表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女様は攻略しない  作者: mom
第2章 ミスティアとノア

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/114

27 羨望する



鍵の壊れた扉から外に出て魔法で盗賊の男の足を狙う。単に真上から落とすのと違い、足を狙うとなると少しコントロールが難しい。

恐らく人間は蜘蛛の魔物よりも防御力が低いから……このくらいで十分か?


「ぐぁあぁぁっ!」


脛の辺りに当たり男が地面に蹲る。

与えたダメージを確認してる暇はなさそうね。叫び声で散っていた盗賊たちが戻って来る。急がないと。


「そこの魔獣も、逃げるなら勝手にしなさいよね。」


目を合わせると魔獣は鍵の開いていたドアに体当たりをして一目散に出て行った。

子供達の方は驚いた様子を見せるが怯えるだけで逃げる気配は無い。まぁその方が都合が良いわ。私が逃げる確信ないのにこの子達が逃げ切れるとは思えないし、捕まって酷い目に遭っても責任は負えない。元よりこっちに撹乱役は期待していない。


「お、お前何をした………?!」


脂汗をかいてこちらを見上げる盗賊を無視して出口がありそうな方に走る。右の靴がないから足が痛い…


「魔物が逃げたぞ!」


「追いかけろ!」


行く先に見えた階段の方から声がする。あの仔馬は上手く逃げおおせたらしい。あっちが出口ね。


「おい、ガキが外に出てるぞ!」


げっ、見つかった。


「見張りはどうし────っ!」


視界に入った盗賊3人の足元に横薙ぎに雷をお見舞いする。残り何発撃てるか……走る体力も残しとかないといけないのに。


「痛ってぇ…! これ魔法じゃねぇか?!」


「早く来てくれ!!」


騒ぎを聞いて階段の方からも数人戻って来た。

なんでこんなに戻って来るの?!魔獣の方に行きなさいよ!


「お前ら何してる、早く捕まえろ!」


頭まで出てきた。

…これ全員倒さないと帰れないの? クソ企画じゃない。


「しかし、こいつ魔法のような妙な技を────」


「だからだろうが! こいつは目付け物だぞ…死んでも捕まえろ!」


あぁ、魔獣よりも私の方が珍しいものね。

あの馬を囮にするどころか私が良いエサになってるわ。

石を投げようとしてる奴もいるし、全て対処するのが難しくなってきた。燃費が悪いからバリアは使えないし、早く片付けないと詰むわね。


「うぉおぉぉっ……!」


私が構えると同時に、私の攻撃を警戒して遠巻きにしていた奴らも意を決したのか四方から一斉に向かってくる。

なんでここでこんなに統率された動きするの?! どれから攻撃すれば、いや、狙っている余裕はない、体力が十全じゃない中で無駄撃ちも出来ない。

考える間も無く近付いた者の足元を片っ端から攻撃していく。


「──あっ────。」


放った魔法の一つの狙いが逸れ、襲って来たうちの一人の頭部を貫いた。

雷を受けた盗賊たちが足を押さえ膝をつく中、その一人だけ動かずそのまま地面に伏している。


…………死んだ?

時間が止まったような感覚に陥り、いつだったかジルが言っていた、この魔法は殺す気がない相手に使うなという言葉が蘇った。

…殺してしまったのか、確認しないと。

────いや必要ない、重要なのは周りの盗賊が今は全員立ち上がれないということ。盗賊が死のうが仕方ない。確認なんてするよりも、今のうちに逃げないと。


「こんなモノ見たことがねぇ…お前は何なんだ?!」


後ずさる私の耳に興奮した声が響く。

そうだ、こいつは一斉に襲って来た中に居なかった。


「てめぇら早く立て、くそっ……!」


盗賊の中にはダガーを手に立ち上がろうとする者もいる。頭に攻撃したいがそいつらが邪魔をして思うようにいかない。

盗賊の頭は、目の前で転がる手下達を見回してから、私を取り囲む集団から離れたところにいた角の男に向けて叫んだ。


「ノロマ、あの化け物を捕まえろ!」


角の男はボーっとした様子で檻のあった方からこちらに歩いて来ていた。

盗賊の頭がその背に回ると角の男を急かす。


「早くしろ、このノロマ!!」


私は立ち上がりかけた盗賊に追加で一撃食らわせてから声の方に向き直る。頭を攻撃するには今度は角の男が邪魔だ。

上から落とせば後ろにいる頭にも当てられる。でも加減を間違えたら殺してしまうかも…


汗が背を這う感覚を不快に思いながらも頭に向けて手をかざす。

悪人が死のうが問題ない、早くしないと私が危ない。……でもこの角の男は?

今は杖がない。もしこの状態で狙いがズレれば角の男が死ぬんじゃないだろうか。こいつは盗賊たちのような悪人とは思えない。

────いや、角の男が悪人じゃないかどうかなんて関係ない。盗賊に従わされてるだけだろうが、私が縄を切ったのを隠そうが、魔獣を殺すのを躊躇っていようがそんなものは知ったことではない。

コイツの為に捕まるような自己犠牲は持ち合わせていない。持っていたら今頃素直にヒロインやってるわ。


「早くしろ!!」


迷っている間に、頭に檄を飛ばされた角の男が向かって来た。咄嗟に捕まらないよう離れるもバランスを崩し後ろによろめく。


攻撃の機会を失ったことに半ば安堵する自分がいた。

本当は分かっているのよ。悪人を殺したかもしれないと狼狽える私が、善人かもしれない奴を殺すリスクなんて背負えない事は。


魔法を使い過ぎたからか、踏ん張りがきかない身体はそのまま重力に従って傾いた。


「……っは…」


背中を地面に打ち付けられ息が詰まる。

痛む背中と裏腹に、先に着地する筈だった頭には衝撃は無い。

頭の下にある角の男の大きな手の感触に怒りとも嫉妬ともつかぬ感情が私の中を巡った。


この男は私と真逆だ。

敵を気遣う余裕が、相手を制圧しながら思うように手加減をする実力があるのに、望まぬ事をしているのだ。

私の望むものを全て持っているこの男は、それでも盗賊に逆らえないらしかった。

口枷の陰から覗く澄んだ瞳が心配そうに揺れる。なんて、ずるい。


「……………なんで、」


私の体にするりと跨り地面に投げ出されたままの両手首を上から抑えつける男に苛立ちを覚える。

いっそこの力で悪虐の限りを尽くす非道な存在であれば脳天に黒雷を幾らでも落としてやるのに。優しさなんて見せないで欲しかった。こういう中途半端な奴が一番やり難いのよ。そんなもので迷う私が甘いのだけど。

大きな体躯に阻まれ頭の姿は捉えられない。本当は誰も殺したくない。

床に押し付けられている自分の手首が震えているのがわかる。怖くて、悔しい。


こうしている間にダメージの少なかった者から復活してくる。もう残り体力で全員は倒せない。


「そんな悲しそうな顔で押さえるなら、するな。」


苛立ちのままにそう吐き捨てた私に、角の男の優しそうな瞳がまた揺らめいた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