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魔女様は攻略しない  作者: mom
第2章 ミスティアとノア

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26 強行する



さっきは色々あって折角檻が開いたのに逃げ損ねた。檻を壊す分の体力を省エネ出来るチャンスだったのに。


今もそこで三角座りをしている角の男。

この男は多分他の誘拐犯──盗賊達とは立場が違う。命令されていることから立場は下、そして自ら盗賊をやっている訳ではない。

私が縄を解いたのを隠したのは、恐らくそこでリンチされた末に転がっている少年の二の舞にしないようにする為だろう。


「ノロマ、飯の時間だ。」


角の男の前に小さいパンとスープの入った皿が置かれ、鍵で口枷が外された。思ったより顔つきが幼い……もっと大人かと思ったわ。


「さっさと飲め、お前は本当に鈍いな。」


その図体にその量は絶対足りないでしょ。私でもその5倍は欲しいわ。

お腹空いたわね………ジルはどうしてるかしら。探してくれてるかしら。疲れたから甘いものが食べたい。無事に帰ったらお菓子をリクエストしよう。


角の男が食事を終えると、再び口枷が嵌められた。金属で出来ていて鍵以外では外せそうにない。

亜人と言っても角があるだけで顔は普通の人間と同じなのに、狂犬がするようなごつい口枷をしているのは変だと思ったら…そういうことね。

食事制限で従わせてるのかしら。角があるし、ミノタウロスとかそういう系の、パワー系の亜人っぽいわ。


「そろそろ北に行ってる奴らが帰って来る。商品を運ぶ時は呼ぶから、それまで待機だ。」


まだ盗賊がいるのね。

檻が開くのは新しく子供を入れる時、もしくは私達を別の場所に移す時……

次に檻が開いたら、他の誘拐された子供達には悪いけど一先ず私一人で脱出させてもらうわ。

盗賊全員足を潰せば私がどんなに走るのが遅くても逃げられるでしょう。人間に魔法を使うのは初めてで加減も分からないから気が引けるけど……相手は盗賊だし足の一本や二本や三本、もげても爆散しても仕方ないわ。


助けを呼んで来るから悪く思わないでね、とパニック映画で抜け駆けする奴のようなセリフを心の中で唱えつつ機会を待つ。

私が逃げたからってこの子達に皺寄せがいくようなことはない…わよね、多分。


────そんな心配より自分の心配をしないと。今が何時にせよ、もう暗くなってる頃だろうし、すぐ近くに村や町があるとも思えない。

ここから外に出られても保護されるまで気は抜けない。


一晩隠れることになるのを想定して気を滅入らせていると、急に向こうが騒がしくなった。


「お前ら、すぐ出る準備をしろ!」


「は?出発は夜中じゃないのか?」


他の場所に盗賊稼業をしに行っていた奴らが戻ってきたようだ。何やら慌てたように声を荒げている。


「近くの村に警備隊の奴らが来てたんだ。何か聞き回っていたぞ。」


「ふん…魔物退治しか能がねぇ奴らかと思っていたが、意外と鼻が利くようだな。」


でかした警備隊!!

これなら逃げた後何処かで警備隊に会えそうだわ。移動するのなら檻が開く。出るならその時ね。


「頭に報告してきた。もう日も落ちたし、ここがバレる前にさっさとズラかるそうだ。」


「ガキどもを荷台に詰める、馬車の準備をしろ。」


「は、はい!」


リーダーらしき男が手下に指示を出していく。

そして指示を受けた手下がそれぞれ蜘蛛の子のように散った後、残った角の男の顔を手でなぞり上を向かせた。


「お前には大事な仕事がある。」


座ったまま盗賊の頭を見上げる男の表情は大きな口枷が邪魔をして見えない。


「その魔獣を出来るだけ綺麗に始末しろ。」


その魔獣……向かいの檻に入っている生き物に目を向けると、一本角の毛の長い黒い仔馬かそれに近いものが唸り声をあげていた。ユニコーンみたいで可愛いわ。黒いし凶暴そうだけど。

