22 弁明しない
「どういうことだ、ミスティア。」
クレイグが緊張した面持ちでこちらを見つめる。センター分けに至っては剣に手を伸ばしている。勘弁してくれ。この警備隊は脳筋そうだしナメていたけど、脳筋な分思い込むとヤバそうだわ。
今脳内シミュレーションしたところ、早く弁解しないとセンター分けがはやって私に斬りかかり ①驚いた私に雷でやられる、もしくは ②隣で様子を観察しているジルにやられる、③掛けた布から半分はみ出してこちらを見ているザッハに飛び掛かられる……という未来が見えた。
どう転んでも警備隊と衝突すること待ったなし。
一番怖いのは①のパターンで、私がうっかり殺してしまうと目も当てられない。警備隊殺しの魔法使い(闇)なんて討伐案件である。
乙女ゲームのヒロインからアクションゲームの敵モンスターへのジョブチェンジ。なんて夢のない。
とりあえず話を聞く気がありそうな知り合いがいることが救いか。
エリックの発言のせいで私が疑われているのは確定的に明らかだし頭痛が痛いわ………!
「待って、説明するわ。とりあえず、そっちの方は剣を収めていただけませんか?」
机に肘をついて額を支えながらまずは討伐ルートを回避。
センター分けは思ったより素直に座り直し、気持ちを落ち着ける為なのかさっき出された紅茶を飲んでいる。魔女に出されたお茶を飲むなよ。
「あの、私何かまずいことを言いましたか…?」
ダメ信者エリックは状況がわからずドアの前でつっ立っている。まずいことしか言ってない、言ってないよエリック君。
「…キミは今、魔女と言ったね? この少女は魔女なのか?」
「え、はい………」
こうなった以上、魔女じゃないで通すのは諦めよう。問題はどこまで正直に話すか、ね。
魔法を使えることと飛んでたことは認めるしかないか。となると、ジルをどうするか。悪魔は聞こえが悪過ぎる。飛べる魔物?亜人?
「キミは何者だ? 何故ここに?」
「…エリル村の者です。魔女様にお願いがあって来ました。」
魔女様はやめろ、魔女様は。
「キミ、もしや魔女に攫われたり奴隷にされたり………ハッ、願いというのは、代わりに自分の身を差し出す類の…?!」
おいセンター分け、本人がいる前でその質問はないでしょう。
「まさか、魔女様はそんなことしません!」
そうそう。
「それに私の身はとうに捧げております。私は魔女様のものですので。」
エリーーーック!!
誇らしげに何つう事を言うんじゃい!!
漫画なら顔の横にエッヘンとか書いてありそうな顔だわ!
供物としては村に返品した筈よね?!
「おい、ミスティア……」
「何よその目は。誤解よ。」
クレイグが半目で私を見る。
エリックとクレイグどちらを睨んだものか決めあぐねている間に、センター分けが立ち上がって今度は完全に剣を抜いた。
「お、おい貴様……!子供達を何処へやった?!」
落ち着け、落ち着け。
メガネなのに余裕のない奴だわ。まぁメガネに冷静さを促進する効果なんてないから仕方ないけど。
「…先輩、まずは話を聞きましょう。」
「しかし…!」
ご乱心のセンター分けを一応クレイグが宥める。
ここは家具もセンター分けも傷付けず解決したいところ。家の中で剣なんて振り回されたらたまったもんじゃないわ。
「ちょっと! 魔女様に何てもの向けるんですか?!」
どうしたものか悩んでいると、センター分けの向ける切っ先の前にエリックが慌てて歩み出た。
「信者君が要らないこと言うからこうなったんだけどね。」
ほんとにね。
「退きなさい。子供を誘拐した魔女だ、庇う必要は無い。」
いや、してないから。…センター分けの中では私の有罪が確定しているようだ。
「私は誘拐してないわ。」
「だがその子供は────」
「ただの村との連絡役よ。そもそも、私が魔女だからって誘拐犯と決めつけないで欲しいわ。」
限りなく怪しいだけの一般人なのに。
「魔女様が誘拐犯なんてとんでもないです! どうやらかなり思い違いをされているようなので、今から魔女様についてお話します!」
「え……?」
エリックは戸惑うセンター分けの剣を除けて椅子に押し戻すと、私が村を救ったとか何とかかなり美化した話を情緒たっぷりに語り出した。
オタクの語りは長い。
1時間ほどかけて私の素晴らしさを懇々と諭されたセンター分けはグッタリしている。ただでさえ褒められるのは苦手なのに事実以上に称賛される私も白目を剥いていた。比喩ではなく割とマジで剥いていた。
要領の良いクレイグは、オタクの語りが始まって5分くらいすると外に出て上司を呼んできていた。クレイグの上司───隊長のランドルフさんは途中から入ってきてクレイグから報告を受けながらエリックの話を聞いている。
「────それから、村で作った新しい養鶏場をお見せした時はですね…」
「もういい。わかった。」
上司との話が終わったらしいクレイグがストップをかけた。コイツだけエリックの長話をほぼ聞かずに自分のことをしていたので元気そうだ。私はどんな内容を話されるのか怖くて仕方なく聞いていたので瀕死。
「つまり、この少女は魔法を使うが誘拐のような悪事はしない、と。」
ランドルフさんは上司なだけあってセンター分けとは違い落ち着いている。話が分かりそうだ。
「はい、俺もミスティアがそんなことをするとは思えません。賊の仕業の線もありますし、決めつけるのは危険かと。」
「そうだな。」
そもそも今回は魔女というレッテルが強烈過ぎただけで私が関与したという証拠や証言がある訳ではないものね。
人が死んだところに熊が出てきたらコイツが犯人!ってなるようなもので、気持ちも分からないでもないけど。
自分じゃなければ無言で雷落とす女なんて危険生物だわ。
「しかし君のことは報告せねばならん。」
でしょうね。
「報告は構いませんが、公にはしないで欲しいのですけど。」
サイコ兄貴の耳に届くのは面倒だものね。
「そうだな、その事も含めて少し話そう。」
それから少しの間ランドルフさんと話した。
その間家に入りきらないので警備隊の皆さんは
可哀想なことに小雨とはいえ雨の中外で待たされていた。
私の扱いについては今後協議するらしい。パニックになる可能性があるので国民に公表はしないだろうとのことだ。
クレイグはこの隊長にも可愛がられているらしく、クッション材の役割を果たしてくれた。また借りが出来てしまったわ。




