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魔女様は攻略しない  作者: mom
第1章 そして少女は魔女となる
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14 救済する



攻略対象どころかゲームに出てもいない人達のキャラが濃すぎて全然気付かなかったけど……確かにいた。魔物への供物にされた過去持ちが。


恐らく彼、エリックは、ヒロインの通う学園内にある教会に仕える、一つ年下の攻略対象。

幼い頃魔物に捧げられた彼を、しかし魔物は食べずに去った。彼は無事村に戻ることになるが、村人に供物にされその役目すら果たせなかったことから自己肯定感の低い人間に育つ。

きっと神に助けられたのだ、恩を返す為に生きている、そう考えた彼は教会に入りヒロインと出会い、交流を深めていく……といった感じだった筈。


その精神面の脆さをサイコ兄貴に付け込まれた無理心中(未遂)エンドや自殺エンド等のバッドエンドが多いのだが、それは置いといて。


そんなエリックが今、スチルそっくりの仕草で私の袖を掴んでいる。


「落ち着いて、袖は離して。」


突然湧いて出た攻略対象に驚くのは一先ずやめて、魔物の方に視線を移す。

まずはこれを倒すのが先決だわ。


杖を握り締めて魔物の姿を正面に捉える。

身体も大きいし、出し惜しみせず威力は強めの方が良いかしら。


「えいっ!」


少し気合を入れて杖を振ると変な掛け声が出た。エリックは魔物に必死で気付いていない。良かった。


威力は十分だったようで熊の魔物は大きく咆哮してドスンと大きな音を立てて倒れた。これは運べないわね。ダンゴムシと共に回収してもらおう。


「た、倒したのですか。」


「多分ね。念の為確かめとくわ。」


軽く雷を落としてみたが反動で動く以外はピクリともしない。大丈夫そうね。


「これが謎の魔物じゃないかしら。」


ゲームでエリックが熊みたいな魔物って言ってたし。驚いたけど、探し回らなくても向こうから来てくれて結果的に良かったわ。問題一つ解決。


「それでは、もう村は…心配事は無いのでしょうか。」


…残るはコイツね。


「そうね。」


ゲームと違い魔物ではなく私に捧げられてしまったコイツ。

だがどちらにせよ生贄として犠牲になることはなく生きて村に帰る。村人から蔑ろにされている事実も変わらない。

このままいくとゲームと変わらず教会に入るんだろうけど………ゲームと違うのはコイツが救われないということだ。


ゲームでは、他のルートでも高確率でヒロインからの落とし文句「私はあなたに救われているわ」が炸裂する。

教会で、学園でのイジメやら他攻略対象との問題やらに悩むヒロインの相談に乗ったりするコイツに放つ、ヒロインのボディブロー。このセリフが、エリックが自分にも価値を見出せるようになる契機になる。

しかし私は学園に入学しない。貴族としては死んだし席も用意されていない。


「………では村に戻って報告しますね。」


色素が薄いせいでただでさえ消え入りそうなエリックは、小さな声でそう言った。

私が救う義務はないけれどこの痩せた美少年がこの先ずっと鬱々としたまま生きていくのかと思うと気が重い。

物凄く後味が悪い。

だからと言って今あの必殺セリフを言っても何の効果もない。救ったのお前じゃん、ってなる。目の前で一人で熊の魔物を殺しといて「あなたに救われてる」とか嫌味でしかないわ。


どうしたものか。

何かゲームのセリフにヒントは無いものか。


「待って、えっと……村まで送るわ。」


トボトボと村に向かって歩き出すのを引き止め、隣に並ぶ。時間はあまりない。


誰にも必要とされない、と言っていた。

自分は意味のない存在だ、と。

居場所がなかったのかもしれない。

そりゃそうだわ。生贄にされるってことは村の中で一番死んで問題ない認定されたってことでしょ? 顔が可愛いから選ばれた可能性もあるけど……ゲームや本人の様子を見る限りどうかしらね。逆に顔が可愛いから生贄用に養われてたりね。