たまに暴れていたのはこの子ね。黒いから何か分からなかったけど今は盗賊の頭の持っている灯で輪郭が浮かび上がっている。


「えっ、殺しちまうんですか勿体ない。」


近くをバタバタと荷物を持って動いていた男が反応した。そうか、檻に入ってるってことは私達と同様に売り物…


「目立つ訳にはいかん。暴れると手間がかかる上に移動に邪魔だしな。出来ればこのまま売りたかったが、素材だけでも十分金になる。」


「なるほど!」


偶に現れる何かの動物に一本角が生えたような魔獣…どんな動物にせよ角は薬の材料になる、とかいう都市伝説もあったわね。珍しいから金の余ってる変人が買うってのもあるか。


「始末したら内臓と毛皮を剥いでおけ。角は傷付けるなよ。」


角の男に鍵と鉈のような刃物を渡すと、頭は去って行った。もしかして今から目の前で解体ショーが始まるの……?

そんなもの見たくないし聞きたくないんだけど。魔物を殺せてもバラす系は駄目だわ。こちとら牛を美味しくいただきながら牛が死ぬのは可哀想とか平気で言える現代っ子なのに。

他人がやる分に口出しする程ではないけど、見てないところでやってて欲しいわね。


角の男に至っては殺すこと自体躊躇しているのか、頭と入れ替わりに様子を見にきた別の盗賊に急かされてようやくガチャリと音を立てて檻の鍵を開けた。


「お前なら多少くらっても頑丈だから問題ないだろ。さっさとやれ。」


促され檻の中に入った角の男は鉈を左手で強く握り、唸る魔獣と向き合った。

遠目で見て分かる程に力を込めて握っているのもあってか、小さく震えているように見えた。


押さえつけようとする角の男と対抗しようとする魔獣がお互い動きを窺っている。そろそろ血を見そうなので凝視するのはやめようとしたところで、ザッハの念話?程ではないが、目の前のこの魔獣の声が小さく、しかしハッキリと聞こえた。

やめろ、死にたくない、と少年のような声で叫ぶように訴える。


あぁなんでこんなもの聞こえるのかしら。

見てないところでやる分には構わないと言ったけれど、意思疎通が出来る相手なら話が変わるわ。

ツノが自分の誇りだとか、死んで誇りまで奪われるのは我慢ならないとか、そういう事情は私には関係ない。聞いてもいない設定や悲壮感を私の頭の中にガンガン流し込んで来られても困る。そういうのは目の前のツノ仲間にでも伝えて情に訴えなさいよ。そいつ多分そういうの弱いわよ。


ガン、ドン、とどちらかが壁や鉄格子に当たる音が響く。私の期待は虚しく、続行しているらしい。

魔獣の声も引き続き流れ込んでくる。

助けることが出来るのにそれをしないのは、何故だか悪いことをしているような気になる。可能だからってデメリットを負ってまでする義理なんてないのに。

私は聖人じゃない。


「………あぁもう…」


もう一度考えよう。

予定ではこちらの檻が開くのを待って、檻を壊す分の魔法を節約、そのまま追手を攻撃しつつ逃げる筈だった。

脱出を早めて今決行した場合、魔法は節約出来ないけどあの馬が助かる。

……結構重要商品らしいあの馬を逃がせばいい囮になって追手が分散するだろうし、私の相手する数も減る。そう考えたら魔法の一発くらい安いものね。


どうせ私は策士でも何でもないんだから、計画が多少変わろうが同じことよね。

せいぜい私が逃げる助けになるがいいわ。


「な、なんだ?! 鍵が……」


横になった体勢から上半身を起こし檻の鍵の辺りに雷を落とすと、音を立てて鍵が壊れた。

檻の前で魔獣の方を見ていた盗賊が気づいて振り返る。


状況が動いてみると、もっと良いタイミングがあったんじゃないかとか先に盗賊を仕留めれば良かったとか脳が今更なことを考え出すのって嫌な現象ね。

始めたからには、やるしかないわ。



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