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魔女様は攻略しない  作者: mom
第2章 ミスティアとノア

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24 若者は白状される



「いや~、凄かったな! 」


「魔女って言うからどんな化け物かと思ったが、綺麗な子だったな。歴戦の戦士みたいな目つきだったけど。」


ミスティアの実演会が終わり帰る道中、警備隊の先輩達はさっき見た魔法の話で持ちきりだった。好き勝手に盛り上がっている。


「確かに。俺は一度王国騎士団長を見たことがあるが、雰囲気が似ていたな。淡々と魔物を処理するところとか。」


騎士団長と雰囲気が似てる子供ってイヤだな。


「しかし魔法とは恐ろしいな。俺は一対一であの娘に勝てる気がしない。」


「剣を抜くより魔法が早いからなぁ。」


あの小屋からミスティアが出て来た時は驚いたが、まさか本当に魔女だとは思わなかった。

俺はあいつの事をよく知らないが、悪い奴ではない、と思う。


小屋を後にする時、思い出したように出てきて町の骨董屋の仲介の件と隊長への口添えについてお礼を言ったあいつは余りにも普通の、人間らしかった。良い人ですよとアピールする風でもなく、そういえば助かったわと前会った時と同じ調子で言うものだからなんだか拍子抜けした。


それより俺が恐ろしいと感じたのはあの男だ。

最初に目が合った時ゾッとした。赤い瞳の奥で猫のような瞳孔がじわりと開いていた。

絶対普通の人間じゃないだろ。兄って何だよ。

確かに二人とも美形ではある。でも全く似てない。同じ要素が一つもない。

この異様な存在が、お茶を出したりと人間のマネをしているように思えて俺は全く落ち着かなかった。見た目は人間だし、人間でないなら何かと言われれば答えられない。何かの魔物との混ざり物が近いと思うが………

ミスティアは普通にしていたがアレと暮らしているのだろうか。俺からしたら正気じゃない。


先輩が魔女について尋ねている時もすごく居心地が悪かった。蛇に睨まれた蛙の心境というのはこういう感覚なのかと参考になった。

それだけこっちを威圧しておいて、抜け抜けと魔女が怖いなどと言う。

人を見た目で判断するのは良くないが、もうコイツが犯人の線もあり得るとか思っていた。正直、人かどうかも怪しいし。


そしてマークス先輩が剣を抜いた時。

あの時は本当に肝が冷えた。先輩はミスティアに怯えて気づいてないようだったが、あのヤバい目が先輩を獲物を見るように見ていて今にも動き出しそうで………

止めても先輩は興奮状態で聞かないし本当に困った。あと少しエリックとかいう奴が出て来るのが遅ければどうなってたことか。


やっぱり、あの赤目の男は危険だ。


「あの、隊長。」


「なんだ?」


先頭を行く隊長に並んで、ミスティアの家に用事を思い出したから寄りたいと伝える。他の隊員には先に帰ってもらい、一人で行くことにした。

隊長に言う前に先に自分で確かめようって辺り、俺も甘いんだろうなぁ。





「こんちは。」


小屋の前で洗濯物を干している男に声をかけると、男の赤目が丸くなった。


「こんにちは。君は警備隊の…」


「クレイグだ。ちょっと確認したい事があって。」


なんで洗濯物干してんの?

調子狂うな~。


「僕はジルベール……僕も聞きたいことがあった。」


「えっ、俺に?」


馬を降りて近寄る。

なんで俺? 俺がこいつに興味持たれるような事あったっけ…まぁいいけど。


「とりあえず君の用事をどうぞ。」


ジルベールは用事をしながら、空いた手でどうぞと促してくる。こうしていると普通の人間らしい…が、隙が全然無いのがやっぱり変だ。


「あぁ、アンタはミスティアと暮らしてるんだよな? なんで?」


「それはほら、兄ですから。」


「兄じゃねーだろ。」


腹違いとか言われても信じられないレベルで似てないぞ。ほら全身見ても─────


「やっぱりバレるよね~。警備隊がいるとき限定で兄妹ごっこも楽しそうだったんけどな。残念。」


「おいお前……一体何者なんだ?」


「ん~、同居人…?」


「そうじゃなくて、それ…」


背後に揺れている尻尾を指差すと、ジルベールは振り向いて尻尾を掴んだ。


「あ~、出してたの忘れてた。急に来るから…魔女様に怒られちゃうじゃん。」


ゆ、緩い……

俺の緊張とは逆に緩すぎる。見られてはいけないものを見られた奴の反応じゃないだろ。


「お前、人間じゃないよな?」


「まぁね。」


何開き直ってんだコイツ。


「……俺は正直お前がヤバい奴じゃないかと思ってる。何を企んでる?」


本当にヤバい奴だったら消されるかもしれないが、ここまできたらハッキリ聞こう。

尻尾も見てしまったことだし。


「企む? もしかして、僕が魔女様と一緒にいるのは利用しようとしてるとかそういう妄想?」


「妄想?!……お前みたいな尻尾生えた奴疑うのは普通だろ!」


「僕はたまたま魔女様に召喚されてスローライフしてるだけのただのしがない悪魔だよ。」


「は?!」


悪魔と魔女とか組み合わせが最悪過ぎて惨劇の幕開けの匂いしかしねーけど?!