エリックに優しくしてあげてね、なんていう過保護な親みたいなことも言いたくないし言っても気持ち悪いだけで逆効果になりそう。

優しくしてあげようと思って出来てりゃ世話ないのよ。

それに村人に優しくされたからってコイツが幸せになれるような気はしないわね。


というか村人にはイラついてきたわ。

これ、客観的に見たら結果的に私が生贄を気に入ったから魔物を消したみたいになってるじゃない。

村人は被害が無くなってラッキーだけど、こちとら体力削ってタダ働きで魔物倒してるのに、美少年好きの凶悪な魔女とかとんだ汚名だわ。

まぁ元々そんなのいたら倒すつもりだったし素材を頂く予定だから実際はタダ働きではないんだけど。

人肉も美少年も私には何の利益でもない。

文句言ってやろうかしら。

確か町には家畜がいると言っていたし、代わりに食べ物を巻き上げるのも良いかもしれない。


「あなたを寄越したのは村長なのよね?」


「はい。」


直談判してやろう。


……話が逸れたわ。エリックの今後のことが急務だった。

意味のない存在だと言うのなら、何か役目を与えてあげればどうだろう。定年後のお父さんと似た感じで、仕事があればコイツの意識もマシになるかもしれない。

問題はどんな仕事を、どうやって与えるかだけど。


「…魔女様、村はそこです。」


着いてしまったわ。

エリックに続いて村の入り口に来ると、近くにいた村人が強張った表情でこちらを見た。


「村長は居るかしら。」


さながら責任者を出せと言う客である。





「人肉は口に合わないから、牛肉とかに換えてくれない?」


開口一番、怯えている村長に告げる。

もっと柔らかく言えば良かった。善良な人間の言うセリフじゃないわ。


「も、申し訳ございません…!牛は居らんのです、お許しを、どうか……」


よく見たらこの村長もエリック程ではないが痩せている。食糧難なのかしら。

蜘蛛の魔物に荒らされたって言ってたものね……いくらなんでも飢えているところから搾取する程鬼ではないわ。


ゲームでエリックの方が馴染みのある立場からするとこの村長は酷い奴、エリック不憫、とも思うけど、実際村人にも事情があるのだ。その点では何とも言えない。私からはノーコメント。


そんな私の珍しく真面目且つシリアスな思考を視界の丸いものが吹き消した。


「この村、卵が採れるのかしら。」


村人が卵を運んでいる。


「は、養鶏場がありますので。」


町に行くより断然近い。

ジルがお菓子をいっぱい作れる。


「たくさん飼っているの?」


「いえ、思うように行かず………魔物対策などで、人手が足りないので……」


ジルのケーキは大変美味しかった。

誕生日じゃなくても、また作ってくれないかしら。


「煩わしい魔物が出たら手伝うから、卵をこっちに回してくれないかしら。」


「も、もちろんです!この卵全て差し上げます、だからお慈悲を────今、何と?」


変な汗をかきながら平伏していた村長が顔を上げる。あ、私まだ魔物が私のせいじゃないって説明してなかったわ。異常に怖がられている。





混乱している村長はイマイチ話を理解しきれていなさそうだったが、混乱したまま卵をくれた。

年寄りだから頭が固いのかしら。


この卵は貰っておくとして、次回からはちゃんとお金か労働を払わないとね。


「村長には後ほどまた話しておきます。」


村長に説明するのに疲れた上にそろそろ帰らないと暗くなりそうなので諦めて帰ることにした私は、エリックに続きを託した。


「よろしくね。」


さて、これから魔物に関するSOSを聞いたり卵を手に入れるにはこの村と連絡を取らないといけない。


「ねぇ、これは思いつきなんだけど。」


このひ弱だが真面目そうな少年に押し付───与える仕事を思いついた。


「私とこの村の連絡手段になる気はない? 魔物についての連絡とか、卵の配達とか。」


まだ話が纏まったわけじゃないけど、成立すれば魔物の件は緊急だろうから向こうから来て貰わないといけないし。


「ぼくが、ですか。」


「嫌なら無理強いしないけど。」


薄い水色の瞳が惑うように揺れる。

やっぱり使いっ走りは嫌だったか?


「…魔女様の、お役に立てますか?」


震える声で、絞り出すように洩らした言葉は、私の反応を待っていた。


ヒロインならどう言うかしら。もちろんよ、すごく助かるわ、あなたなら出来るわ……………天使のようなヒロインなら兎も角、どれも私が言っても薄っぺらいだけね。


「役に、立って。」


ヒロインと同じ頬筋を持つにも関わらず、何故か同じふんわりスマイルが出来ない私の顔はきっと不敵な笑みを浮かべている。

傍目からは悪の幹部のような勧誘シーンに見えていないだろうか。


「……っ、頑張ります。」


なぜか涙目だけど私の笑顔が怖かったのではあるまいな?

気にしても仕方ないので、最後に今日解決出来なかった村人の誤解を解く一助をして貰おうかなと頼んで帰る。


「まずは、私が悪い魔女じゃないって、皆に伝えておいてね。」


「もちろんです。」


こうして私は迷える少年に最初の任務を与えてしまった。

与えてしまったのだ………



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