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魔女様は攻略しない  作者: mom
第1章 そして少女は魔女となる
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02 定住する



昼過ぎになって降ろされた場所は古い山小屋の前だった。


《古いがまだ使える筈だよ。》


この小屋はザッハが昔仲良くしていた老人が住んでいたものらしい。魔法について調べていた魔法マニアのおじいちゃんらしく、結構前に亡くなっているとのことだった。


「お邪魔しま~す…」


そろりと扉を開けると木のテーブルと椅子、そして炊事場だけの簡素な部屋と、次の部屋へ続くドアが目に入った。

トイレについてはお察しください。


《私しか入らないから埃が溜まっているだろうが、良ければ好きにしなさい。》


「所有権とか大丈夫なの?」


《彼には子供はいなかったから。私もこの通り勝手に使っている。》


そう言って部屋の隅の良い感じの絨毯の上に丸まった。ザッハってナイスミドルと思いきやお茶目ね。

それならまぁいいか。


「こっちの部屋は寝室ね。」


ベッドがあって良かった。

まずは掃除した方が良さそうだけど……布がないわね。


「ねぇザッハ、このシーツ雑巾にしても良いかしら。」


《好きにしなさい。》


魔法マニアおじいちゃんには悪いけどこの年季の入ったシーツは犠牲にさせてもらうわ。

ちなみに新しいシーツは家から持ってきた宝石類を売ったお金で買うつもり……どこで売るとか全然考えてなかったわ。

売るにも買うにも町に行かなきゃならないし…面倒ね。


「この近くに町ってある?」


《今日は疲れたから、また明日連れて行ってあげるよ。》


まるで手を挙げるように、尻尾をぱたりと振って答える。

そりゃ私を乗せて何時間も移動してたものね。


「じゃあ水場は近くにある?」


《ここの裏手を少し行ったところだ。》


シーツを引き裂いてからザッハに言われた方に歩いて行くと水が湧き出ているところがあった。

滝のように出て、その下が川になっている。

やった!なんか水が綺麗そうだから気分的に嬉しい。


水汲みついでに顔を洗って、水面で自分の様子をチェックする。

……なんかゲームのヒロインと違うわね?

髪型はヒロインと同じく肩下辺りまで伸ばした銀髪で、ゲーム開始時より少し長いくらいだが年齢も相まって切り揃えた前髪が幼く見える。

それはいいのだが、目つきが全然違う。

ヒロインは優しそうなパッチリおめめだった気がするが………ツリ目だ。

というか目ヂカラが凄い。水面でぼやっとしてるにも関わらず赤紫の瞳が光を受けてところどころチラチラ銀に光って、刺すような眼差しである。


「…この目どうなってるのかしら。」


普通ありえない色よね…すごい色。

今まで鏡で見ても全然気にならなかったけど。


────今考え方が前世に寄ってるわね?

顔付きもだし、闇パワーにしたって完全に前世に引っ張られてる気がする。

前世では不本意ながらサディスト扱いされていたし(学生のノリであって本当のサディストではないわよ、断じて)優しくて健気なゲームのヒロインの性格とは全然違った。

前世寄りなら守りのパワーより破壊のパワーに目覚めてもおかしくないわ。

……前世の私がヤバい奴みたいになってるけど違うからね?ヒロインの設定が聖人すぎるだけだから。


気を取り直して小屋に戻るとザッハは寝ていた。

起こさないように大人しく拭き掃除をして、一つ目の部屋を綺麗にした頃にはもう夕方になっていた。


「疲れた…」


拭いても拭いても埃が出てくるからどうしようかと思った。うっかりはたいたら埃まみれになるし…着替えもないのにどうしたものか。

明日町で買えるといいけど。


《…綺麗になったね。》


「あら、おはよう。」


起きてきたザッハは部屋を見回すと少し懐かしそうだった。


「向こうの部屋と貴方が寝てた所は明日にするわ。そこはそんなに汚れてなさそうだけど。」


《では頼もうかな。》


任せて、とドヤ顔したところでお腹が鳴った。

めちゃくちゃかっこ悪い。


《少し待っていなさい。》


ザッハは赤面している私を置いてスッと出て行くと、数分後に鳥の魔物みたいなのを咥えて戻ってきた。


「…き、気持ちはありがたいけど……」


《好き嫌いはいけないよ。》


いや、好き嫌いもするけど!親戚宅のしなびた野菜オンリーメニューも正規ルートから逃げた理由の一つだけど!

魔物丸ごとはちょっと!!


「私捌けないし……火も使えないし…」


これからの山小屋生活を思うと憂鬱だわ。

せめて火事にちなんで火の魔法にでも目覚めていれば調理が楽だったのに…どうせ料理できないけど。


《……仕方ないな。》


ザッハはやれやれという感じで調理台に登ると暴れる鳥を千切ったり血抜きしたりなんやかんやして数枚の刺身状の肉を寄越した。

なお途中の工程はグロかったのでほとんど見ていない。


「……どうも…」


骨に残った肉を齧りながら満足そうなザッハに返すことも出来ず、渋々食べた謎の肉の味はよく分からなかった。

お腹壊したりしないだろうな…

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