はだから言っただろうと言いたげな表情をし、それから行方不明だった子供達を保護し、盗賊の方も警備隊で捕縛した旨を付け足した。

子供達の中にも軽い怪我や衰弱が見られるが命に別状はないとのこと。

良かった。苦労して連れて来た意味はほぼなかったが、無駄になったのは良いことだ。

折角だから診てもらおう。

というか、診せないと奴は絶対に納得しないだろう。


「ミスティアはどこに?」


「例のエリック少年の家だ。………その前に、そいつは誰だ?」


ミスティアのもとに向かおうと一歩踏み出した俺の後ろにいる奴について先輩が尋ねる。


「オルガから連れて来た、ドクター・アクスウィスです。」


「オルガというと……お前の出た町か。そんなとこまで行ってたのか。」


と、そこまで世間話のように呑気に喋っていた先輩が急に固まった。


「先輩?」


「……………ドクターって、医者か?!」


なんだそのオーバーリアクションは。

メガネからはみ出るくらい目を見開いて驚愕している。


「まぁ、そうですけど。ミスティアが怪我してた時の保険に………」


続きを話す前に肩を掴んで揺すられる。

どうした先輩、ミスティアが魔女だと分かった時以上に落ち着きがないぞ。


「クレイグ! お前すごくタイミングの良い男だな!!」


「とりあえず落ち着いて話してくれます?!」


──未だ息荒く深呼吸する先輩から聞き出した話は、ミスティア帰還から一刻程して魔狼……ザッハが拾ってきた亜人の男が危険な状態だというものだった。

これまたいきなり新情報が多過ぎて意味がわからない。ミスティアを探しに行って瀕死の亜人を拾うってどんな確率だよ。


俺の困惑はよそに先輩はその亜人のいる集会所まで俺を引っ張って歩きながら亜人の話を続ける。

曰く、ミスティアのマントを傷口に巻いていたことからミスティアの関係者らしい、子供たちを逃がしたらしいが盗賊とも関わりがありそうで話を聞きたい、警備隊で応急処置はしたが出血が多く危険である、動かせないし医者を呼ぼうにも医者のいる町まで遠く来てくれる保証もないので動きかねていたとのことだ。

俺は全く想像していなかった方向でファインプレーに成功したらしい。


「不届き者に鉄槌を!」


「地獄の苦しみを味わえ!」


盗賊に向けてだろう、呪いの言葉を吐きながら呪いの儀式をしていると思しき過激派の村人たちを見て見ぬ振りをしながら集会所の前まで辿り着くと、今まで大人しかったドクターが俺の肩をちょんちょんと突いた。


「クレイグくん、クレイグくん。」


立ち止まった俺たちを振り返り早く早くと足踏みしている先輩とは対照的に、ドクターはいつも通り、マイペースだ。


「なんだよ?」


「私に話していた例のアレはどうなるのかね?」


メガネのレンズに光を反射して目はよく見えないが、理由もなく自信に満ちた笑顔を浮かべこちらを見ている。

性格が、中身が別人だったならこいつは間違いなく優秀な人間なのだが、残念なことに現実は非情だ。


「重傷患者が先ですよ。」


「私は美少女しか診たくない。」


そのセリフをキリッとした顔で言うかなぁ。


「…楽しみは後にとっといた方が喜びもひとしおって言うだろ。」


「お預けか…わざわざこの距離を美少女の為に慣れない馬で尻を痛めながら来たのに………。」


齢20を越えた男がわざとらしくしゅんとしている。

重傷の患者を前にしてこの発言。

絶対こいつの本職は医者ではない。医者は変態の隠れ蓑だ。


「亜人を治したらミスティアにご褒美がもらえるよう計らってやるから。」


あ、まずいな。

適当に言ったけどミスティアのことだからご褒美(電撃)とかやりかねない。ただのロリコンが被虐趣味のロリコンに進化したらまずい。

………まぁ、終わってから考えればいいか。


「やれやれ、こんなに仕事をして可愛い少女じゃなかったら怒るからね。」


胸元で纏めた長髪を後ろに払い、俺の町一番のロリコン────ゼームス・アクスウィスは、亜人の背中に目を向けた。





「助かるのか?」


ロリコンによる処置が終わると、それを側で見ていた男の子が話し掛けてきた。

保護された子供の一人だ。他の子たちを纏めてリーダーのような役割をしていたらしく、おかげで遅れたりはぐれたりして森に置き去りになる子供はいなかったようだ。切羽詰まった状況で、しっかりしている。


「血も止まったし、亜人は丈夫だから安静にしてれば治るってさ。」


「良かった………あのまま死にそうだったから心配した。」


やれやれといった風に、はー、と長いため息を吐く。

他の子供もおずおずと様子を見にきていた。

この亜人の男は慕われているらしい。


「お、そこの君。怪我はしてないかな?」


「え、ぁう………。」


俺が話している隙にゼームスは近くにいた幼女の手を取り検診ごっこを始めた。


「おい、何してんだ。」


戸惑う女の子から変態を引き剥がし、外に連れて行く。


「誘拐されて精神的に不安定なんだから、やめろって言ったろ。」


「てへへ、つい。」


こいつは「つい」で取り返しのつかないことをバンバンしそうで怖い。もうしてるんじゃないか? ………念のため捕まえるか?


