表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女様は攻略しない  作者: mom
第1章 そして少女は魔女となる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/114

12 祝福される



突然だが今日は私の誕生日だ。

そのことを思い出して朝食を食べながらポツリと呟いたところ、誕生日ケーキを作らないとと言ってジルは出て行くし、ザッハもふむ…とか言いながら消えた。

祝ってくれそうなのは嬉しいけど暇になってしまった。魔物狩りをしようにもおめでたい日に殺生をするのも如何なものかと思い、結果行く宛もなくブラブラしている。

誕生日に拘りも無いしそこまでおめでたいとも思ってないんだけどね。

でもケーキは楽しみだしプレゼントも貰えるなら欲しい。今度二人の誕生日も聞いておこう……誕生日あるのかしら。


そんなことを考えながら杖で茂みを掻き分けて歩いていると、楽器の音が聴こえてきた。弦楽器だわ。

誰か練習でもしてるのかしら…こんなところで珍しい。

そう思って木の陰から音のする方を覗くと、音の主と目が合った。


「わっ。」


バイオリンを弾いていた男の子は、私を見つけると驚いて演奏を止めた。同い年くらいかしら。

この静かで人のいない場所で突然木陰から人が出てきたらそりゃ驚くわよね。演奏に集中してたみたいだし。


「あなたこの辺の子じゃないわよね。」


私しか住んでないし。

近くの村人にしては身なりが良過ぎる。バイオリン持ってるし…どこかのお坊ちゃんが遊びに来たのかしら。


「父上の仕事で…」


父親について来たけど暇だから外に出てきたってところか。

一人で大丈夫?誘拐とかされない?


「こんなところに一人でいて大丈夫なの?」


「実は…気分転換に抜け出してきたんだ。」


大人しそうに見えて周りに迷惑かけるタイプね。


「それ帰った方が良くないかしら。この辺魔物も出るかもしれないし。」


「魔物に襲われたらその時だ。俺はもう少しここで練習していく。」


「お父様に怒られるわよ。」


「俺は俺の納得いく音が出るまで帰らない。」


うーわ頑固。

それ一生帰れないやつじゃないわよね?


「ところで君は、妖精なのか?」


はぁ?


「全然違うけど。」


真面目な顔で何言い出すのかしら…

音楽か何かのことで思い詰めておかしくなってるのか?


「綺麗だから、妖精かと。」


「何よその飛躍した発想。どう見ても人類でしょうが。」


ヒロインだから見た目は良いと思うけど。

銀髪か?銀髪が鱗粉感出てるのか?


「そうか?」


眼鏡かけて頭良さそうな顔してるのにメルヘンな脳してるのね。子供だから仕方ない…か?


「はぁ……あなたどんな曲弾くの?」


面倒だから話題を変えよう。


「…………。」


メルヘン眼鏡はしばらく考えた後、唐突に演奏を始めた。

結構上手いわね。


「上手じゃない。もう帰ったら?」


「全然ダメだ。」


「あなた卑屈ね。」


仕方ない、しばらく付き合ってやるしかないわね。

お坊ちゃんが魔物に襲われて怪我したり死にでもしたら厄介だわ。魔物がどこかに連れ去ってこの辺りの捜索でもされたら大迷惑だし。


切り株の上にハンカチを敷いて座る。

私も暇だから良いんだけど。


「ん、君はまだ居るのか?」


人に聴かれてたら恥ずかしくて集中出来ない!ってタイプか?

さっき堂々と演奏してたからそれはないか。


「邪魔かしら。」


「いや、そんなことはないが。」


眼鏡をクイッとやる。


「誕生日パーティーがあるから夕方には帰るわよ。あなたもそうして。」


「誕生日パーティー?」


「あぁ、私今日誕生日なの。」


「そうなのか。では何か曲を贈ろう。」


ロマンチストか!!

要らない!私は誕生日にギターでオリジナルソングとか歌われるシチュエーションには寒気がする性格なのだ。

バイオリンで素敵なクラシックを演奏されても困る。オリジナルソングじゃないだけマシだけど。


「さっき聴かせて貰ったから間に合ってるわ。遠慮します。」


繊細そうな坊ちゃんに要らん!とは言い難いので微笑んで優しく断っておく。


「君の為に新しく作るよ。」


さては貴様、私の心を読んで嫌がらせしているな?


