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魔女様は攻略しない  作者: mom
第2章 ミスティアとノア
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35 若者は行動する



ミスティアの捜索が始まってかなり経っただろうか、辺りも真っ暗になった頃、俺はエリル村の集会所で出されたスープを手に一人座り込んでいた。


「おい、スープが冷めるぞ。」


そう言って隣に立ったマークス先輩に目を向ける。そちらも疲れた様子で汚れた顔を拭うこともしていなかった。


「次の交代までにしっかり体を休めておかないと、保たないぞ。」


「………はい。」


そう返して松明の炎を見ていると、少しの沈黙の後気まずそうに身じろぎしてからマークス先輩が再び口を開いた。


「あれだ。その、早くスープを飲め。」


それだけ言ってさっさと立ち去った。

あの人なりに俺のことを元気づけようとしてくれたのだろうか。もっとマシな返事をすれば良かった。


あれから────警備隊にミスティアがいなくなったことを伝えてすぐ、俺たちは村に戻った。ジルベールが言っていた「ザッハさん」というのは狼の姿をした魔物で、戻った頃には既に連れ去られた方角を特定していた。

警備隊も全員で捜索したが見つからず、途中から交代で探すように切り替えた。村では馬の補給や場所の提供などをしてもらったが、夜になってからはスープまで配り始めた。村全体が支援に回っている形で、俺たちも万全の状態で動けたが結果は出なかった。

そもそも、あの素早そうな魔狼やジルベールが探して見つからないのに、俺たちが見つけられるのかという話だ。


もうどこか遠くへ連れて行かれてしまったんじゃないだろうか。もしくは逃げたものの道がわからないとか。ミスティアは好戦的そうだから、誘拐犯と戦って負けるか怪我するかしたのかもしれない。その場合魔法を見られたら、魔法使いなんて珍しい……どころか世界で恐らく一人だから、まずいんじゃないか。

いろんな嫌な予想が頭の中を渦巻いて、今のこの時間がひどく辛いものに感じられた。


心配されるくらい、俺は目に見えて落ち込んでいるらしい。


「………あー、くそ。」


深く息を吐いて、深呼吸する。

冷たくなったスープを流し込むと、器を村人のもとへ返すため腰を上げた。


「どうも、それはこちらへ。」


返却場所で忙しなく他の村人に指示を出しながらそう言ったのは、目の下に大きなクマを作ったエリックだった。


ミスティアより年下だったと思うが、この変な村を取り仕切っているように見える彼は事件の後から働き詰めだった。


「………休まなくていいのか?」


自分がマークス先輩にされたのと同じような心配をしている。言えた立場ではないのだが………変な感じだ。


「まだやることがありますからね。貴方こそやることないなら休んだらどうです?」


こいつ、昨日のミスティア語りの時とは打って変わって冷めてるし嫌味まで言ってくる。

確かに、やることがない………交代まで待つしか出来ないのは事実で痛いところだった。

俺だって探したいのは山々だがランドルフ隊長は全員の疲労の状態や長期戦になることも考慮して、交代制にしたのだ。そこは納得しているし、今は休むのが仕事だとも分かっている。

でも今こうしているうちにもミスティアは危険な状況になっているかもしれないのだ。


「あんたは村に居て、もどかしくないのか。」


俺でさえこんなに心配なのに、ミスティアを異様に慕っている様子だったエリックがジルベール達と同じように探しに行かないのが単純に不思議だった。


「………私が探しても行方不明者が増えるだけですよ。警備隊の世話でもしてる方がまだマシでしょう。」


感情的な奴かと思ったら、冷静だし合理的だ。

自分の力量を理解しているし、エリル村の支援がなければ俺たちも一度ミシガルに引き上げていただろうから、ミスティア捜索を考えれば結果的に最善手だろう。


「意外としっかりしてるな。」


「意外ってなんですか。私はただ、魔女様のお役に立てる行動を取るだけです。」


ミスティアは一体こいつに何をしたのだろうか。

というか、さっきまで気持ちに余裕がなく目につかなかったが、この村は全体的におかしくないか?

村人は昼から変だったけど、こうして村に入ると村の中は不気味な旗が掲げてあるし、今なんかそこで怪しい服装で祈祷らしき行為をしている集団もいる。


「わかったらさっさと動いてください。そこ邪魔です。」


「あぁ、ごめん。」


引いているとエリックに追い払われた。

そう、今は村がおかしいことは置いておこう。

さっき座っていた場所に戻り少し考える。


俺が得意なのは、探し物でも待つことでもない。剣の他に出来ること……まだ誰も気にしていないが、ミスティアが帰ってきたら長時間捕まるか森をさまようかしていて下手したら怪我をしたり、少なくとも衰弱しているだろう。

ここにいる警備隊の連中は応急処置は出来るが本業の奴が居るに越したことはない。

きっと今それを用意することが可能なのは俺だけだ。


やることが決まるとスッキリした。

本来俺はこういうタイプだ。悩むより動く方がずっといい。


「クレイグ、スープは飲んだのか。」


考えが纏まったところで再びマークス先輩が来た。

この人スープの話題ばっかりだな。


「はい。」


俺が振り返ると、手をメガネに添えたり離したりしながら次の言葉を紡ぐ。


「あまり気にするな…きっと見つかる。あの魔女なら殺しても死なないだろうし。」


「………先輩、そういうの苦手なんだから無理しなくていいですよ。」


慣れないことをするもんだから落ち着かない様子で視線をさまよわせている。


「お前、人の気遣いを………。」


知的そうに見えてそうでもない先輩の励ましは意外と緊張がほぐれる。


「ありがとうございます。…俺、ちょっと行ってきますね。」


勢いをつけて立ち上がり、自分の馬の元へ行き飛び乗った。


「なに? 何処へ行くんだ……おい、クレイグ!」


「あいつもそのうち帰って来るでしょうから、受け入れ体制でも整えようかなと。夜明け前には戻ります!」


言うだけ言って馬を走らせる。勝手な行動だが、ランドルフ隊長は結構俺に甘い。上手くやればなんとかなるだろう。


あれはミスティアの苦手なタイプだろうから、嫌な顔するだろうなぁ……と内心面白がる気持ちに調子が戻ってきたなと思いつつ、ここから俺の町までの結構な道のりを急いだ。




主人公が熟睡中なので、次回もクレイグ視点です。


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