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魔女様は攻略しない  作者: mom
第2章 ミスティアとノア
32/113

30 解放する



「てめぇら、やってくれたな……!」


続いて盗賊が二人現れた。

まだ出てくるのか。

本当に、倒しても倒しても湧いてくるわね。可愛げがない分、あの蜘蛛の魔物より不快だわ。


「早く行けば。」


「いや、俺がやる。」


角の男は私と盗賊の間に立って動かない。

そこに立たれると盗賊の位置が掴みにくいんだけど。


「あなた怪我もしてるし、無駄に消耗したら保たないわよ。子供達を助けたいんでしょう?」


手の甲で背中の、矢を受けた時の傷の辺りを軽く叩くとビクリと動いた。あら痛かったかしら。


「二手に分かれたらあいつら多分私を追ってくるから、行ってきなさいよ。早くしないと追いつけないわよ。」


予想が外れて角の男を追いかけても責任取らないけど。


「でもこれ以上、不本意なことをさせたくない。」


「え?」


何の話?


「傷付けたくないのに、攻撃なんてしなくていい。」


もしや、私が盗賊を殺さないようにしてるから私のこと凄く優しい人と思って………る?


「……あのね、私はそんな平和主義者じゃないわ。思った通りに攻撃出来ないのが嫌なだけ。」


だって幾ら悪者でも地獄の苦しみを味わえ! とまではなかなか思わないし、骨折程度にお仕置きするつもりで腕取れちゃったらこっちも気分悪いし嫌でしょ?

そう思って角の男を見上げると悲しげながらも優しい笑みを向けてくる。

え? 今のセリフにそんな微笑ましい要素あった?


「相談中のところ悪いが、お前に選択肢はないよ、ノロマ。」


盗賊の頭がおもむろに鍵を出して見せた。


「お前の口輪の鍵だ。これがなければお前はそのうち飢えて死ぬ。」


そう言ってその鍵を崖の方に向かって放り投げた。暗くて見え辛いが恐らく崖下に消えた。

角の男は何か考えるように固まっている。


「ああ、安心しろ。合鍵は国に戻ればちゃんと置いてある。そのお嬢さんを連れて戻れ。」


成る程ね、死にたくなければ従えってやつね。

でも従わないでしょうね。だってコイツ、


「────俺は野垂れ死んだって構わない。元より命に代えても、この人と残りの子供達を解放するつもりだ。」


…え、そっち?

何その主人公みたいな壮大な覚悟……


「はっ、急にえらく善良になったもんだな!まぁいい、それならそれで面倒だが再教育するまでだ。」


目の前で凄くシリアスな場面が繰り広げられている。あからさまな悪党と死を覚悟で立ち向かうダークヒーローみたいなこの世界とはジャンルが違う感じの構図が出来ている。

いや、そんな重い決意しなくても………死なないでしょ。その口枷外せるわよね?


「………何をしようと、俺はもう従わない。」


外せないものだと、思い込んでいるのだろうか。

どこかで道具を使えば鍵をこじ開けるなり壊して外すなり出来るだろうし、この男の怪力なら自分で破壊できる可能性もある。

鉄か何かで出来てるし、金属まで素手で壊すのは厳しいかもしれないけど。


「気取りやがって…ノロマの分際で!」


盗賊の一人が得物を手ににじり寄る。

どうしようかな………命令されたと言っても私の脱出計画を邪魔した奴だし、今じゃなくてもこの件が片付いてから警備隊にでも頼めばいいし。


はぁ……この男の背中の怪我、さっきは無かったのよね………。

私が寝てる間に出来た傷なのよね………。


「頭下げて。」


得物を構える盗賊を警戒してそこから目を逸らさず私の視界に立ち塞がる、血塗れの大きな背の横に回り込みその重そうな頭に手を伸ばす。

戸惑いながら近づいてきた、身長差のせいで届かなかった頭の後ろに手を回す。


「そんなもの、律儀にずっと付けてることないわ。」


口枷の留めの部分を魔法で覆った手で掴みそこに魔法を流すように力を込めると、音を立ててその部分が砕けた。

やってから気付いたけど、これ失敗したら頭がヤバいことになるわね。失敗するつもりはなかったけど。


「何だと?!」


破壊されてそのまま地面に落ちた枷を見て声を上げる盗賊の足元に雷をぶち込む。

残り二人か………。


「頭も軽くなったことだし、ここは私に任せてさっさと行ってきて。」


角の男を促すがまだ固まっている。

さっきから何回も行けって言ってるのに全然言うこと聞かないわね。

ノロマって呼ばれてたけどあれ絶対本名じゃなくてあだ名だわ。


「復讐がしたいのなら別にあいつを叩き潰してから行ってくれても一向に構わないけど、あなた違うんでしょう?」


あ、少し反応した。


「ごめん、俺…」


「見くびらないで。害虫駆除は得意よ。」


意を決したのか、ようやく動き出した角の男を横目で見て盗賊に向き直る。

さて、正直かなり残り体力がギリギリというか、ゲージが赤い感じだ。雰囲気に乗せられてかっこよく見送るセリフを言ってみたけど………見くびらないで、って何だ。言わなきゃよかった。


「あ、待て………!」


「いい、追うな。あいつを逃したのは惜しいが、こいつを捕まえれば問題ない………。」


予想通り角の男は追わないわね。


あと二人も足を爆発させるのは厳しい。

威力を落とさない分体力を使うし、感覚的には一人攻撃したあたりで動けなくなりそう。何とか二人分いけたとしてもその時点で動けないので場合によっては盗賊に返り討ち、それでなくてもこんな森で一晩転がっていたら野生動物のエサだわ。

ブラフでさっき一人やったけど、今魔法を使わないってことは使えないんじゃないかとバレるのは時間の問題………。


───プランD (ただしA~Cは存在しない) しかないわね。


「ちっ、逃がすか!!」


今度は威力を低めにして、その代わり精度は適当になった魔法で二人まとめて攻撃してその隙に逃げる。確実に足を潰せる訳ではないから復活するけど、それなりに怪我はするでしょう。動けない間に逃げよう。


「…っくそ……!」


しかしプランDには誤算があった。

一つは盗賊の頭がよろめきながらも根性で追いかけて来たこと。

一つは裸足で森を走るのはかなり足が痛いこと。


待って待って。

普段しないお節介をして………「俺に任せて先に行け」…………退場しそうなのは私だわ。



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