「で、例のミスティア嬢というのはどんな子?」


ミスティアのいるというエリックの家に向かう道すがら、爛々と目を輝かせてゼームスが聞いてくる。

こいつは小さい女の子なら大抵好きだが、まぁミスティアは好みだろうな。


「綺麗な子だよ。でも節制しないと命に関わるから気をつけろよ、忠告したからな。」


「エッ、そんな危険な感じ?」


この変態が勢い余って抱きつこうものならジルベールに灰にされそうだし、そうでなくてもミスティア本体があの性格な上に攻撃力高いからな………。


「お邪魔します………うわ。」


目的地に着き中に入る。

外観は普通の、質素な家だったのに………家の中には見たら呪われそうな祭壇があった。


「おぉ………なかなかに個性的なハウスだね。」


さしものドクターも引いている。

祭壇の上には昨日の蜘蛛型魔物の死骸が飾ってある。エリックが飾ったんだよな……。

俺、昨日こいつに出されたスープ飲んだのか………大丈夫だよ…な?


「エリック、医者を………あれ。」


ベッドを見ると、エリックがベッドサイドに座り上半身だけベッドに突っ伏して寝ている。

恐らく寝てるミスティアの様子を見ていて、疲れたのか自分も寝てしまったのだろう。

しかし肝心のミスティアの姿がない。


起きて外へ出たのかと一度外へ行ってみると水の音がした。民家から少し離れた場所でジルベールがしゃがんで何やら四苦八苦している。


「……………何してんだ?」


今日は他人に行動の動機を聞いてばかりな気がする。正確には質問ではなく咎める意図なんだが。


「あ、おかえり。」


「ただいま………ってそうじゃなくて。」


目の前のこの悪魔。でかい洗濯用の桶の中で洗濯しようとしている。ミスティアを。


「あぁ、汚れてるの嫌そうだったから、起きないし洗ってみようと思って。」


なんでその発想になるんだよ。考えが理解出来ないのは種族が違うからじゃないよな? 個体差だよなコレ?


こうしている間にもジルベールは桶に溜めたお湯でミスティアの手を爪先から丁寧に洗っていく。擦り傷なんかの手当をした際に泥などの汚れは拭いただろうと思うが、桶の中のわずかに湯気が出る程度のお湯が少し濁っている。


「お湯替えよう。」


呆然と見ているとジルベールは濁ったお湯を捨てるべく桶の中からミスティアを持ち上げ、手伝っていた村人にお湯を入れ替えさせた。

お湯が綺麗になると再びミスティアを投入し人間洗濯を再開する。

お湯はどこからきているのかと目を向けてみれば、向こうで村人が数人がかりで火を起こして水を熱していた。


「沸騰させてから冷ましてるんだよ。」


いや、お湯の説明は特に求めてない。


「あのさ、それ………ミスティア怒らないか?」


手やら足やら触ってどう見ても寝てるのを良いことに不埒な真似をしてる図なんだが。

昨日の純情はどこに行ったんだよ。

手を繋いだだけで赤面しそうなジルベールくんは幻だったのか?


「ミスティアは寝たら起きるタイミングが来るまでは余程のことがないと起きないから大丈夫。」


嘘だろ………これだけ好き勝手されて起きないとか危な過ぎだろ。欠片も大丈夫じゃねーわ。

これで悪魔を一緒に住ませるって、肝が座りまくってるのかイカレてるのか何も考えてないかどれだよ。


「あ、服どうしよ………着替えさせ……どうしよ………。」


桶から取り出した、びしゃびしゃの服を着たままのミスティアを見て途方に暮れている。

純情さが戻ってきたようだな。おかえり。


「そこに女の人いるだろ。」


村の女性陣に頼むとみんな「そんな恐れ多い………!」と首を振っている。

だからミスティアは村に何をしたんだよ。


「では、ここは私が。」


「待て待て待て待て。」


さっきまで黙っていたゼームスが腕まくりをして歩み出たので阻止する。


「診察も着替えも出来て一石二鳥じゃないかね?! どこに問題が………?」


「問題しかねーわ。ジルベール、今のうちに………」


変態を抑えながらジルベールを見る。ミスティアを布にぐるぐるに包んで右往左往している。


「さ、さすがに着替えはまずいよね。拭かないと駄目だし………。」


「魔女様の御身に直接触れるなど、バチが当たります………!」


「離せクレイグくん、私がやるぞ!」


悪魔と村人と変態が口々に騒ぎ立てる。

これだけうるさいのにミスティアは寝てるし。

あーもう、俺一人でこいつらどうすりゃいいんだよ……



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