たまたまで組み合わさっちゃダメなやつだろ。


「やっぱり君もまだ子供だもんね…魔とかいう単語聞くと壮大な野望とか計画とか悪の組織とか妄想しちゃうよね、わかるわかる。」


慈しみの表情を向けてしきりに頷いている。

なんかよく分からないがすげームカつくな…


「…お前こそ、悪魔って何だよ……空想の産物じゃねーの。」


「僕もよく分からないけど悪魔だったんだよね。いろいろ尖ってるし、羽はないけど空も飛べるし。」


あ、空を飛んでたってのコイツか!!

魔女のごたごたでその辺全く確認してなかった。ミスティアは飛べなさそうだったもんな。


「ところで僕の話だけど。」


今の会話の間に洗濯物を干し終わったジルベールはこちらに向き直った。

ジルベールも話があるんだったな。動揺しすぎてすっかり忘れてた。

つーか俺の話解決してないんだけど。


「君、ミスティアのことよく知ってるの?」


「へぁ?」


聞きたいことってそれか?


「名前知ってたよね。最初来た時…」


「あぁ…町で知り合って話したからな。名前と9歳ってことくらいしか知らない。」


町で会っても買い物付き合っただけだしな。

よく考えたらミスティアって家を抜け出して来たみたいな格好だったり貴金属持ってたり最初から謎が多かった。


「今は10歳だよ。」


「あ、そう。」


なんで得意げなんだコイツ。

ん? 待てよ、もしかして……最初目が合った時すげー睨んでたのはそういうことか?!

喋ってる時もガン見されてたし…


「…お前ミスティアのこと好きなの?」


「…え?」


「え?」


聞いた直後に、今俺余計なことしたなと漠然と感じた。

ジルベールは一瞬驚いたように目を丸くしてあの細長い瞳孔を僅かに動かした後、真っ赤になって固まっている。


「そうかもしれない…」


こ、これは……弟(当時7歳)に好きな子が出来た時に指摘した時と同じ反応………


「マジかよ…」


「いや、ずっとそうかな?とは思ってたんだけど…」


両頬に手を当てて視線を下の方に落としている。その間尻尾がねじり上がりながら天に向かって伸びていた。


「でも、魔物に攻撃してる時のミス…魔女様にときめくのって普通だよね?」


「いや、普通じゃない…かな。」


さっき見てきたけどスゲー楽しそうな凶悪な顔してたと思ったら急に真顔になって怖かったぞ。


「じゃあ…恋……?」


「真面目な顔で何言ってんだよ…」


予想外の反応のオンパレードだわ。

なんかコイツかわいいな?


「でもそれだとやっぱり一目惚れだったことに……見た目で一目惚れって不誠実じゃないかなぁ?」


女引っ掛けまくってそうな外見の悪魔の吐く台詞とは思えねーな。


「俺に相談すんなよな。俺年下だぞ。」


「それ言ったら僕相談相手いなくなるから。」


「お前一体いくつなんだよ…。」


100、200……と真剣にブツブツ数を考え出した。かなり年とってそうなのでもう聞かないでおこう。


「ミスティアの見た目に惚れた訳? 顔だけ? 性格は?」


「性格も好き………。」


「じゃあ不誠実じゃねーんじゃ?」


照れながらシャツの裾をいじくっている。女みたいな反応する奴だな。

年の差が凄いことになりそうだけど本人がいいならいいか。


こうして俺がジルベールに対して気を緩め始めた頃、昨日爆弾発言をして場を混乱させた……確かエリック、そう。エリックが村人の操る馬に乗って駆けてきた。


「ま、魔女様、戻ってませんか。」


息を切らして只事ではない様子で尋ねてくる。

俺たちが出発した時まだ村の付近にいたミスティアが、徒歩で今ここに戻っている訳がない。


「…村に帰ったんじゃないのか?」


「集会所に居た痕跡はあったんですが、お姿が見えず……」


「付近を探してみたのですが、どこにもいらっしゃらないのです。」


村の男の方も青い顔をしている。

まさか、でも、警備隊がこれだけ近くにいて、いや……急に来たんだし俺たちも村には入ってない。それに、あの時村は無人だったんじゃないか?


「痕跡って?」


「水を流した跡と、これが………」


そう言ってエリックが差し出したのはさっきミスティアが振っていた杖と、片方だけの靴だった。


「……………何で、」


一瞬時間が止まったような錯覚に陥る。

犯人の手掛かりは掴めていない。さっき誘拐されたのなら、馬だとして距離はどのくらいだ、いる可能性のある範囲は…いろいろなことが頭の中を廻り最後に後悔がよぎった。

───やっぱり俺が送って行けば良かった。


「───上から探してみる。今の話、ザッハさんにも伝えておいて。」


さっきまで赤面していた男の冷たい声に我に帰る。ジルベールはエリックを一暼すると地面を蹴って空に飛び出していった。

エリックはそれに驚くも、すぐに馬を降りて動き出した。


「……俺は、警備隊を追い掛けて報せてくる。」


近くで事を起こされた不名誉も、油断に対する後悔も。

全ては出来ることをしてからだ。



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