「あのね、そういうの喜ぶ女の子もいると思うけど、私は自分の為のバースデーソングに感激する女の子じゃないから。」


「やはり俺の演奏では不満か。」


「ちょっともう、そんなこと言ってないでしょう。勝手に卑屈にならないで頂戴。」


めんどくさい奴ね。


「……わかった。」


眼鏡はやり辛そうに練習を再開した。

クラシックって落ち着くけど眠くなるのよね…

この世界は舞踏会で使われるような音楽ばっかりだから、久々に前世のポップスとかロックとか聴きたいわ。


「ねぇ、ちょっと弾いてみて欲しい曲があるの。」


故郷の歌、と前置いて前世で好きだった曲のうちテンポ早めのものをいくつか弾かせてみた。

軽く歌って聴かせると、一発で覚えて弾いてくれた。しかもこっちが注文をつけたら歌の部分以外の音やら間奏やらも自分で考えて付けてくれる。天才じゃなかろうか。


「良いじゃない!完璧よ!」


「………そうかな。」


照れなくても良いのに。


「もっと速くしたら面白いかもしれないわ。」


「やってみる。」


この眼鏡の坊ちゃんは褒めたら伸びる子だったようで、私に乗せられて弾きに弾きまくった。

二人して悪ノリしてしまい、息が切れてきたところで眼鏡が私にバイオリンと弓を渡した。


「つ、疲れた。」


「大丈夫?」


調子に乗ってやらせすぎたかしら。

一旦座って休憩にする。


「自分では弾かないのか?」


「少し齧ったことはあるけど……あなたみたいなレベルでは全然ないわね。自分でそれだけ弾けたらそりゃ楽しいでしょうけど。」


趣味として楽器も良いかしら。場所的に近所迷惑にならないし。

でも今は金銭的に無理ね。


「弾いてみて、俺が教えるから。」


「え、ちょっと。」


眼鏡は立ち上がると私も立たせて、背後から私の腕を操ってバイオリンを構えさせた。


「これがさっきの曲。」


横から指の置き場所を指示してくれる。

楽譜が無いので、運指だけ教えてもらえると覚えやすくていいわね。

さっき眼鏡が弾いていたのよりもかなりシンプルにアレンジされている。

しばらく練習してなんとか弾けるようになった。たまに変な音がするのはご愛嬌。


「あ、もうそろそろ帰らないと。」


弾いたり弾かせたり、熱中していたら結構な時間になっていた。

ジルが待っているかも。

眼鏡の家の人も、探していたら大変だ。


「俺ももう帰るよ。」


「ありがとう、今日は楽しかったわ。」


そう言ってバイオリンと弓を返す。


「それは、君に。」


「え? これ、高価なんじゃないの?」


お高いんじゃないの?という通販番組みたいなことを言いかけたけどオバサンくさいので言い換えた。


「どうせそろそろ腕が伸びて買い替えるつもりだったんだ。良かったら、誕生日プレゼントに。」


腕が伸びたとな。自慢か。


「じゃあ有難く頂戴するわ。」


なんと楽器GET!

さすが坊ちゃん、太っ腹だわ!

と、機嫌よく微笑んでいると、向こうの方に人影が見えた。


「あ!坊ちゃん!探しましたよ!」


恐らく坊ちゃんの執事か何かね。

危ない危ない、見つかったら私が連れ回していたと思われること必至だわ。ギリギリ茂みに隠れてやり過ごす。


「こんなところにお一人で…また練習してらっしゃったんですか?」


「あ、いや、一人では……」


眼鏡は執事の方に気を取られていたのか、突然茂みに突っ込んだ私に気付かなかったようでキョロキョロしている。

そしてそのまま執事に連れられて帰って行った。





家に帰ると、町で買ったエプロンをしたジルが出迎えた。


「おかえり、丁度ケーキ焼けたよ。」


ジルは面食いな金物屋のおばさんに大層気に入られたらしくかなりオマケしてもらい、渡したお金で必要な調理器具や食材の他にお菓子作りの材料まで揃えられたらしい。

そのおかげで今日急にケーキを作ることになっても材料が無いとはならなかったようだ。


「ただいま。いい匂いね。」


ケーキの他にシチューやチキンも用意されている。ジルによくやったと笑みを向けると尻尾をブンブン振っていた。


「そのバイオリン、どうしたの?」


「さっき森にいた子供に貰ったわ。」


「へぇ。気前良いね。」


話しながらバイオリンを寝室の机の上に置く。


「ジルは弾いたことある?」


「うん。楽器は一通りやったことあるね。」


長生きなだけあるわね。

何でも出来るんじゃないの? 最近は裁縫も慣れてきたみたいだし。


楽器の話をしながらテーブルに着くと、イカしたケーキが目に付いた。

凝視してごくり、と唾を飲み込む。


「こ、このケーキ……良いデザインじゃない。」


ホールケーキの上面にチョコで魔法陣が描かれており、その周りを囲むように蝋燭が10本立っている。カメラがあれば写真撮ったのに…


「気に入った? 僕が召喚されたやつをモデルにしたんだけど。」


「すごい!似てるわ!そっくりよ!」


「この文字のとこはかなり頑張ったよ。」


内輪ネタで盛り上がっていると、ザッハが帰ってきた。


《遅くなったね。》


「おかえりなさい。」


ザッハは私に近づいて顔を上げ、咥えていた花を突き出した。


《これを。》


「私に? ありがとう。」


誕生日に花を摘んできてプレゼントするという、男にされたら怖気ものだが動物がするとなんとも可愛らしい行為に悶えるあまり花をブンブン振り回しそうになる。


「綺麗ね。」


見たことない花だわ。遠くまで行って摘んできてくれたのかしら。


《おい、飾ってやれ。》


「はいはい。」


ザッハに促され、ジルが私の手から花を受け取り、その内一本を避け、残りを花瓶がわりにしたカップに飾った。

テーブルに戻りついでに避けた一本を短く切って私の髪に挿す。


「誕生日おめでとう。」


「キザなことするのね。」


思ったより気持ち悪くはないけど。


「ザッハさんが飾れって言うから。」


《なぜ私なんだ。》


言い合う二人を横目にそろそろ垂れそうな蝋燭を吹き消しながら、今回が今迄で一番楽しい誕生日かもしれないと漠然と思ったのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